第十三話 迷宮調査隊

 迷宮調査隊がプシェミスル領主の命により編成された。

 領軍選抜者五十余名に加えて金等級の冒険者が七名。

 

 「なんか嫌な予感がするわ」


 その後ろ姿を見送りながらエリスは言った。

 レチュギア迷宮への立ち入りが禁止されたので俺達は暇を持て余しているのだ。

 それから三日、一つの知らせがギルドに舞い込んだ。

 エリスの嫌な予感は的中したのだった。


 「調査隊が壊滅……!?」

 「金等級五人でも勝ち目がねぇって言うのかよ……ッ!」


 ギルドは重たい沈黙に包まれた。

 銅等級以上にとっては主要な稼ぎ場である迷宮への立ち入りが禁止されてから既に一週間、冒険者たちは不満も抱いていた。

 それを見かねたように三人の冒険者たちが立ち上がった。


 「僕らが行こう」


 リーダー格の青年からは自信が見て取れた。


 「『百折不撓ひゃくせつふとう』が遂に出張るのか!?」


 ざわめき出す冒険者たち。

 なるほど彼のパーティは『百折不撓』というのか。


 「アタシも行くぜ?三人じゃ少ないだろう?」


 聞こえたのは見知った声だった。


 「そして、そこで見てるお前も来い。アタシを倒した奴が見てるだけなんてのは許さねぇぜ?」


 獣じみた八重歯を覗かせてキェルケが俺を見た。


 「だそうだが、二人はどうしたい?」


 俺は自分の実力がどこまで通じるか試したいという思いだが、俺の自己満足に二人を巻き込むわけにはいかないので意思を確認することにした。


 「私も参加するわ!」

 「エリス様がいくのなら私も行かないわけには参りません」


 二人は迷う素振りも見せず即答だった。


 「俺達も行こう」


 ギルドカードは依然として白等級。

 その事実に文句を言う冒険者たちもいたが


 「アタシに勝ってから文句言いな!」


 キェルケが一喝して黙らせていた。

 割と男勝りで真っ直ぐな性格なんだろうな。


 「へぇ、君がキェルケを?」


 百折不撓の頭目の青年が俺を見つめる。

 その瞳に奥には猜疑心が見えた。


 「疑いたきゃ勝手に疑ってろ」

 

 そう伝えると青年は鼻で笑った。


 「これは僕にとって白銀等級への昇級の判断材料になるんだ。邪魔だけはしないでくれよ?」


 にこやかに目の前の青年は微笑む。

 だが目が笑ってないことは明らかだった。


 「その性格だけは金等級じゃないらしいな」

 「あいにく実力主義のシステムだからね」


 嫌味を嫌味で返された。

 文句が言いたきゃ同じ金等級土俵に立ってから言え、そういうことか。

 百折不撓の頭目はそう言うと、用は済んだとばかりにパーティメンバーを引連れ去っていった。


 「あいつも昇級が目前でカリカリしてんだよ。許してやれ」


 キェルケが俺の肩にポンと手を置いた。


 「分かってるさ」

 「んじゃ、明日からよろしくよ」


 キェルケは煙草を口に咥えるとギルドを後にした。

 何と言うかイケメンだな……。

 最初にやりあったときは口汚い女、という認識だったがここに来てその認識は変わり始めていた。


 「さて、俺達も行こう」

 

 キェルケの話じゃ出発は明日らしいから今日のうちに何かと用意しておかなきゃいけない。


 「そうね。ここで無意味な時間を過ごすのは良くないわ」


 俺達は明日に備えることにしたのだった。

 

 ◆❖◇◇❖◆


 『百折不撓』のリーダーの名はアーネストと言うらしかった。

 そのアーネストは今、俺を見下していた。


 「君のお仲間の女の子が来ていないじゃないか」

 「体調不良らしいから遅れて来るそうだ」


 素直に事情を説明するとアーネストはニヤッと笑った。


 「怖気付いたんじゃないのか?」

 「だとしたら何だ?それが当たり前のことだろう」

 「ということは君も怖気付いてるんだろう?」

 「どうだろうな……?魔物と相対あいたいしたところで、今ほど不快な気分にならないということについては確信が持てるが」


 本当に面倒くさい奴だな。

 コイツのパーティメンバーには同情せざるを得ない。


 「随分とデカい口を叩くな。で、君も彼女達と一緒に残るのかい?」


 残ると言ったらまたいろいろ言ってきそうだが、俺には転送ポータルがあるから後から出発してでも十分間に合う。


 「そのつもりだ」

 「そう言って君も逃げ出すつもりなんだろう?」 

 「相手するのも面倒だ、何とでも言え。でもこれだけは言っておこう。お前よりも俺の方が早くつく」


 アーネストの顔が赤くなった。

 お顔真っ赤にして怒ってるらしい。


 「馬を使う僕らよりもかい?」

 「そうだ」

 「面白い、その言葉覚えておけよ?」


 そう言い残すと「出発だ」と一声かけてアーネスト達は出発していった。

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