第8話 コラボ(?)配信(前編)

 「……ど、どうしよう」


 一人残され途方に暮れる向井。

 こんな状況でも時間はどんどん過ぎてゆき配信時間は刻々と迫る。


 「どういう状況だよ!? コラボ相手にはなんか色々言われて? コラボ配信も拒否されるって! 確かに学校でも「向井って声と顔をギャップえぐいよな〜」なんてよく言われるけど!? 言われすぎて俺もちょっと気にしてんだぞ!? 気にしてるとこ言われてそのせいで仕事失敗とか……シャレならんて……」


 Vtuberというのは楽しいもの。

それと同時に責任も同時に存在する。向井のような“企業Vtuber”には。


 依頼でゲームをレビューすることなんて多々ある。

 依頼してくれる会社は信用して向井たちに依頼しているんだ。

 失敗すれば依頼してくれた会社の信用を失うし、なによりぐらぶるダクションに泥を塗る。

 彼らVtuberは責任という重圧の中戦っているのだ。


 向井は高校生ながらしっかりと信頼と責任を心得てVtuberという仕事をしている。


 「……それに一番頭きてるのは仕事を目の前にしてあれはないだろ! 会社の名前を背負っている自覚はあるのか!?」


 それなのに彼女はどうだろう? 自分勝手な内容でコラボ依頼をし、コラボ配信直前にして帰りやがった。

 向井は顔や年齢に文句を言われたことよりも同じVtuberとしての彼女の態度に憤りを感じていた。

 

 「考えれば考えるほど腹立つわ! こうなったら意地でもやってやる! リスナーの楽しませるのが俺の仕事だからな」





 ****



 「こんがみ〜!! ぐらぶるダクション所属! 狡噛レンです! よろしく〜!」


 【こんがみー】 【こんがみー?】 【チャンネル間違ってますよ? こんがみ】 【初めてみるわこの人】


 チャンネル間違ってるって言われた。まー想定内だ。

 この配信は最爽エリーのチャンネルだからな。

 江東さんがいないから俺のチャンネルに変えることも考えたが、時間も時間だったし急に配信場所を変えたらリスナーがこんがらがってしまう。

 そう思い予定通り最爽エリーのチャンネルで配信を始めた。

……それに佐川さんが連れ戻すって言ってたからな。


 「それが間違えてないんだわー笑 エリーさん遅れるということなんで、遅れている間は俺一人だけどよろしく頼むわ!」


 【やっぱ遅刻だな】 【遅刻だな】 【毎回エリー配信予定時間超えてくるしな】 【遅刻魔】 【逆に配信時間ぴったりに開かれて腰抜かしたわ】


 毎回あの人遅れてんの!? 本当にVtuberとしてどうなんだそれは? いや、Vtuber以前に仕事人として……


 「マジで!? 腰抜かした人は今すぐ病院いこーな!笑 けどなんかよかったわ〜コラボ配信なのに来てくれないって……嫌われてる!? って思っちゃったから笑」


 【あやつは毎回遅刻だから気にせんと】 【気にしたら負け】 【ツウィッターで楽しみって呟いてたからそれはないんちゃう】


 「そっかそっか! ほりゃよかったわ! てか、同接人数凄いな!? こんな人数初めてみたんだけど!?」


 【エリーの力】 【エリーの力】 【エリー最強やぁぁぁ!!】


 「いや、マジですごいわ。俺の何倍もいる笑 たくさんのリスナーさんたちのためにも! エリーさんがくるまで楽しませないとな! ということでゲームしま〜す!!」


 【ほぉーゲームか】【待ってました〜】 【コラボだから雑談だけだと思ってたから余計嬉しい!】 【お手並拝見といこかー】 【ガチでレンすごいからな! 初見の人顎外すなよ!】


 「顎外すて笑 まー俺自身もゲームすると思ってなかったから借り物だけど許してな」


 【借り物?】 【誰のだー?】 【借り物とは?】 【自分の持ってない?】


 「俺は今ラピスベリーの会社にお邪魔してるんだよ。コラボの時場所を貸してくれるって」


 向井はVtuberとして日々精進している。だが、Vtuberとなってまだ日は浅い。わからないこともある。

 

 それはVtuber界なら常識“暗黙のルール”ってやつだ。


 今回で言うなら


 ・女性配信者とのオフコラボはタブー


 Vtuberはバーチャル世界のアイドルだ。女性配信者にガチ恋してるリスナーもかなりいる。

 自分の推しが知らない男と会っている。そんなことを許すガチ恋リスナーがいると思うか? 100パーいない。

 その男誰だよー! ってツウィッターでつぶやいて。それが溜まりに溜まって炎上。


 他には勘違い深読みリスナー達だな。男女でコラボ配信なんて絶対デキテルみたいな勘違いを起こしそれが噂となって炎上。


 今回の配信内容は“普通のコラボ配信”。両企業炎上を避けるため“あえて”オフコラボというワードを隠したのだ。

 だが向井がそんなことを知る由もない。言われてないし知らないからだ。


 『俺は今ラピスベリーの会社にお邪魔してるんだよ。コラボの時場所を貸してくれるって』


 この言葉かなり危ない。ラピスベリーのライバーはみんな会社でやるということは常識なのだ。考えれば分かられてしまう。


 だが、案外大丈夫なようで。


 【なるほどなー】 【ラピスベリー環境いいからな】 【コラボ中相手が落ちたら大変だもんな】 【念には念をってことか! さすがラピスベリーだな!】


 良い方に捉えてた。



ーーーーーーーーーーー


 単純に炎上させるつもりはねぇーぞ( ̄▽ ̄)






 

 


 


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