議事録

 きっちり組まれたカリスのプロットとネームのお陰で、無茶な転生者には怖い天使が来ると警告するマンガは10話でキレイに完結した。

 そういえばタイトルが無いじゃないかと騒がれ、配信で人間から投票してもらって決めるという体験もした。そこで決まったのは『Miseryミザリー』、色んな意味がある中から『不幸』が選ばれた。結構気に入ってる。

 なんか色々と余裕だ。呼び出される前に自主的に仕事を片付けながら。


「ねえねえ、このクズ伯爵を訳ありイケメン獣人にしてさ、村から一番ブサイクな女の子を嫁にして溺愛するとかは?」

「どこに需要があるんだ?」


「人間の女の子が希望を持って読むよ」

「趣味悪りいな。国の独立に命を賭ける一騎士の成り上がり物がいい」


「どこに需要あんの?」

「いくら身をにして働いても報われない人間に夢を」


「趣味わる!」

「なんだよ」


 気に入った女を毎日のようにさらって犯し屋敷に詰め込んでたクズ伯爵の胸をブスブスと刺しながらテーマを探す場になってる。

 エロいゲームの世界だからって良いと、らなきゃ損だと思ったらしい。コイツは半年も暮らしていたから村の若い女は生きながら全滅した。

 こういう世界は必要以上に思いっきり救う。クズ伯爵の存在自体を消し、女は心も体も無傷に戻した。これは保健体育だったか、人間の学校で使われる教科書でカリスに習ったばかりだ。


「やっぱエロいの描こ?」

「嫌だ」


「こういう世界はすぐ次が来るじゃん? ていうか、もう常に居るじゃん、クズ村人、クズ医者、クズ領主。エロい世界だからって腰振りまくってたらその大事なモン切り落とすよ、みたいなの」

「……うんん」


「R18のバリバリのエログロでさ、内容は面白くするけど、とにかくガチ警告マンガにしない?」

「……うんんん……ん?」


「ん?」

「なんか来るな?」


 たまに他の組とも会ったりする。

 その世界で一番やらかしてる転生者はチート能力を持っていたりで危険、慣れてない天使だと返り討ちにされたりする。だから俺達みたいなのに面倒なのが割り振られ、簡単なクズを殺してる組と同じ世界ですれ違うという……違うな、これは。


「あ、ルミナスとアリスだよ!」

「次は? 移動しよう、さっさと移動しよう」

「待って下さい!」

「こんにちはー!」


「なんか変だよ?」

「なんか変だな?」

アナタ達のお陰でお前らのせいでまともにろくにお話が喋れなくできますわなった!」

本当にマジで助かりましたのよ ムカつく !」


 二人同時に地面に片膝を付き、紙を差し出して来る。

 なんだコイツら? 怒ってるのか笑ってるのか、ガチガチ震えて読めない。紙を受けとる、カリスと頭を寄せて。


「……フフッ、『天使相手にだけ発動する術により言葉遣いと態度を改めている最中です』、ウケる! なにそれ?!」

「『ご迷惑おかけしております。転生者の粛清しゅくせいには問題ありません。何かありましたらラファエルをお呼び下さい』……フッ」


 多分この二人は無茶苦茶に怒ってる。ずっとギリギリと音を立てる笑顔の口が血塗ちまみれだ。紙を返しても奪い返しそうな勢いで丁寧に両手で受け取った。面白いな。


「ルミナスさんにアリスさん、お勤めご苦労様です!」

「俺達は次行きます、ではまた」


 背中を向けても一礼された気配に、カリスの肩が震えた。


「まだ笑うな、多分一番屈辱的な罰だと思う」

「……偉そうだった、アーク」


「今のうちかと思って。カリスも失礼だった。ラファエル様の天使だぞ、もう少し……な?」

「……『な?』ってなに? ねえ、なんなのあれウケる!」


 ダメだ、急いで適当な次の世界へ向かう。

 とりあえず言えるだけの言えなかった事を言い合って笑った。面白おもしれえ。


「さて、やりますか!」

「やりますか。ここは、ああ、ここか」


「……あ、魔王大量発生の。今回は一人だ、魔王だけだよ。五十六歳のオッサンが銀髪になって調子に乗っちゃったんだね」

「そうか。じゃあ」


「心臓握り潰してきなよ、次も人間でいいみたいだし。この先もアークなら簡単、ルルさんも呼べば来るでしょ。僕は帰っておくね」

「分かった。気を付けて……カリス?」


「なに?」

「どうした?」


「どうもしてないよ?」

「……そうか」


「じゃあ後でね」

「うん」


 なんだこの違和感は? 前もこの世界で少し変だった。

 離れた所から魔王城の様子をうかがう。中には助けた魔王と聖女の気配、まぐわい中なのか歪んで乱れた気配だ。仲良くやっているらしい。

 だったら……向こうか。尖った黒い山の中腹、黒い洞窟の中からザラザラした感じがする。こっちも魔物の気配がグチャグチャしてる。みんな仲良く忙しそうだ。


 でも魔物の数が異常だ、集め過ぎ、これは普通にどこかに攻め入るための軍隊だな。

 少しだけ近付いて魔王モドキの心臓を特定、言われた通りサクッと握り潰す。魔物達は元々住んでいた山や海にブッ飛ばして帰す、終わり。

 次も人間なんだから優しく楽しく面白く生きて欲しい。


「次は……」


 ふと、ここ最近のカリスの言動をポロポロ思い出した。

 俺が早く帰りたがれば女がいるのかと、いたら寝取ると。可愛い人間がいたら連れて帰ろうと、俺に人間の保健体育を教え、溺愛という単語、エロいマンガを描いてみるかと、この世界に来てすぐ魔王と聖女の気配に気付いて……もしかして。


「……ヤリたいのか?」


 いや、そもそも天使には棒も穴も無い。

 いやいや、体は好きにいじれるから棒も穴も後付け可能だ。でも人間のようにした所でどこからも体液は出ない、皮膚を接触させているだけだから手を繋いだりしている感覚と……。


「アーク! どうしてすぐに呼んでくれないのー?!」

「こんにちは!」

「……ああ、こんにちは」


「カリスちゃんを帰したなら私が来ないと危ないでしょ! 単独行動は危険、禁止よ!」

「一緒に周りましょう!」

「……うん」


「アーク? なに、ちょっと、どうしたの? なんでそんなに欲情的な雰囲気をかもし出してるの?!」

「なにそれ!」

「……そうなのか? そうだ、ルルは地上で人間と寝るんだろ?」


「うん。変な転生者は大体女の子に初めて触るから、一回相手すれば約束はしてくれる。死んだら天国行くよって」

「男限定か、気の遠くなる作業だな」


「女の子を見付けたら私が男の子になるのよ。もう少しで男女合わせて1万人いくわ……え?! アークもしたいの?!」

「いや要らない。具体的に、体液の話や最中に何をしているのかが知りたい」


「え?! あ、ええ、あの、か、ああ……イヤー!」

「嫌なのか。なら無理強むりじいはしない」

「アーク、お仕事行きましょうよ!」


 ダイを肩車してやって、行く先々でクズ転生者相手に実演してもらいながらルルを見守る。

 人間ほどでは無いが、天使でも多少は気持ち良いという感覚はあるらしい。たまにルルの気配が揺れる。快感とまではいかない気持ち良さか。俺が知っている中でいえばお父様に指で頭を撫でられた感触が近い、と思う。


「なるほど」

「どう?! 役に立ったの私?! まだヤレるわよ?!」


「ああ、助かった。ありがとう」

「やったー!」

「終わりー! お疲れさまー!」


 さっさと帰るか。

 あ、ちょっと失敗した。


「わ、アーク?! 意地張ってないでルルさんに連れて帰ってもらいなよ!」

「意地は張っていないし、取れてもちゃんと持ってる」


「ああビックリした、片方の翼が無いとか縁起悪いよ?」

「そうなのか?」


 帰宅を毎度叱られながら、俺のパソコンですぐ読める状態にしてくれてるネーム原稿を見付けた。もうこっちは何日か経ってる、カリスもいつも通りか。

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