第七話 口は災いの元(本日の教訓)
「――――と言うわけで私達は逃れてきたの」
エリスが聞かせてくれた話は一国が滅びを迎える重たい話だった。
だがそれは有益な情報だったし、気がかりなこともできた。
「二人を追っていたのは誰なんだ?」
話の中に追っ手に通ずるものは出てこなかった。
するとそれまで黙っていたヒルデガルトが
「おそらくはジルベスタの差し向けた者達だろう」
「ということは魔族は人族に化けることも出来るし洗脳又は別の方法で人族に取り入ることも可能ということか……」
あまりにも厄介すぎる。
「根源の偽装が出来る者に限り、という条件付きだが」
「そうだったな」
人族、魔族、神族で根源に差異があることは、つい先日学んだばかりだった。
「で、私からもひとつ聞かせてくれ。お前は異世界人に関して何か知っているか?」
その質問を受けて俺は、内心身構えた。
どこでバレた?挙動か言動かはたまた根源か?
イリュリア王国が救国のために召喚した三十四人の異世界人、魔族から国を救うほどの価値があるのなら露見すれば別の国に利用される可能性さえある。
だから、この質問には正直に答えるわけにはいかない。
「さぁ……俺はよく知らんな」
「そうか、でもさぞ強いのだろうな」
「そうだな。俺を無能と呼べるくらいには強いのかもしれん」
彼らがどれほど職業を使いこなしているのかを俺は知らない。
いや、興味がないと言った方が正しいか?
「ねぇヒルデ――――」
エリスはヒルデガルトにそっと耳打ちをした。
「それは確かにそうですが、男というのが……」
どういう話かは分からなかったがヒルデガルトは渋った。
「ねぇ貴方、名前を聞いてもよろしくて?」
姿勢をよくして居住まいを正すとエリスは言った。
「俺の名は、
名字があれば貴族または異世界人ということになるから、名前だけの自己紹介が望ましいはずだ。
「そう、ハルトね。なら私も名乗るわ。私の名はエリス・フォン・シュヴェリーンよ」
エリスは隣にいるヒルデガルトを見た。
「私はシュヴェリーン公爵家に近衛騎士として仕えるヒルデガルトだ」
「ということでハルトさん、私達に協力して貰えますか?」
「あの話を聞いた上で断るようならそのときは――――」
にこやかに訊くエリスとは正反対にヒルデガルトは剣の柄に手をかけた。
もうそれ脅しじゃねぇか……。
「わかったわかった」
降参の意を示すように俺は両手を上げた。
話の流れで行けば協力というのは、シュヴェリーン公爵家の領地を魔族の支配下から解放する、そういうことなのだろう。
これは創造神エステルとの約束を果たすために俺が関わるべきだと思った。
魔族とは何か、実戦をもって知る。
その中で見えてくるものもあるに違いない。
「よろしくね!」
エリスは俺に頭を下げた。
貴族は平民風情に頭を下げることは無い、そんなふうに思っていたけど案外そうでも無いんだな。
ヒルデガルトもエリスにならって頭を下げる。
「と言うわけでまずは近くの街まで案内してもらえるかしら?」
俺が知っているのを前提にエリスは言った。
ごめんな、そればっかりは俺は役立ちそうにない。
というか古代魔法を連発しまくったせいで、そろそろ体が限界を迎えつつある。
いかに根源が古代魔法に適応していても肉体はまだそれについていけていない、そんなところだろうか?
「申しわけないんだが、俺は遠くから来たものでな、この辺りには不案内なんだよ」
日本の地理はともかく異世界の地理など知るはずもないのだ。
「のっけから使えないな」
「返す言葉もございません」
ヒルデガルトにバッサリと言われてしまった。
使えないついでにお荷物になってもいいですか?と聞きたい。
足元に力は入らずフラフラするし、視界はグラグラしている。
これは本気でダメかもしれん……暗くなっていく視界に俺は意識を手放した。
◆❖◇◇❖◆
柔らかな日差しに俺は目覚めた。
そして起き上がろうと手をついたとき、異変に気づいた。
右の手から伝わる感触が柔らかいのだ……。
「んっ……」
どこからか聞こえる艶めいた声。
恐る恐る右の手を見つめるとそこには柔らかな禁断の果実が、つまりおっぱいがあった。
名残り惜しい気はしたが、これはしてはいけないことだというくらいの分別は俺にもつく。
そっと手を話そうとしたが、その手は途中で凍り付いた―――――殺気で。
「おいお前、いまエリス様の何処を触っていた?」
酷く冷えきったヒルデガルトの声が背後から聞こえる。
「えっとこれは……そのぉ……健康状態のチェックをしていてだな……」
起きるときに手をついた拍子に触っちゃいました!なんて素直に言ったところで信じて貰えそうにないからな。
俺はもっともらしい言いわけをしてその場を潜り抜けようとした。
てか、なんで俺の横でエリスが寝てんだよ!?
ひょっとして無意識のうちに俺が夜這いでもしたのか?
或いはその逆!?
「ほぉ、健康状態を調べていたのか。そんな方法もあるのだな」
おっ、これは騙されてくれたか?
「そうそう、俺の故郷ではこのやり方が主流なんだ(キリッ)」
「実に興味深いな――――って騙されるとでも思ったか!?」
「くふぉぉっ!?」
ベッドの上から俺は吹っ飛ばされた。
そして、床へと落ちるとそこにヒルデガルトは剣を突きつけてきた。
「実はな、私の故郷には変わった健康状態の調べ方があってな?剣で体に聞くってやつなんだが」
あれぇ、この人こんな顔する人だっけ……?
ヒルデガルトは嗜虐的な笑みを浮かべて剣の先をちょんちょんと突きつけてくる。
「ちょうどいいからお前に見せてやろうか」
「あの〜ヒルデガルトさん?さっきのはその、なんと言いますか……えっと――――ごぶぇぇっ!?」
これまで生きてきた十六年間で死の覚悟が必要な寝覚めは初めてだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます