第85話 泣いた

 あおりがハッチ逃げを果たしたことにより、チームでの勝利の可能性が生まれた。


 こいつらは次、俺が4吊りすることを信じて、サバイバーの勝利を捨ててハッチ逃げを選んだ。


 これされて燃えない人間がいるか? いねぇよ。こんなん見せられたら意地でも勝ちたくなるよ。


 ふつふつと熱い感情を募らせながら、戦友を出迎える。


 俺の前へとやってきたみんなはほぼ死にかけの状態だった。

 それほど集中したんだろう。


 ボスっ


 あおりが俺の胸に拳を当てる。


 「いってこい。最後は決めろよ。これはお前がばっちり決めて終わるシナリオだからな」

 「……あぁ、いってくる」

 

 あおりの胸に拳を当てた。そして舞台へ上がる。

 最後の戦いだ。今までの俺では勝てない。

 だから!


 「「超えろ(な)」」

 「あぁ、超えてくる!」


 あおりと乃音のエールを背に浴び、登場した。



 ****



 《最終ラウンド! 後半戦!! 前半戦は【鬼没は御守り】の3吊り!! やや【鬼没は御守り】の有利展開となりました!! しかし! 【カラスは巡視者】が4吊りを決めれば、逆転勝ちが可能な展開だぁ!!!! どっちが買ってもおかしくない最終戦!!! 勝つのは一体! どっちだ!!》



 会場にいるギャラリーはステージに釘付け。あおりが魅せた好プレイも相まってボルテージは最高潮だ。


 今までの戦い方じゃ勝てない……俺が出した戦術はーーー



 ****



 《マップは遊園地。前回の勝ち試合ってこともあり【鬼没は御守り】の編成は変わってませんね。逆にUMA選手も変わっていません! 最後まで自分の極めたキャラを信じるということでしょうか!》


 当たり前だ。こいつしか使ってこなかった。今更キャラを変えるなんて有り得ない。


 《ファーストフェイスはマリット選手の骨董商!!! 前試合ではマリット選手にセンブリ茶を飲まされました。》


 わざわざセンブリ茶言わんでも……


 


 




 《お! チェイスの得意なマリット選手のダウン! まだ暗号機は一台しか上がってない!! いいペースですね》


 よし! めっちゃ早く終わった!!

 けどここからだ。チャンレンジする。カラスを投げて………“飛ぶ”!!!


 俺は悪夢の能力を発動した。


 《おっとぉぉぉ!! ここで能力を発動するUMA選手!! カラスを任意で飛ばし、その場所に瞬間移動する能力!!! それにより解読をしていたリム選手の前に突如UMA選手が現れました!!!》


 普通なら助けにきたサバイバーに攻撃するために椅子前に待機するのが普通。

 だが、俺はほぼ瞬間移動で椅子前を明け渡す代わりに次のチェイスに入れる。


 メリットはある。俺が飛んだリムさんは追われていなかった3人の中で一番近かったサバイバーだった。

 そのため、救助しにいくのに遠いサバイバーが行かなければならない。

 救助の間に合わすために遠いサバイバーは解読を早めにやめていく必要がある。

 だから必然的に、俺に追われている人、救助を待つ人、救助に行く人で3人解読していない状況を作れる。


 前試合の相手が解読しやすい状況を反省してのこの作戦。

 “解読妨害”をメインにした戦い方だ!!


 《この大一番の試合で戦略を変えてきた!! 突然の出現に戸惑い、リム選手早めのダウンとなってしまいました!!》


 よし、リムさんはそのまま放置! 復活するのイスに座らすより時間かかるからな。

 んで、ついさっき救助された場所にカラスを投げて……飛ぶ!!


《!? 次は救助されてからダメージを回復してるところに出現しました!! そのまま油断していたマジシャンは1発攻撃をもらい、ダメージを回復できぬまま、またも骨董商チェイスです!!》


 飛んだことによりほぼゼロ距離チェイス。いくらチェイス得意なマリットさんでもーーー


 《マリット選手またもダウン!!! 我々は本当に悪夢を見ているのでしょうか!!! 【鬼没は御守り】のサバイバーは誰も脱落していないのにも関わらず、解読状況が芳しくかい状況です!!!》


 マリットさんはイスに座らせて……また飛ぶ!


 《また飛んだ!!! この試合、UMA選手がサバイバーを追いかける以外の行動を見ていません!!! 追い続けることをやめない!!!》


 繰り返した。同じことを。彼らは対応できてないかのように崩れていった。救助した後に回復をしようにもカラスをつけられ飛ばれ回復しきれないままチェイスに入る。 

 解読もしようにも飛ばれる。


 悪夢が終わらない。そんな試合をしていた。


 なぜ、向井がこんなに機動力がある戦法をとれるのか。それは“特質”にある。

 キャラの能力だけではこんなに機動力などでない。クールタイムがあるからだ。

 向井は特質を鬼没→瞬間移動に変えていた。

 チェイスを早く終わらすために鬼没を採用していたが、チャレンジしようと考えた向井は瞬間移動に変えていた。


 その名の通り、任意の場所に瞬間移動できる特質。

 向かいが使う悪魔の能力を合わせれば2回瞬間移動できる能力があるのだ。

 それぞれクールタイムはあるが、二つあれば回転率は上がる。

 それによりこんなにも機動力の高い戦法が可能なのだ。


 この戦法はファーストフェイスがキツくなるため、ほぼギャンブルみたいな戦法。

 それをわかった上で、死ぬ気でファーストチェイスを早く終わらしてこの状況を作った向井。


 イカれてる。この言葉に限るが、そのイカれたことを実行したからこそ、悪夢使いにふさわしい状況が生まれているのだ。


 《試合終了ぅぅぅぅう!!!! 最後までUMA選手の戦術を攻略できなかった【鬼没は御守り】は全滅!!! UMA選手の4吊り!!!》


 決着がついた。誰もが予想していなかった挑戦者【カラスは巡視者】の逆転勝ちで。


 ステージ脇から紙吹雪が舞う。そんな中、ステージへ駆け上がってきた、あおりと乃音たちと熱い抱擁した。


 肩が湿る感覚。どんどん強く絞まる窮屈感。それを感じながら泣いた。



 ーーーーーーーーーー


 現在戻ります。


 ラスト1




 

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