第十一話 エリスの魔法講座

 「ハルト、普段どんなこと考えて魔法を使ってるの?」

 「そうだな……使ったらどんな効果があるのかってのを想像しているな。或いは何も考えずに短縮詠唱してるかのどちらかだ」


 効果を想像して古代魔法を再現し、敵に先手を取るべく短縮詠唱を用いる。

 それがこっちに来て確立された俺の戦い方だ。


 「まるっきりダメじゃない!」


 エリスは俺のやり方を真っ向から否定した。


 「そうなのか?」 

 「そうよ!」

 「何がダメなのか教えてくれ」

 

 そう言うとエリスは手直にある藁を掴んだ。


 「生命いのちの息吹は満ちて輝く、治療ヒール


 エリスの掴んだ一本の藁は、ゆっくりと色を取り戻し根を伸ばし力強く大地に立ち上がった。


 「分かりやすく実現したけど分かったかしら?」

 「いいやまったく」


 分かったことと言えば、治療ヒールが植物にも効果があるということぐらいだ。

 

 「ならヒントをあげるわ」


 エリスは再び藁を一本手にした。


  「生命いのちの息吹は満ちて輝く、治療ヒール


 再び同じ詠唱をするエリス、しかし藁の様子が違った。

 なんというかさっきよりも地に立つまでが早かったのだ。


 「今のがダメな例ね」

 「魔法の効果が出るまで速かったがそれだとダメなのか?」

 「魔法っていうのは、基本的にその事象だけではなく出力まで想像するのよ。二回目は出力の想像までしてないから無駄に魔力を消費しているわ」

 「出力?」

 「そうよ、どれだけの魔力を注ぎ込むかも大事なの」

 

 出力に関しては俺も調整していたから、全くもって想像してないわけじゃない。


 「例えばエリスはどんな想像をしているんだ?」

 「私はどこまでも続く細くて長い糸を想像しているわ。少なくとも私は師匠にそう教わったわね」


 なるほど出力と言うよりかは出力の仕方を想像すると言った感じか。

 

 「まぁ論より証拠、やってみなさい」

 

 古代魔法以外の使えないのでとりあえず、エステルの知識に問い掛ける。

 想像するのは倒れた者が活力を取り戻す光景。

 視界に浮かぶ白い文字。


 †死したる者は蘇り再びその生を全うせん、蘇生レナトゥス


 ん、蘇生?

 治癒ではなく蘇生?

 治癒はダメージを癒し蘇生は死んだものを蘇らす。

 なぜ治癒ではなく蘇生なのだ?

 エステルの知識へと問い掛ける。


 †古代魔法の時代、魔法が強力であるが故に治癒は不必要であり蘇生の魔法が重用された†


 なるほど、手加減無しの古代魔法を食らえば即死ということか。

 なんというか理にかなっているな。


 「なら見ててくれ。蘇生レナトゥス


 地面に落ちていた枯葉に蘇生レナトゥスの魔法をかけると色を取り戻し葉柄から根が生え地面に立つとそこから茎が伸び上がり葉が生い茂り俺の身長を越した。

 そして茎はいつしか幹になりさらに上へと伸び続ける。


 「なんなのよコレ……」


 もはや木だった。


 「こんなもんでいいか?」


 魔力を注ぐと同時に意識したのはエリスが教えてくれた細く長い糸。

 確かに魔力が減ったような感覚はない。

 おそらく成功なのだろう。


 「こんなもんって……十分すぎでしょってか、もうちょっとで厩舎の天井突き抜けちゃうわよ」

 

 太くなった幹はもう少しで天井に当たりそうだったので慌てて魔力を注ぎ込むのをやめた。


 「魔法自体のレベルは高いけど、十分魔力の調整ができてるわ」


 『大魔術師ハイウィザード』が言うのならまず間違いはないだろうから、やはり成功だったらしい。


 「そうか、これなら今まで以上に戦えるな」


 体内の魔力回路が使い込んでないので貧弱ではあるが、それでも今までよりかは長く戦えるはずだ。

 創造神エステルと交わした約束を果たすためにはいずれ神族との戦闘もあるかもしれない。

 それを考えれば、もっと魔力回路を使い込んで拡げておくことも必要だろう。


 「これ以上強くなったら、国が黙っていないかもしれないわね」

 「まぁむやみに力を使ったりはしないし、俺には二人の頼りになる仲間もいるから二人を頼るつもりだ」

 

 そう言うとエリスは上機嫌に胸を張って


 「えぇそうよ!このエリスを頼りなさい!」


 と言い、ヒルデガルトは口をモニョモニョさせながら


 「わ、私はお前とエリス様ならエリス様を優先するからな!」


 と言うのだった。

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