寧々を味わう

 今日は、寧々に手料理を披露してもらうことになっている。

 俺は、わくわくしながら椅子に座っていた。

「おまたせ」

 机の上に、ご飯、コロッケ、もずく酢、ヨーグルト、水が並べられた。

「いただきます…………痛っ!」

 まずコロッケを口に入れたのだが、何かが刺さった。

「これはね、衣の代わりに私の爪を使ったコロッケだよ」

「そ、そうか」

 これはすごいぞ。

 次に、ご飯を口に放り込む。

「ん? なんか不思議な味がする」

「これは、私のおふろの残り湯で炊いたご飯だよ」

「おお! 素晴らしい」

 そして、もずく酢を食べてみる。

「かっ、噛み切れない」

「これは、私の髪の毛をふんだんに使ったもずく酢だよ」

 最高だ。

 さあ、デザートだ。

 赤いソースのかかったヨーグルトを一口すくった。

「…………鉄の味?」

「うん。私の血のソースをかけたよ」

 なかなか興奮させてくれるな。

 最後に、コップに入った透明な液体を覗き込む。

 水に見えるような…………?

 試しに飲んでみるか。

 ごくごく……ん?

 しょっぱい。

「寧々、これって……?」

「これは、私の涙だよ」

「どうして泣いたの?」

「お母さんも、お父さんも私を見てくれないけど、蓮君が私のことを見てくれるようになったから、嬉しくて泣いたの」

「そうか、喜んでくれてよかった」

 そう言って、俺は寧々の頭を優しく撫でた。

「さあ、全部、を使った料理だよ。私を感じながら食べてね!」

 それからはもう、無我夢中で食べ続けた。

 寧々を、心ゆくまで堪能する。

 寧々の愛が、今まで食べたどんな料理よりも強く脳天を貫いた。

「ごちそうさまでした」

 幸せって、こういうことなんだな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る