休憩

「超イイ感じ」

「まあまあだな。なんかこんな転生者いたな?」


「お風呂の無い世界にお風呂作って荒稼ぎして目を付けた女は自分と一緒に入らなきゃ死刑とか言って何股も掛けて聖女と王女と姫とエルフと女勇者とゴブリン達でモメてたヤツね。いたいた」

「よく覚えてんな。何もしなくても殺されてただろ、アイツ」


「あれはヤリ過ぎだったね」

「どこが楽しいんだろ」


「分かんないね」

「分かんねえな」


 更に倍、風呂を広げて翼を伸ばす。

 この部屋も広げようか。なんかこう、快適にしてやろう。


「他の天使って風呂入ってんのかな?」

「フフッ、無いだろうね。みんなまだ僕達が最初に言ってた辺りだよ。作者を何とかしようとしたトコでお父様が分けた才能だって気付いて右往左往してる感じ」


「へえ」

「本を作る機械を壊してみたり、新しく読まれないようにコツコツ一冊ずつ消したり、作者にお説教したり」


「天使の説教は嫌だな」

「人間の姿で行くから、ただワケ分かんないコト言われて付きまとわれて怖い、ってなって終わりみたい」


「……ああ」

「どしたの?」


「……この姿で」

「え」


「ダメ? ダメだったか? この姿で人間に会うのは?」

「え? そういう規則は無いけど普通は隠すよね」


「なんか怒られんの?」

「えっと僕達は、いや、待って、ちょっと待ってね、確認が要るよ」


 天使がいつもの姿で人間の前に立てば身長2、3倍だから威圧感スゲえだろうし、適当に光らせたり翼バッサーッてすれば言う事聞きそうだけどな。


「うーん……ねえアーク、とりあえずアニメを見よう。せっかくだし、あれは読まなくても勝手に話が進むんだって。話はそれからだ、うん」

「ああそう、見るか」


 ザバザバと翼の水滴を払ってカリスが飛んでいった。俺の案は却下されたらしい。だったら一人でもコツコツやってみるか。もし天使の姿を人間に見せるのが違反で罰を受けても死にはしない、よな。

 でも人間にどういう説教? 説明? お願い事になるのか、なんて言えばこの流れを変えるような事をしてくれるのかが分からない。

 カリスなら思い付きそうだけど、罰を受けるかも知れないなら巻き込んだらダメだ。上位に行きたいって事なら尚更なおさらダメ、『曇りなき心身』じゃないとくらいを上げる資格が無くなる……ような話をどこかで聞いた気がする。


「出来たよ! 電気繋げた、ネットも繋がる、全部点くよ!」

「全部点いたらどうなんの?」


「テレビが見れる、パソコン使える、スマホ使える」

「スマホ」


「充電してからね」

「充電」


「とりあえず適当に流し続けるから適当に見よ?」

「パソコン光った」


「体を人間サイズにしてからどうぞ」

「……」


「フフッ、これマウスね、マウスを動かすと画面のこの矢印が動くから、こういう絵のアイコンをポチッて」

「ポチッ?」


「指だよ、マウスに乗せた指をポチッて、フフッ」

「スゲえ」


「で、調べたい言葉をここに書いてポチッ、これで出てくるよ」

「どうやって書いたの?」


「そうだソコからだよね」

「何これ、『日本 二十歳』って言葉を調べたの?」


「うん。この国の二十歳が出来ない事をしないように調べとかなきゃ。あと天使同士の情報とラノベの常識しか知らないから確認しないとでしょ。アークも一緒に読んで」

「はい」


「あ、ほら、普通の二十歳は学校に行くか仕事をしてるみたい。平日の朝から買い物してる二十歳は怪しいんだ。じゃあ僕達はもし誰かに聞かれたらこのフリーターって答えでイイんじゃないかな」

「へえ」


 パソコンの存在は俺と同位のルルに聞いたらしい。アイツも地上にいるのか……面倒くせえ。

 スマホはカリスの友達から、人間の生活は通りすがりの天使達から世間話っぽく情報収集、他は自分で調べたと。

 凄いな。地上に来てからずっと、本当にスゲえ。


「パソコンいじりたいの?」

「うん」


「フフッ、いいよ。じゃあ僕は……なんか美味しい物探してくる!」

「食いもんいるか?」


「必要! 僕はカタチから入るタイプなんだ!」

「へえ」


「行ってきまーす!」

「行ってらっしゃい」


 ……さてと。

 ……さて、と? とりあえず『天使』を検索してみる。

 人間が思う天使はコレ? 誰だよ、ガブリエル様とかミカエル様とか大天使様達の名前は大体合ってるけど、なんだこれ、顔どうしたんだよ、これ誰だよ知らない名前まであるしホント誰ウケる……ん?


 なんで大体合ってるんだよ? なんで人間が大天使様達を大体知ってるんだ?

 ……なんでだろうな? ダメだ、俺じゃ分かんねえ。

 他のも見とこうか、なんか色々あった。あ、変な所でポチッていった。最初の画面に戻りたい。戻りたい。最初に戻りたいだけなんだ。そこからじゃないとポチッて出来ないんじゃないのか? 戻るんだってば。ああソコじゃない。


「ただいまー」

「おかえり」


「これお寿司だって! タピオカ、ナタデココ、八ツ橋、クレープ、ポップコーン! チョコレートもあった、これ生チョコっていうんだって!」

「へえ、これ美味うまそう」


「どしたの? 火が吐けないドラゴンみたいな顔してる」

「パソコン、何もしてないのに壊れた」


「……ふーん」

「……ごめん」


 カリスがパソコンに向かって何かしてる。

 食べ物であふれそうなテーブルを広げて、柔らかいソファーに埋まって、俺は大人しくテレビを見てる。怒ってはいないみたいだからポテトチップスをパリパリしておく。


「そういえばルルさんから伝言、『遊びに行くね』だって」

「面倒くせえ」


「アークにちゃんとした友達がいて良かったよ」

「ちゃんとしてねえし、友達でもねえよ。アイツの髪飾り見たか?」


「赤いお花のキレイなヤツ?」

「あれ殺した転生者の頭蓋骨だ。術で縮めて糸通して花の形にしてる。何十年か前にもうすぐ完成って見せられた」


「マジか、特殊な友達だね」

「友達じゃないって」


「よし、ちょっとコッチ来て」

「はい」


 パソコン直ってる、動いてる。

 もう触らないって決めたのに練習だからと『お絵かきソフト』なる物をポチッとされた。マウスで絵を描くから練習になると。

 絵か、何か描けって言われてもな。とりあえず言う事は聞こうか、この世界ではカリスの方が正しい。


「これ見よっかな」

「うん」


「わ、アニメって凄いね。どういう仕組みなんだろ?」

「うん」


「歌カッコいい、これ歌ってる人の他の曲もカッコいい!」

「うん」


「……ぐずっ……そこで死ななくても、まだ一緒に冒険……」

「うん」


「これ一期より二期がアツいね、さっきのは二期でダメになっちゃったのに」

「うん」


「食べ物無くなっちゃった、買っ……え?!」

「うん、え? 行ってらっしゃい?」


 カリスの翼がピンッてなってる。なんだ? そんな変か? こんだけ練習させたのにマウスの使い方が下手クソ、まだ間違ってるとか? なんだよ?


「アークが描いた?!」

「うん。マンガの真似、好きなキャラクターの好きな場面」


「こういう友情バリバリな感じが好きなの?! いや待って、上手うま過ぎない?! ちょ、上手過ぎない?!」

「そうか? 俺は普通に褒められてるのか?」


「うん……すぐ戻る、行ってきます」

「はい、行ってらっしゃい」


 上手いって事はマウスは使いこなせるようになったのか、良かった。じゃあ……。


「ただいま」

はや?」


「アーク、紙にも描ける?」

「さあ?」


「お願いします、何でもいいです描いてください」

「はい。なんだこれ?」


「描き辛いなら他にもあるよ」

「うん?」


 エンピツ、シャープペンシル、色エンピツ、クレヨン?

 色エンピツが一番良いか。カリスが最初に渡してきたペンは好きな太さの線にならなくて一番描き辛かった。

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