夢幻泡影 今日も昨日も一昨日も
営業
起きた。いや、起こされた。
「……はいしん」
「そ、よく覚えてたね。今日は配信するって言ったでしょ、起きて、ほら準備するよ?」
あれから何日かに一回はガブリエル様に呼ばれて転生者を殺しに行く生活が続いている。カリスと一緒に戻って面倒な世界を終わらせたら俺だけ残って細かいのを片付ける、それが良しとなった。
先に戻ったカリスは俺が描いておいた画像を上げてはコメント返し、本当にマメで本当にそれでフォローしてくれる人間が増え続けてるのも凄いと思う。
昨日の夜に戻った時は一人でもやっと首も腕も千切れなくなった。それでも帰ってくる術が大変なのはまだ変わらない。
「とりあえず服を着て、髪はどうしよっかな? 流行ってる感じにするか、天使っぽくするか……」
「天使っぽい髪って何だ」
「ゆるふわ? サラサラ超ロング?」
「へえ」
「うーん、やっぱコレかな?」
「邪魔なんだけど」
「片目隠すとか、前髪長いとかがカッコよく見えるらしいよ」
「へえ」
「……ごめんね、疲れてる? 帰ってきた次の日なら呼ばれる事も無いだろうし、人間と約束しても大丈夫かなって」
「うん、分かってる。大丈夫だ」
カリスは俺の髪を伸ばしたり縮めたり結んでみたり、なんかくすぐったい。後ろにある腹に後頭部を預ける。
「カ……ツバサは髪いじらないのか?」
「僕は映らないよ、撮るから」
「そうなのか。ルルはツバサの顔を可愛いと言ってたから人間にも受けるんじゃないのか」
「どうかな? とりあえず昼のは『みんながソラを見たいってリクエストにお応えします』っていう
「俺は本当に何もしなくて良いのか」
「うん、でも僕が聞く事には答えてね。どんな質問が来るかなー」
「普通に答えるぞ」
「みんなソレを聞きたいみたいだよ」
結局ワシャワシャされた髪で、もうこれでイイだろ。昼と夜の二回やるらしいから、一回目で不評なら変えればいい。
カリスがちょくちょく上げる俺の姿より、たった一度のカリスが熱唱してる動画の方がハートの数は多い。自分が出れば良いのにとも思うけど、何か策があるのかもな。
ああ、そういえば。
「紙のマンガは作らないのか?」
「ん? 作りたい?」
「いや、別に」
「人間に読ませたいだけだからお金は要らないし、出版ってなると人間との余計な関わりが出来ちゃうから作らないよ。電子書籍ってのもあるけど作らない」
「へえ」
「僕達はあくまで天使、漫画家じゃない。ミステリアスなガチ天使がマンガ描いてる、何なのって覗かせて転生者狩りを記憶に残らせる。クソ転生者はマンガが好きだ。そして『
「……あくまで、天使……」
「え、なに? 最近よく笑うよね、どしたの? 死ぬの?」
楽しいからだ、なんて言えない。悪魔で天使だから。
でもやっぱり考えがあって色々やってるんだ。俺は言われた通りにやれば間違いない。
「さて! はい全部持って来てココ座って」
「はい」
「最初はコッチ見といてね」
「はい」
「僕じゃなくてカメラ見て?」
「コッチ見てって言うから」
「ゴメンネ、カメラ見テクダサイ」
「はい」
「5、4、3」
「……2、1」
「言わなくていいの、アハハッ、あ、始めちゃった!」
「はい」
最初はカメラを見ておけって事ならもう見なくていいか、俺に向けてくれてるパソコンの画面を見たい。なんだこれ凄いな、コメントが物凄い勢いで流れていく、読みきれない。
「……こんにちは」
「え、なに急に?」
「ここに『こんにちは』って書いてあったから、もう早くて読めない」
「ね? 面白いでしょ、うちのソラ。超マイペースだし、もう……」
「あ、『好きな食べ物は?』って聞かれた」
「ほらもう自由じゃん、答えてあげなよ」
「……ピザ……と、ポテトチップス」
「そんなにピザ美味しかった? 今日もピザにする?」
「うん」
「『何のピザが好き?』だって」
「トマトとチーズの」
「フフッ、うん、フフフフッ」
『可愛い』『喋ってる』『現実?』『羽根のクオリティ』『ピザは大体それな』『本物?』、やっと読めるのは短いコメントばかり、少し長いと読みきる前に画面から無くなる。
配信とは難しいな、転生者を殺すより難しいかも知れない。でもせっかく書き込んでくれてるなら返事を、いつもカリスがやってくれてるのを俺も……あ。
「『服着てる?』、うん、今は着てる」
「質問に答えたの? 急だからビックリするよ。今はソラが描いてるトコ映してあげるって話してた」
「ああそうか。描けばいいのか」
「うん。みんなは何か描いて欲しいのある?」
カリスが呼び掛けるともう何も読めない、早過ぎる。
コメントを追えないなら……この端の数字は何の8千なんだ? 1万を越えた、何の数だ?
「……うん」
「ソラ、主人公の『アーク』と『リュウ』を描いて欲しいってコメントが多いよ、手元に寄るね。どしたの? なんか気になる?」
「この数字は?」
「今、リアルタイムで見てる人が1万5千人ってコト」
「これは?」
「配信を始めてからの時間、5分30秒だね」
「これは?」
「コメントの数、いま1万越えたね」
「スゲえな」
「あ、『ソラおじいちゃんみたい』だって、ウケる」
おじいちゃん、年を重ねた人間の事か。悪くない。
いつも通り普通にと言われたし、カリスを見てもウンウン
術と右手で一発勝負、色紙に輪郭を引いていく。
なんとなくいつも左にカリスがいるからマンガの中でもそうしてる。色エンピツを砕く。赤と黒で、カリスを赤で俺は黒で塗ろうか、人間はなぜかこの色の組み合わせが好きらしい。前にこの色の組み合わせで描いたのはハートの数が桁違いだった。
うん、上出来。
「はい」
「完成! わ、すごい、僕でもコメント追えないわ。これゆっくり読める機能とかあるの? ああ無いんだ、残念。後から読める? 分かった、ありがと」
「『すごい』って、ありがとう」
「『手品?』『マジック?』、聞かれてるよ」
「手品じゃない。どうすれば分かる?」
「『飛んで』だって」
じゃあ分かりやすく、羽ばたいて宙返り。色紙やらテーブルやら散らかった物は術で元の場所に戻した。
またコメントは読めない。そんなに面白いと思うなら、そうだな、何をしてやれば人間は喜ぶのか。
「なんか熱っついよ」
「炎だ」
「冷たっ」
「氷」
「極端!」
「水」
手のひらの上にみんな大好き、スライムみたいな形を水で作る。見え辛いかも、絵の具の青を少し混ぜてやる。
それを小さな青い蝶に変えてヒラヒラと、小さな青い馬は俺の周りを一周、小さなドラゴンは炎の代わりに青い水を吹かせる。
俺の正面で頬杖をついて眺めてるカリスを、空中でクルンと引っくり返して隣に座らせる。ソファーにポスッと収まった。
「ツバサ、『歌って』と」
「なんでそういうのは見付けるの? 歌わないよ」
「『可愛い』と、ん? 『身長差が可愛い』とは?」
「なんだろね? 大きいのと小さいのって可愛いの?」
「……へえ、身長差は可愛いのか。人間は分からないな。だけど人間も素直に喜んだり驚くのは可愛いと思う」
「わ、ソラが甘いコト言ってる」
面白いぐらい反応が返ってくる。可愛いな、人間。
色紙を手元に寄せながら一枚描く。今チラッと見たカリスの横顔を青と緑で、カメラに向ける。
「欲しい人、居る?」
「あ、それ最後にやろうと思ったのに」
「ごめん」
「いいよ」
「……会話も『カワイイ』のか? 何故だ?」
「深く考えたら負けだよ」
なんか面白くなってきた所で配信終了、色紙は目に付いたコメントを書き込んだ人間に直接渡しに行った。
面白いな、これ。
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