第17話 遊戯の神

 「ガルドアが死んだってさ〜。規格外の人族がいるみたいだね!」


 足を投げだし言葉とは裏腹に楽しそうな笑顔をうかべる少年。


 「少しばかり不謹慎がすぎますよ!」

 

 神の使徒たる少女は、少年に対して苦言を述べる。

 だが少年は意に介した様子すら見せない。


 「だってしょうがないじゃん!僕は遊戯の神なんだからさぁ」

 「そうやってこの前も整合神に怒られたんですよ?」


 天界のどこか、真っ白な神殿が彼らの神族の居住地だった。


 「整合神あの人は、わかってないからねぇっ!そもそも僕達は存在そのものが秩序なんだから、僕らの行いは全て秩序なんだよ!だから何をしようが僕らの勝手ってワケ。なーんで、そんなことも分からないんだろうね!?」

 

 その行いが世界を滅びへと招きつつあるのだと少女は言おとしたが口に出せはしなかった。

 なぜならそれを拒絶させられるからだ。


 「カハッ……ぐッ!?」


 少女は苦しそうに胸を抑え空嘔吐を繰り返した。

 少女の白いワンピースの下で刻印が赤く明滅を繰り返す。


 「ねぇ今、僕に逆らおうとした?したよねぇ?」


 嗜虐待な笑みを浮かべて遊戯の神は使徒の少女へと迫った。


 「し、してません!」

 「でも、隷属の魔法は発動してるみたいだよ?」


 少女の根源には遊戯の神が、絶対服従させるための魔法を施していたのだ。

 胸元に浮かび上がるのは隷属の刻印、すなわち魔法陣だった。


 「どういうことかなぁ?」


 少年は少女のワンピースを力任せにぎ取った。

 そして恥辱に赤らむ少女の薄い胸に指を這わせた。

 

 「んっ……や、やめてください!」


 上手く身動きの取れない身体をくねらせ、少年の手から逃れようとするもそれはかなわない。

 少年は、果実の先端をおもむろに指で弾いた。


 「今日も君の身体にたっぷり教えこんであげるよ」


 夜も昼もない神界の時間は悠久、それは使徒たる少女にとっても同じこと。

 彼女にとっては苦痛な時間もまた悠久と思えるほどに長いのだった。


 ◆❖◇◇❖◆


 魔族の討伐から二ヶ月が流れた。

 迷宮調査による功績により銅等級にまで昇級し、その後二ヶ月間は迷宮に潜り続けて実力を伸ばし続けた。


 ―――レチュギア迷宮第六十八階層―――


 「ゼブブかっ!」


 奥から聞こえる低い羽音。

 キルドの討伐録にたった一例だけ、それも百年余りの昔の記録にあった六十八階層の魔物、ゼブブ。

 

 「そろそろご対面だな!」


 俺がそう言い終えたくらいのタイミングで暗闇から大きな蝿が姿を現した。

 

 「気持ち悪いわねっ!」


 挨拶とばかりにエリスがゼブブの複眼に魔法をぶっ放す。


 「尖鋭なる穂先は万物をも貫く、槍穿バンカーバスタ


 極限まで細く紡がれた魔力が投擲槍のように鋭く複眼へと突き刺さり貫徹した。


 「graaaaa!」


 悲鳴とも雄叫びとも分からぬ叫び声を上げてゼブブはあろうことか数ある複眼から光線を放つ。


 「むちゃくちゃだな……【神盾イージス】」


 俺だけじゃなくエリスやヒルデガルトを庇うように不可侵の壁を構築する。

 数百の光線を見事に【神盾イージス】は無効化してみせた。

 

 「私の剣の冴え、受け止めてみせよ!」


 エリスの魔法により体は地面へと固定され、【神盾イージス】で攻撃を無効化されたゼブブにヒルデガルトが挑みかかる。

 

 「はぁぁぁぁぁぁっ!むんっ!」


 裂帛の気合いとともに繰り出した剣がゼブブの脚を斬り落とす。

 さらにヒルデガルトはゼブブの背へと飛び乗ると羽を切断した。


 「ヒルデガルト、そこを退いてくれ!」

 「わかった!」


 とどめの一撃をお見舞いする。

 

 「【神滅一矢ミストルテイン】!」


 塵芥すらも残さず圧倒的威力を誇る魔法を叩きつけた。


 「やったわね!」


 エリスの元に集まると三人でハイタッチした。

 この二か月間で出会ったときでは想像出来ないほどに連携攻撃は上達していた。

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