一蓮托生 今日も明日も明後日も
広報
カリスは忙しそうだ。自分用のノートパソコンを買って昨日から張り付いている。
ブッ続けで描いてたらムリヤリ休まされた。最低でも半日はゆっくりしろと。
暇だな。ピザうめえ。
テレビではレタスが傷みにくくなる百円の物を紹介している。税込百十円、そうだ、税というのを調べようと、あ、休憩中はスマホとパソコンが禁止か。体は休まるかも知れないけど頭がムズムズするな。
マンガでも読むか。うん、ここはもっと下から見てるような、地面からの目線で描く方がカッコいい場面になると……ダメだな、文句が言いたいワケじゃない。
ラノベは文字がいっぱいで無理とか思ってたけど意外と、ああこの挿し絵、これは違うだろ、そこは旅立つ四人の背中だろ、大きく描くのはヒーラーの乳じゃねえよ、俺なら……ダメだ。
アニメ……どうやったら観れるんだよ、この丸いヤツ……ダメだ。カリスは忙しい、余計な事はさせられない。
暇だ。
「アーク?」
「なんだ? 何でもやるぞ」
「ゲームしよ、人間用の名前で過ごすヤツ」
「任せろツバサ」
「フフッ、見て」
「……どこを?」
「ここ、ハートのマーク」
「数が増えてる」
「さっきソラが描いたマンガを読んで面白いと思った人間の人数だと思っていいよ」
「……1500」
「増え続けてる、まだ伸びる」
「1800」
「僕達をフォローしてくれてるのはね、最初に描いたイラストを落書きとして上げてコメントをくれた人に全部返信して雑談も全部応じて100人、僕の赤い横顔の落書きを上げて150人、ソラが喋ってる動画を上げて500人、表紙を上げて800人、1話を上げてからはとんでもないペースで増えてる。この最初の人間達が広めてくれた結果だよ」
「ちょっと分からない」
「分からなくて大丈夫。このハートは、ただソラは絵が上手くてマンガ面白いって言ってくれてる人数だと思って」
「2100」
「多分いま一気に来てるから見て欲しくて呼んだの。何かでオススメされてるか、フォロワーが多い誰かが紹介してくれたんだと思う」
「……嬉しい」
「ん?」
「いや、普通に」
「ソラってそういう顔で喜ぶんだ」
「うん?」
「カワイイ」
「そうか」
「なんか買ってあげようか? 美味しい物とかマンガとか、何でもいいよ?」
「……紙、絵を塗る色、あとピザもう一回食べたい」
「フフッ、分かった」
「よし」
またピロンッて変な音。確実にカリスから聞こえた、なんの音なんだ?
ニコニコしながらいじってるスマホを後ろから覗く。『……アーク?』『なんだ、何でもやる……』それは、なんか、なんだそれは? 俺がバサバサ近付く所から、カリスの目線で俺が動いて喋ってる。さっき言ってた動画ってこれか、動く画か。
「撮るよって言ったら意識しちゃいそうだから言わなかったんだけど、ホントいい感じに答えてくれるよね」
「これ、いや、俺飛んでるし翼はどうすんの?」
「このままだよ。前のも二人とも翼は映ってる。それが良かったみたい」
「良かったの?」
ほら、と見せてくれた。『お顔が良い天使コス!』、次から次へと『翼のギミックすご』『うま』『作者様のビジュアルが強い』『かわいい』『モザイク多い』『綺麗!』なんか書いてある。
「このコメントに全部お返事書いて、今撮ったの上げたら僕も休憩、ピザなら一緒に買いに行こう」
「うん……手伝う事は?」
「暇なの?」
「うん」
「お絵かきする?」
「する」
「これに描いてくれる?」
「何だこれ? 硬いな?」
「色紙っていうの。後で色々使えるから好きに描いていいよ」
「よし。あ、黒とか赤とか色エンピツがもう無い」
カリスが見せてくれたのは一色や二色で描かれた花や動物、人間が描いた絵だった。マンガとは違う絵画か。なるほど、本当の色にこだわる必要は無い、絵は自由だ。
クレヨンというのも試すか、絵の具も、なんだこれはクーピー? 凄いな、色を固めただけか、全部使える。色エンピツの淡い感じとはまた違う良い雰囲気だ。やるな、人間。
「でーきた! ソラ、行こっか!」
「うん」
「え?! 全部?!」
「描いた。これはカッコつけたカ……ツバサ、デフォルメツバサ、少女マンガツバサ、少年マンガツバサ、アニメ風、人間風、荒々しいカリス」
「すごい、僕のコト大好きじゃん!」
「いや、他に何を描けばいいか分からなかった」
「僕のコト」
「いや」
「いま名前間違えて呼んだね」
「え」
罰があるらしい。罰ゲームとゲームが付くなら死にはしないだろう。またピロンッと鳴った。撮ってたのか、だから名前を人間用で呼ばせるのか。
じゃあカリスと呼んでしまうだけで作業の邪魔になるんじゃないか。俺が気を付けるだけで済むなら協力しなくちゃいけないと思う。多分この作戦の
あ、外に出るなら洋服を着るんだ。帽子と靴も、身長は175センチ、よし。
「どこに向かえばいい?」
「うーん、もうどうせなら食べに行こっか、東京!」
「アッチか」
「アッチだね」
「行き過ぎたか?」
「うん、ここ海だね。あのスッゴい明るい街だよ。んで、この、これ、地図だとココに行きたい」
「了解だ」
「よろしくー」
特に何も言われてないけど見える限り一番高いビルの上に着地。翼をたたんで、ああ、クセえ。
「フフッ、都会はお嫌いですか?」
「いや、大丈夫」
「ここは高過ぎるね。多分エレベーターは閉まってるからさ、もうストンと下りちゃおっか?」
「なぜ閉まってる?」
「開けておくとイタズラする人間がいるみたい。遊んだり飛び降りたり」
「人間が飛び降りたら死ぬぞ?」
「うん、どうせ死ぬならこういうキレイで高い所からって思うみたいだね」
「……分かんねえな」
見渡す限り無数の光が流れて
ストン、着地。ちゃんと人間のいない隙間に降りたし、風を巻かない様に減速もした。完璧だ。
「ちょっと大胆だったね。早く行こ!」
「ごめん」
「いいよ、適当に話題になればイイぐらい」
「うん」
俺達を見てるらしい人間、立ち止まる肩、視線、振り向く頭……スゲえ数だな? 生きてる人間もこんなにいるのか? いやこの街だけじゃない、地球上にもっといる。
いま俺達はこの人間に俺のマンガを読めと言ってるのか? 子供も大人も男も女も年寄りもいる……読むのか?
「あ、ここだ」
「……レストラン?」
「うん、石窯で焼くピザが美味しいんだって。予約がいるみたいだからズルしちゃった」
「そんなの、何か書き替えるぐらいなら俺もやれる」
「食べに行こうって言ったのは僕だしね。じゃあ次はやって?」
「分かった」
ピザうめえ。
食べながら、喋りながら、やっぱりなんか落ち着かない。カリスは普通にしてるから別におかしくは無いと思うけど。
「……スゲえ見られるな」
「僕達がカッコよすぎるんだよ。あ、ワインもう一本飲む?」
「うん」
「ねえ、フォロワーが5千人越えた、ハートは4万、もう帰ったらやる事いっぱいだよ」
「それは外でも見れるのか?」
「スマホ貸して、ログインしといてあげる。これでソラも見れるし書き込めるけど、まだ何もしないでね?」
「分かった」
「んじゃカンパーイ」
飲み物も食い物も美味い。人間は何に不満があるんだ? こんな世界で死んだなら素直に天国行ってフワフワしとけば良いのに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます