フィールドワーク
「なんか欲しい物あるの?」
「俺? 特に……いや、分からん」
急に聞かれても本当に何も分からない。店の人間はカリスに言われた物をドンドン茶色い箱に詰めて積んでいく。買い物ってこうやってするのか。
袖をツンツン引っ張ってくるから顔を近付ける。
「じゃあ僕の名前考えて。人間に名乗る用の、何がいい?」
「なんでもイイじゃん」
「大至急」
「……か、かり、かす、すか……すかり……」
「混乱させてゴメン」
「こちらこそ申し訳ない」
ため息
「……パソコン? オンライン?
「ああ、コチラはオススメですよ。ゲーム類も沢山購入頂きまして、お二人でやられるのですか? オンラインゲームや配信等をされるのでしたら……」
「ちょ、いや、ちょっと、すみません、俺は、あの、向こうに聞いて、向こうに言って下さい、すみません」
「あ、はい?」
危ねえ、ボロを出すなって言われたばっかりだ。カリスから離れたら狩られる、逃げる、逃げよう、人間こわい、ねえ何してんの? 助けて?
「……どしたの?」
「な、なんか俺にオススメされた」
「フフッ、あれも買うつもりだよ」
「そうなの? え、これも? スマホだっけ? これ持って転生とかあったな」
「うん。契約が必要だから名前を、ね」
「名前、なまえ……アマノ、ツバサ」
「そうそう、そういうの! ありがと! もう一個ちょうだい、アークの分」
「……く、クロダ、ソラ」
「いいねえ、持ってんじゃん」
「マンガの中の名前、主人公の、名前、くっつけた」
「だいじょぶ?」
「アタマ、使った、すごく」
ウケる、って笑いながらカリスが書類を貰って埋めていく。
よいしょとか言いながらカリスは俺のカバンから、自分のポケットから、写真が付いてるカードを出した。カバンを探って紙やら何やらも次々出してるけど、どれもこれもバリバリにカリスの術がかかってる。
手を突っ込んで探してるフリをしながらカバンの中で作ってんのか……俺、本当に一個も役に立たねえ……。
「これで書類揃ってます? 契約完了ってコトでいいですか? もう少しお店を見て回っても大丈夫?」
「はい、いつでもお声がけ下さい」
「行こ、アー……ソラ!」
「はい」
よくそんな普通な感じで事を進められるな、なんて感心して眺めてるだけで二時間ぐらい経ってたらしい。
椅子に座りっぱなしで固まった体をノビノビしてから、カリスに引っ張られるがまま別の階層まで降りたり昇ったり、掃除機だ冷蔵庫だとネックレスに教えてもらいながら歩く。足でこんなに歩いたのも初めてかもな。結構楽しい……けど。
「ああいう契約とか人間の世界の事は全部調べてたの?」
「ん? 他の組に会った時とか、自分でね。当然でしょ」
「スゲえよ、ありがとう」
「どしたの? 死ぬの?」
「普通に感謝するだけで遺言みたいな扱いか」
「……あのね、僕は上に行きたい」
「上?」
「お父様と大天使様達の側で働きたい」
「そうか」
「だからアークを全力で支えて上位まで押し上げる。それで僕を引っ張り上げてもらう」
「うん」
「って思ってたんだけどね?」
「うん?」
「このまま堕天してもイイかなってぐらい今の感じが楽しかったりもする」
これは? ……プリンター、パソコンと繋ぐ物らしい。
それは? ……堕天。そんなの考えた事も無かった。
「あ、ドン引き?」
「いや別に」
「大丈夫だよ、
「別に一緒でもいいよ」
「ヤダ、冗談だよ」
「そうか」
「ねえ、お風呂のリフォームだって。お風呂か……あったら使うかな?」
「ただのお湯だろ? それに入って楽しいか?」
どれが冗談だったんだろう。堕天したいって話か、一人で堕ちるって話か、両方か。
天使が堕天すれば人間みたいに年を取って、どれだけ術を使っても若返らないし、そのうち死ぬらしい。何百年か前に人間を好きになった天使が地上に堕ちた話として習った。こういうのは覚えてるんだな。
「ねえねえ、これヤバくない?」
「マッサージチェア?」
「座ったらこの辺を揉まれるんだって」
「拷問か」
「翼がバキバキにされちゃう」
「完全に付け根を狙って殺しに来てるな」
「買う?」
「なんでだよ」
「アークが座って、術を覚えてなかったり間違えたら僕がココを押すと」
「え」
冗談だよって言われてもゾクゾクした。
とっくに準備が出来て待ってるっぽい人間は俺達を見てないようで見てる。術を使わなくても分かるぐらい刺々しい。
『金持ちのガキ』『遊ぶ金』『甘やかされて』『スゲえ』、その笑顔の裏から叫ばれてる声に笑いそうになる。
コイツら、こんなんだから妙な世界に行きたがるんだ。どんだけクソみたいな考え方してんだよ。嫉妬と怒りしかないのか、生きてんのに転生者そのものだ。まだ俺の方がマシだと思うよ。
「お車ですよね、駐車場まで運びますので」
「はい、大丈夫です! 二人でやりまーす!」
「え? いえ、配達でも無いので、かなりの……」
「だいじょぶでーす、その為に二人で来たんです。こういう大変そうな事を一緒に片付けるのも楽しいんですよ」
「そう言われましても……」
「これ貸して下さい、押して行けばいいんですね。あ、終わったらここに戻せば良いんですよね。行こう、ソラ!」
カリスが俺の腕に抱きついた。人間からは『はあ?』『マジか』『うわ』『BL!』って聞こえる。散々だな。でもその駐車場とやらにまで付いて来る気は無くなったらしい。
仲良く腕を絡ませたまま、なんとなく俺が荷物の乗った台を押して歩く。
「そのエレベーターに乗るよ、それまでこのまま」
「うん」
「ホント人間って余計な所まで手伝おうとしてくるよね、本を買った時も大変だったんだよ」
「へえ」
「でもこういうのに弱いみたい。男同士でイチャイチャするとか、男が女のカッコしてたりすると一歩引くの。観察してたら分かりやすくて笑っちゃった」
「なるほど」
「アークが一緒に来てくれたの正解だった。こんなの一瞬で家に送れるし、なんならお金なんて払わないで持って帰ればイイんだけどね」
「だよね」
「通信には契約が必要なのだよ」
「面倒くせえ」
「銀行口座とかクレジットカードも」
「なにそれ」
エレベーターから出た所でカリスがやる前に買った物を全部家に送ってやったぜ。抜かりなく乗せてた台もさっきまでいた階層にパシュッてやったぜ。
「あ! あーあ、防犯カメラとかあるのに」
「なにそれ」
「ま、いっか。多分もう同じ店には来ないし」
「そうなの?」
「人間の顔見知りとか作ったら後で面倒だと思う」
「へえ」
薄暗い、ここが駐車場か。これは何回か見かけた人間の乗り物、俺から逃げる為に転生者が使ってた。
カリスを連れて部屋まで飛べば、なんかもうすぐにゴソゴソ始めてる。俺は段ボールという軽いのにデカいゴミをまとめて言われた所に捨ててくる事しか出来ない。
暇だ……風呂か。前にどこかの令嬢が白い器に浸かってたな。こういう……感じか?
「カリス?」
「なに? ……え?!」
スッポンと服から引っこ抜いて風呂に放り込んでみた。
「……え? あったか」
「風呂、作った」
「フフッ、気持ちイイよ、アークも入んなよ」
「うわ」
スッポンと脱がされて風呂に放り込まれた。俺はちゃんと足から入れてやったのに頭から突っ込まれた。
狭いな、広げよう。お湯も足そう。
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