ダブルワーク

「アーク、次行くよ?」

「うーん」


「何してんの?」

「血が流れる場面がグロ過ぎるってコメントがあったからグロく見えない角度を探してる」


「どこの芸術家アーティスト? さっさと片付けて続きを描いてあげる方が親切じゃない?」

「なるほど、行こう」


 VRの世界で自分のランクを上げる為だけに一般の転生者を何千と殺し歩いてたクズの喉から槍を引き抜く。5年もこの世界にいたクセに急に覚醒したらしい。観察の為に少しぐらいグサグサしても構わないヤツだと思った。

 でも確かに生きている人間の方が大事だ、急ごう。ルルと少し大きくなったダイ、ルミナスとアリスとも合流して片っ端から殺しまくる。


 次の世界は巨大ロボットか。正義を示したくて悪役を生み、街を壊したくて街を作り、人間を助けたくて人間を殺す、とてつもなく訳の分からない転生者。なかなか手強い。


「帰ったらライブの準備が、ああまた怪我してもうー!」

「こないだのテレビ見ましたよ。アリスさん超歌ってるし、ウケる」

「ルルさんも見てました! あ、チケットありがとございます、二人で行きますね!」


 ルミナスとカリスとダイは仲良く空中に椅子を出して俺達を眺めてる。そうかライブがあるのか。

 じゃあ思いっきり槍を突き立てる、弾かれた、てえな。


「アーク、引きずり出すぞ。あの爆弾に派手に当たってくれ」

「了解」

「あ、了解しましたわ!」


 派手な爆発と煙に紛れてカリスがくれたネックレスを握る、子供に変身だ。ルルにキャッチされるがまま。


「お待ちなさい! これが見えなくって?! そこから出て来ないと子供を殺すわよ!」

「助けてー」


「クッ、卑怯だぞ!」

「あーら、アナタに言われたくは無いですわー!」

「助けてー」


「仕方ない、出たぞ! さあ子供を離すんだ!」

「どうぞー!」

「ありがとう、セイギのヒーロー」


「当然の事をしたまでさ! 少年よ、早く……」

「よう、クソ野郎。よく聞け。天使が武器で殺した相手は虫か動物に転生する。何度か繰り返して前世の記憶が薄れた頃にまたどこかの世界で人間に生まれる、といいな?」


「……騙したな?!」

「騙したよ、文句あんのか?」

「無えよな、ごきげんよう」

「ごめんあそばせ!」


 3対1、槍に貫かれ至近距離で矢を射られ首を切り落として転生者を消す。切り落とす? ルルはどの武器で戦っても強いな。

 振り向けば相棒達が街を元に戻してくれてる。でも巻き込まれて死んだ人間は生き返らない。転生はもうコリゴリだと天国に行ってくれたり、また同じ世界に生まれたいと……なんで一度殺された世界に戻るんだ? ロボットが好きなのは分かるが物好きでは済まされない。人間は未だに全然分からない。


「アリス、早くこっち来なさい、治すよ!」

「おっつー」

「ルルさん!」


「どうだ?」

「後輩達が頑張ってるよ、ほら。もう簡単なのばっかり」


 カリスが見せてくれた資料の文字は溶けるように消えていく。それなら移動だ。


「『真ん中』に寄って行く」

「あ、先に言われちゃった。ファンサービスは大事だよね」


「揉めてないか心配で」

「うん、僕も心配だった」


 二組と別れて俺がカリスを連れて飛ぶ。少しは上手くなったけど、この世界は着地点に細心の注意が必要だ。

 一番最初に『ガチ恋』、二番目に『同担拒否』、三番目にやっと平和なミノリの住む地域へ、間違えてはいけない着地の順番がある。地上で活動を始めて一年、今の所は十数人の小さな世界だ。

 それでも俺達はこまめに立ち寄る。通り魔に刺されたり理不尽な暴力や事故なんかで死んだ少女達は今、インターネットで知っただけの天使を心の支えに生きている。


「大丈夫そうだね」

「壁で分けたのが良かったんじゃないか」


「うんうん、あ、ミノリ!」

「元気か」


「はわー!」

「ようこそ! ようこそ!」

「降臨!」

「ヤバ」


 ダンゴロウとウサギ、ミノリと三人の少女が暮らしている。ここは誰から話しかけても何を言っても大丈夫、そして『ガチ恋』からは見えない仕様にしてある。平和だ。


「ダンゴロウ、大きくなったか?」

「はい! 2センチ伸びました!」


「世話をありがとう。土産だ」

「し、色紙、じき直筆……!」


「こちらの世界で調達して移動中に描いた。先週からダンゴロウとミノリが暮らしているだけのマンガを描いている。好評だ」

「良かったね、ダンゴロウ! 主役だってー! そしてこれは家宝! これは家宝!」

「ギミ」


「……お前、喋れるようになったのか?」

「ザリス」


「……可愛いな」

「バノム」


 仰げば尊死とうとし、とミノリに手を合わせられながら、他の少女達とも手を振り合いながら飛び立つ。気を抜くとダンゴロウ可愛いさに住んでしまいそうだ。

 空中でカリスの手を離す。


「普通に帰るのか?」

「うん」


「行かないのか?」

「うん、あのねアーク? 僕達もう良い大人なの、毎日どうこうしなくても大丈夫だから」


「そうか」

「フフッ、帰ったら忙しいよ?」


 恋愛も全然分からない。好きなら背負って片時と離れず暮らせばいいのにと思う。


「撮影、雑誌の取材、帰ったら配信でその感想言って、マンガ描いて」

「一番やりたい事が最後か」


「天国行きが増えてるんだからイイじゃん。あ、後でアークの複垢も何とかしなきゃ」

「……あ」


「なんなの? 絵柄で速攻バレてんじゃん? そんなに国家再建したい? そんな熱くなる?」

「うん」


「セリフ無いから絵本みたいになってるし」

「はい」


「でも物語がちゃんと分かるのはスゴいかな」

「よし」


「面白いかは別だよ」

「……そうか」


 残念だ。確かに感想より俺の見た目を褒めるコメントの方が多い。いや、そればっかりだ。

 天使はトリック、偽物と書き込まれるのは一人ずつ訪問して解決している。コメントも先着100件は返し続けてる。この地道な努力の成果は……。


「やあ、お帰り子供達」

「お父様、ただいま!」

「ただいま戻りました」


 ……遂に風呂に浸かるようになったお父様で実感する。たまにここで待っていてくれるようになった。前にカリスと遊びに行ったスーパー銭湯の『神話の湯』というコーナーにこういう壁画があったな。

 そのまま風呂に引っ張り込まれる。


「アーク、書きかけの方を読んだよ。私は面白いと思うが」

「お父様、超大作が出来ちゃうから調子に乗らせないでください」

「……俺は続きを描く」


「カリス、息抜きも必要なのだよ」

「はーい」

「うん、必要だ」


 お父様は何も言わないけど、他の天使にちょっかいを掛けられるのが俺からカリスに移るぐらい露骨にカリスは特別扱いをされている。

 でも、わざわざ体を子供サイズまで縮めて抱えられにいく姿が幸せそうで俺まで嬉しくなる。


 きっとこれから百年か千年か、人間が滅ぶまで俺達の仕事は続くんだろ。面倒くせえな。



  おわり。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

天使のミザリー もと @motoguru_maya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る