第19話 異変

 「冒険者共が来たぞぉっ!」


 レチュギア迷宮にやって来たギルド長マクタリーナ、キェルケ、そして俺達は、領軍であるオタカル伯爵の部隊の攻撃による歓迎を受けていた。


 「「大いなる火は我らを守りて忌敵を燃やせ、火閃イグニス!」」


 領軍がこちらへと魔法を斉射してくる。


 「【神盾イージス】」

 「【防盾シルツ】」


 俺と同行してくれているアルヴィアーナのギルド長であるマクタリーナとで防御魔法を展開する。


 「短縮詠唱できるんですか」

 「マクタリーナさんこそ」


 自分以外に短縮詠唱の遣い手を見たことがなかったので、これには少々驚きだ。

 危うく井戸の中のかわずになるところだった。


 「私は防御魔法だけですがね。強敵相手にこれなしでは厳しいですから」


 

 「研ぎ澄まされた力は処断の戦鎚、撃痕マイロナイト!」


 キェルケが手を振り下ろす動作とともに魔法によりレチュギア迷宮の入口が崩落し始めた。


 「た、助けてくれぇっ!」

 「ど、どうして崩れるのだ!?」


 迷宮の入口を守っていたオタカル伯麾下の領軍兵士達が巻き込まれていく。


 「本当にこれでいいのか?」

 「我々としては迷宮への立ち入りを制限したいのです。向こうが兵を使って我々の邪魔をすると言うのなら、我々は我々のやり方でそれを閉じるまでのこと」


 マクタリーナにとっての最優先は迷宮を閉じて冒険者を守ることだった。

 そのためには協調性のない領軍の存在などどうでもよかったのだ。


 「こちらの要請に従わず無茶をするのが冒険者というものです。その彼らをどうやったら従わせることが出来るのか、これでも私は結構理解しているつもりですよ」


 冒険者達の間でアルヴィアーナにその人ありとまで云われるギルド長マクタリーナとはそういう人だった。

 その彼女にとってどうでもいい存在となった領軍兵士たちは見るも無惨に骸を晒している。


 「さて、戻りましょうか。あの便利な魔法、お願いします」


 迷宮の入口は完全に崩落し人が入れる隙間は無かった。

 

 「テレ――――――」


 転移のために詠唱をしようとしたときだった、山がまるで生きてるかのように地鳴りを発した。


 「ハルト!崩落させた入口の向こうに物凄い量の魔物がいるわ!」


 探知魔法を行使し続けていたエリスが叫ぶ。


 「逃げた方がいいんじゃねぇのか?」


 キェルケは油断なく迷宮の入口だった箇所を見据えた。


 「どうする?」


 俺はマクタリーナの指示を待つことにした。


 「出来ればここで排除したいところです」


 マクタリーナは討伐と言わず排除と言った。

 なるほど冒険者やアルヴィアーナの街にとって危険と判断したらしい。

 

 「だそうだ、キェルケ、エリスは攻撃魔法の用意をしておけ!ヒルデガルトは近付いて来た魔物の処理を頼む」

 

 キェルケはパーティメンバーでは無かったが、アルヴィアーナに唯一の金等級となってしまった今、頼れる味方なのだ。


 「あいよ!」

 「任せなさいっ!」


 二人が魔力を集め始める。

 俺も古代魔法を再現しようか。

 想像するのは魔物を弾幕により大量撃破する光景。

 そんな便利な魔法があるのかと半信半疑ではあるが―――――


 †威風は辺りを払いてただ屍山血河あるのみ、獄牙制滅スプレシオ


 浮かび上がった白い文字。

 屍山血河とは随分と物騒だな。

 

 「そろそろ来るぞ!」


 いっそう地鳴りは大きくなり入口を覆っていた土砂が押し出されるように崩れ始めた。


 「【防盾シルツ】」


 マクタリーナが防御魔法を展開し俺達を守る壁を形成した。

 

 「尖鋭なる穂先は万物をも貫く」

 「我に仇なす者の命は永劫流転」


 エリスとキェルケの二人は魔物を迎撃するべく詠唱の前半部分を唱える。

 俺もそろそろ用意しておくか。


 「威風は辺りを払いてただ屍山血河あるのみ」

 

 ピリつくほどに周囲の魔素が濃くなるとやがて迷宮の入口を塞いでいた土砂が吹き飛び、奔流のように魔物が迷宮から溢れ出した。


 ――――――

  補足説明

 ――――――


 なぜ2ヶ月もの間、主人公達はレチュギア迷宮に潜っていたのに、魔獣海嘯の予兆に気付かなかったのかと思う人もいるかもしれませんが、これが一つこの後の物語の進展にとってキーワードとなりますので、理由が明かされるのをしばしお待ちください

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