第十六話 明かされる目的
「なぁ、冥土の土産のついでに教えてくれよ」
「ようやく死ぬのはお前らであることを理解したか。何を訊きたい?」
時間を稼ぐための会話に魔族の男は乗っかってくれた。
男からみれば相手は守るばかりで攻めてる自分が有利という状況下において絶対的優位をとったという気になっているのだろう。
その間に俺は古代魔法の再現を行う。
想像するのは相手の魔力が暴走し爆殺する光景。
そんな魔法があればいいが……なければ攻撃魔法での相殺を考慮するつもりだ。
「そうだな。俺の予想が当たってるか答えてもらいたい」
「どうせお前らは死ぬのだから、よかろう」
白い文字が視界に浮かび上がる。
†万物の理を変易せし魔導の業を今此処に贖えり、
「お前は魔族にとって驚異となりうる金等級以上の冒険者を誘き出すためにこの迷宮の浅い階層で冒険者を殺した、違うか?」
目的はおそらく強い根源の再利用にあるのだろう。
人が死ねば消えゆくものである根源、しかし迷宮においてはどうやらそれが魔物へと変貌するらしい。
その仕組みをこの男が解析しているのなら、金等級冒険者の成長した根源を別の何かに転用を考えるはずだ。
「正解と言えば正解だろう。だがそれだけに非ず。例えばこの
聞いてもないことまでペラペラと喋ってくれるので助かる。
「これを人族の土地に放ったらどうなるだろう、きっと面白いことになる。なんならこちらから侵攻する手間も省けるかもしれないなぁ?」
つまりは強力な根源を集めるために目の前の男が仕組んだ事態だったというわけだ。
キェルケの攻撃を
金等級の冒険者など全冒険者の僅か2%程でしかない。
つまり今ここで
「まぁ他にも色々考えてはいるが、どうせこれから死ぬお前達に言っても無駄だろうからお喋りはここまでにしようか。お前、俯いているようだが自分の無力さを今になって思い知ったか、フハハ」
男ご悦に浸って語る間に俺は、小声で詠唱をした。
「万物の理を変易せし魔導の業を今此処に贖えり――――」
俺が無力さを思い知って俯いてるだって?馬鹿を言え。
自分が優位だと錯覚して悦に浸ってる奴を嬲るのになぜ悲しむ必要があるんだ?
俯いているのは、詠唱してることを悟られないようにするためだ。
もう笑いが堪えられそうにない。
顔を上げて俺は魔族の男を見つめる。
「何故に笑っている?自暴自棄か?」
詠唱の最中にほかの言葉を話せば詠唱はキャンセルされてしまう。
だから俺はただ口元を吊り上げた。
「
詠唱の続きを淡々と告げる。
「貴様ァァァァッ!」
男は事態に気づいたのか声を荒げたがもう遅い。
詠唱をせずに集めた魔力を魔力球として俺達にぶつけようとしたが、その制御すらもままならない。
「何故だぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
怒りで顔をグシャグシャにして叫ぶ男は錫杖を振り回す。
だが次の瞬間――――その錫杖は制御を失った魔力に耐えかねて砕け散った。
「誰も俺たちの冥土の土産とは言ってないだろ?」
制御を失った魔力は臨界点に達し、耳障りな甲高い音を生じながら爆ぜた。
突如として眩い閃光が視界を奪い、音がかき消される。
暫くして光は嘘のように消え去り暗闇が戻った。
瞳孔が明かりの変化に追いつかず視界に黒以外の色は無い。
「エリス、明かりを」
「わかったわ。暗闇を照らすは真実の光、
エリスが指先に光を浮かべた。
そして俺の元へと歩いてくる。
さっきまで魔族の男がいた場所は、地面が砕け散り大穴が穿たれていた。
犇めきあっていた
「終わったな」
「そうね……ってなると思った?さっきの魔法は何なの?」
好奇心をむき出しにしたエリスが俺へと詰め寄る。
無自覚なのだろう、革鎧を押し上げる胸が俺に押し当てられた。
「あれは、相手の魔力を暴走させる魔法だ。相手の魔力がデカければデカいほど効力を発揮するみたいだな」
「何それ……反則じゃない!?」
魔法で戦う前に戦いを終えさせる魔法。
不意打ちで使えばその効力は大きいだろう。
今回こそ【
「勝てば官軍ってやつだな」
「カングン……どういう意味?」
そうかエリスは知らないのか。
「俺の故郷の言葉で正義って意味だ」
キェルケとアルカナが起き上がるのを手伝いながらそう答えた。
「二人とも疲れているだろうから、【
俺はキェルケとアルカナの手をとる。
その上にエリスとヒルデガルトが手を重ねた。
「【
転送先は人目につかないギルドの厩舎。
エリスに魔力の消費量を減らす方法を教えてもらった場所だ。
「貴方は……何者なの?」
抑揚のない声で尋ねるアルカナとキェルケが俺を見上げる。
「無職とバカにされる無能だ」
さすがに異世界人だと答えるわけにはいかず思いついた答えがこれ。
少し自嘲気味で嫌な気もしたが、何かいい言葉が思いつくまでの間はこれでいこう、そう思った。
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