第十五話 アーネストの正体

 ―――レチュギア迷宮第十三階層―――


 「アルカナ、魔物の反応はあるかい?」


 アーネストはパーティメンバーある『魔術師メイジ』に尋ねた。


 「前方、後方共にありません」


 周囲には調査に向かった領軍と金等級冒険者たちの装備が散乱していた。


 「じゃあ彼らは着いてきているかい?」

 「距離をおいてしっかりと」

 「そうかそうか」


 アーネストは薄気味悪いほどににこやかな笑みを浮かべた。

 そして小声で囁くのだった。


 「さっきの君の意思に背かぬ行動を約束しよう」


 まるで二人の人がいるかのような意味のわからない言葉にアルカナが小首を傾げた。


 「どういうことですか?」


 その言葉にアーネストは何も返さずただ剣を抜いた。

 そして地面に突き立てる。

 

 「おいおいアレはヤバそうだぜ?」


 すぐさま異変を察知したキェルケは、アルカナの手を引いて飛び下がる。

 そして詠唱した。


 「我に仇なす者の命は永劫流転、焔滅ロヴィーナ!」

 「キェルケさん、何をして―――――!?」


 るんですか?という言葉の続きは驚きにのまれて出てこない。

 キェルケの放った魔法は、アーネストから伸びた触手が掴んだ行方不明の冒険者によって相殺されたのだった。


 「アイツ、人間じゃねぇ!」


 アーネストの突き立てた剣から広がる魔法陣からは次々と行方不明となっていた冒険者たちや領軍の兵士達が這い出てきた。

 その誰もが虚ろな瞳、やつれた肉体で譫言うわごとを発していた。


 「アーネスト、何してるんだ!?」


 『百折不撓』のもう一人の冒険者である『格闘家グラップラー』の男が背中から触手を何本も生やし、もはや人ならざる姿となったアーネストに向かって叫ぶ。

 

 「やめとけ、叫ぶだけ無駄だ。死にたくなきゃコイツらをどうにかするしかねぇ!」


 アーネストに向かって駆け寄ろうする『格闘家グラップラー』の男の首根っこをキェルケは掴んで怒鳴った。

 覚悟を決めたのか『格闘家グラップラー』は身構え、キェルケとアルカナもまた錫杖をしっかりと握る。


 「僕に向かって攻撃するのかい?」


 したり顔でアーネストは笑った。

 

 「その顔でその声で囀るなぁッ!」


 『格闘家グラップラー』の男は、拳を握り間合いをつめる。


 「待て、おいっ!」


 キェルケの制止も虚しく男は、食人鬼グールのような見た目となった領軍兵士達のの槍の錆となった。


 「勝ち目はねぇな!」


 キェルケは下唇を噛んで悔しげに言った。

 

 「だったら最後にひと暴れしましょう!」


 アルカナがキュッと錫杖を握る手に力を込める。


 「我に仇なす者の命は永劫流転、焔滅ロヴィーナ!」

 「大いなる火は我らを守りて忌敵を燃やせ、火閃イグニス!」


 アーネストに向かって二人は可能な限り協力な魔法を放つ。

 放たれた二つの攻撃魔法は狙い通りにアーネストに命中し爆炎をあげた。

 

 「やったのか……?」


 煙で視界が効かない二人は、土埃や煙が晴れるのを待った。


 「この体はもうダメだな」


 煙が晴れるとそこには目を覆いたくなるような状態のアーネストがいた。

 頭がパックリと割れ、まるですっかり成長した寄生虫が宿主の体を出る瞬間のように茶褐色の肌をした魔族が一人、アーネストの体からでてきたのだ。


 「お前らの攻撃はそれで終わりかよ」


 そして舐め腐ったような表情でキェルケとアルカナを見据えた。


 「なんというかホントに人間ってやつは弱いのが多いな」


 アーネストの皮を文字通り脱ぎ捨てた男は醜悪な笑みを浮かべる。


 「さて、呆気なく騙されてくれた君達ともここでお別れなわけだ」


 指先に禍々しい魔力を集めた魔族は、それを空中へと弾いた。

 今更、詠唱も間に合わないと悟ったキェルケとアルカナの二人はただそれを見つめるばかり。

 

 「【神盾イージス】」

 

 誰かがそう呟いた――――。

 キェルケとアルカナを庇うように現れた半透明の壁。


 「現代にそれを使う人間がいようとはな!」


 魔族の男がキッと睨んだ先にいたのは春人、エリス、ヒルデガルトの三人だった。


 ◆❖◇◇❖◆


 「来るな!逃げろ!」


 キェルケが俺達に向かって叫ぶ。

 

 「ちょうど腕試しによさそうな敵を見つけたからな。そういうわけにもいかない」


 キェルケ達にアーネストを乗っ取った魔族が魔法を放ったときに、魔法の威力は確認済み。

 【神盾イージス】で十分に対応出来る範疇だった。

 

 「おいおい、ゴチャゴチャ喋ってる余裕があるのか?」


 魔族の男は、あくまでも強気の姿勢を崩さない。


 「一人だけ蚊帳の外なのは寂しいか?」

 「この俺を誰と心得ているかは知らんがその態度、その口調は万死に値する!」


 魔族は凄まじい魔力を纏わせた拳で正拳突きを繰り出してきた。


 「魔力の一点突破で破れないとは面白い!冥土の土産に俺の家に伝わる秘術を見せてやろう!」


 空間収納魔法で収納していたのか男は錫杖を飛び出した。

 そして俺が【神盾イージス】で防いだ魔法攻撃を凌ぐ量の魔力を集め始めたのだった―――――。

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