第八話 三人の朝
話を聞けば古代魔法を連発して倒れた俺をエリスは馬に乗せ、渓谷の入口の街アルヴィアーナへと運んでくれたらしかった。
そして眠りから覚めない俺を付きっきりで心配してくれているうちに眠くなって添い寝状態になったのだとか……。
ヒルデガルトが目覚めるより早く俺が起きていたのなら、ちょっとばかしエリスの体を堪能出来たんだがなぁ……とかいう後悔はあったが、そんなことがヒルデガルトにバレようものなら殺されるのは間違いないので、その後悔には蓋をした。
「――――というわけで、私と添い寝したんだからこの後、しっかり働いて貰うわよ!」
エリスはビシッと俺を指さした。
ヒルデガルトの方を見れば、無言で殺気を放っている。
最初から選択肢なんかねぇってことか。
ひょっとしてエリスに何かを要求されるたびにこれだったりするのか……?
「おい……あの銀髪の
泊まった宿屋の食堂にいた客は、食器を取り落としてガタガタと震えている始末だ。
「わかったからヒルデガルトさん、その殺気をおさめてくれ」
そう言うとヒルデガルトは殺気を放つのをやめた。
「殺気?何のことだ?エリス様に楯突くやつ以外に殺気など飛ばさないが?」
ヒルデガルトは、「私は関係ないです」とでも言いたげにスプーンを口へと運んだ。
「で、手始めに何から始めるんだ?」
協力してくれ(お願いではなく命令だが……)と言われても何をするかも分からなければ協力しようも無い。
「昨日、ヒルデとも話し合ったんだけど、今の私達では自力でシュヴェリーンの地を踏めるほどの力は無いわ。もちろん私だって魔法は得意だし、ヒルデだって剣が得意」
エリスは『
「わたしは一応、職業が『
マジかよ……割とレア職業をもってるやつがすぐそばにいたのか……。
職業は同じ系統のものでもある程度、上下関係が存在する。
例えば『
『
「で、ハルトの職業はどうなのよ!?」
やっぱそれ聞くかぁ。
「俺、職業ないんだ……」
その証拠に『
「え、うそ……?あんな魔法ポンポン放ってるのに?」
「ひょっとしてこの特殊体質というのが関わっているのでは?」
ヒルデガルトが興味深そうに
「俺もそう思ってるんだが特殊体質がどんなものかが俺自身にも分からんからな」
俺の特殊体質が特別なものだから、無理に人に話さなくてもいいだろう。
古代魔法を再現するものであることは創造神エステルから聞いたから知っている。
だが古代魔法を再現させたのなら、開示されてもいいはずなのだが表記は相変わらず『???』のままだった。
もしかしたら特殊体質が特別なものであるが故に隠しておきたいのか、或いはそれが特殊体質の本質ではないのだとしたら……。
「へぇー、興味深い体してるのね!」
エリスは楽しそうに言った。
「てっきり無職だってバカにするのかと思ったよ」
何せこっちに来てからも俺は
「馬鹿にするわけないじゃない!これでもハルトの力の一端は知ってるんだから」
「あれは何と言うか、鳥肌が立つような魔法だった」
ヒルデガルトが言うのはおそらく
「ずっと無職だと馬鹿にされ続けてきた俺からすれば二人の反応は意外だな」
なんというか俺の無能っぷりを受け入れてくれたようなそんな気がした。
「そうそう、それで話は元に戻すけど当面の間は迷宮で私は魔法を、ヒルデは剣の腕を鍛えようと思ってるの!」
なるほど迷宮か。
異世界から来た俺に乗ってはある意味馴染み深い言葉だ。
ファンタジー系のライトノベルを読めば必ずといっていいほど、迷宮やダンジョンは登場する。
「楽しそうだな」
これはこの世界では魔族が使役することもあるという魔物を知るまたとない機会だ。
ヒルデガルトに剣を突きつけられなくても、俺は行く。
「命の危険があるのに、楽しそうだなんて、やっぱりハルトは変わってるのね」
エリスは年相応の笑みを浮かべたのだった。
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