転生転移 今日も混乱

デスクワーク

 ……気が狂いそうだ。

 どのマンガも面白いとは思う。でもお父様も俺達天使もこの似て非なる大量生産された世界のせいで大変だったのかと思うとドッと疲れた。タメ息も出ねえ。


 ……この展開も多いな。転生に気付いて前世の記憶を頼りに静かに暮らす、でもやっぱり何事かに巻き込まれて主要人物に接触、望むようには暮らせない、と。


 ……悪役令嬢役が悪役令嬢になりたくない? いや、なりたがっている? なりたいのになれないのか? なれないのになるのか? なり……なる……なれ……ダメだ。

 この辺りは難しい、カリスに任せよう。


 ……これか? 『せっかくの異世界だから自由に生きよう』、これだな、この設定が一番マズそうなのに一番多い。

 自由にしてるうちに勇者になるし魔王にもなるし聖女にも村人にも令嬢にもなる。男だったら出会う女全員にモテるし、女はイケメンに囲まれて騒動になる。死ぬ前と逆の性別になって新しい体を堪能したりもする。

 自由に浮かれて色々やらかす人間は俺達視点ではもう本当に最悪でも、マンガならこういうのが一番面白いけどな。ちょっと笑える。世界の方もずいぶんとえがかれ慣れてる感じがするけど。


「……これじゃね?」

「ん? なあに?」


「人間の欲求とか、なんか言ってただろ。みんなボクチン凄いんだって言いたいんなら、これを生きてる間に満たしてやれば良いとか?」

「……うーん」


「あれ? いまいち?」

「いや、イイ線いってるとは思うんだけど……」


「じゃあ、ほら、地上ココで生きてるうちに彼氏彼女って言うのか? すんごい恋愛させて強くして大金持ちにさせて、とにかく何でも良いから満足させて、そしたら死んだ後は昔みたいに天国か地獄の二択になるんじゃないのかって話で」

「……うーん」


「お父様は優しいから人間の希望を叶えまくるけど、でも地上みたいな世界が良いと思わせて一個作ってしまえばもう新しい世界は作らなくて良くなるし、他の世界の面倒を見なくて済むし、俺達も仕事が無くなる」

「……死んだら魔法使えてスライムがウロウロしてるような不思議な世界に行きたいって思わせないようにする? こういう楽しげな世界を知っちゃってる人間全員に……どうやって?」


 ……無理か。二人でウンウン言いながら、カリスはたまに他の天使達の様子を探りに行きながら、積まれたマンガもラノベも追加された絵本や童話なんかも全部読み終わった。

 ヤバいな。送り込まれる転生者は少ないみたいだけど巨大な桃がゴロゴロ流れてたり、月から来た転生者が転生してまた月に帰るあの世界とか、まさかあの辺にも元の物語があるとは思わなかった。

 女が水色のワンピースに白いエプロン姿でウサギを追いかけて走り回るのも、男女問わず魔法学校に入学して普通の寮生活を送るのも、近々地球が終わる世界も、今まで仕事で寄った世界の全ては人間が地上で作り出した物語。何もかもがそれに影響を受けてその物語に行きたいと願った結果なんだ。

 人間、俺の想像よりずっと物凄いヤツらだわ。


「……どうする? カリスの作戦は?」

「とりあえずアニメもいっとく?」


「んんん……今から?」

「なにそれ、フフッ、ちょっと休んどいていいよ。テレビとか買ってこなきゃアニメは見れないから」


「行く、俺も」

「マジで」


「邪魔はしない。俺もちゃんと人間を見てみたくなった」

「いいよ。でも本当に買い物だけだよ? 買ったらすぐ帰ってくるよ?」


 なんかネックレスの使い方を復習させられて、黒くてユルい服を着せられて、斜めに掛けるカバンも持たされた。翼がムズムズするし、へえ、これがズボンか。人間の洋服は落ち着かない。


「言葉は大丈夫そうだね。いっぱい読んだから色々覚えたでしょ」

「うん」


「あ、身長も変えなきゃ」

「そうなの?」


「アークは人間に比べたらデカ過ぎなの、これぐらいかな? 175センチでいこう」

「あ、自分でやるから……なにこれっさ。カリスはそのまんま?」


「うん、169センチ。馴染むよ」

「……なんか小さくなった?」


「なるよ、毎日あんだけ記憶とかイジるちょっと強い術とか使いまくってたら」

「ごめん。なるべく俺がやる」


「術、知らないんでしょ? 実習もやってなさそうだし。いきなり本番でハイ記憶消してハイ歴史変えてってやるのは危ないよ。僕は大丈夫、意地悪してゴメン」

「……うん、ごめん」


 じゃあせめて地上にいる間は俺がやろう。とりあえずその買い物をする場所まで飛んで、なんか細かい術は全部引き受けよう。


「あ、あと帽子かぶって。これバケットハットって言うんだって」

「はい」


何気なにげにアークは顔がイイ方になると思うから目立たないように」

「何気に」


「結構見てくるよ、人間。遠慮してるようでジロジロ見てるからボロを出さないように」

「カリスも顔がイイ方?」


「うん。だから帽子必須」

「ああマンガによく出てきたわ、主人公が死ぬ前はそんな感じの服とか着てた」


「でしょ。似合うね」

「いいね、似合う」


 最後に布の靴を履かされて俺は完成。カリスは真っ白から茶色い髪と黒い瞳、肌を俺と同じ色に揃えて完成。二十歳前後の男二人がブラッと買い物してる雰囲気、らしい。

 地図で指された街へ羽ばたく、高い建物の上へ着地。山の上よりジットリした空気、それにやっぱり変な臭いのする世界だ。言い出したクセにもう帰りたいとかヤバい、頑張れよ俺。

 ここは家電量販店と呼ばれる店、食べ物以外はここで全部調達出来る、らしい。俺がマンガに夢中になってる間にカリスは色んな事を知ってた。


「ついでに練習しようか。お金を用意する」

「はい」


「マンガにも出て来なかった? なんか悪い人間。ソイツらの財布とか金庫とか机の引き出しから取るの、出来る?」

「それぐらいなら出来る」


「この街ならその辺のビルにそういうヤツらの溜まり場がありそう。普通のお金持ちは狙っちゃダメだよ、そういう人間は現金を持ち歩かないんだ」

「よし」


 確かにマンガには色んな種類の悪い人間が出てきた。主人公を借金で追い詰めて自殺させたり、登場人物に姉や妹がいる時は絶対美人だから売られたりしてた。そういう……あ、いた。

 正に今、女を脱がせて男が囲んでる。コイツらの財布から取る、盗るんだな。紙とコインなら、紙か。

 建物の端っこから足をブラブラさせて座ってるカリスにドヤアと渡す。


「盗れた」

「えっと……二十万六千円か、もう一声。これが一万円札っていうの、一番高額な紙幣だからこれ集めて」


 了解だ。さっき盗ったヤツらの近くを探そう、悪いヤツの側には悪いヤツがいるはずだ。あ、いた。こっちも女絡みか。

 遠隔術だっけ、これはたまに使うし結構得意だ。軽く調子に乗っただけの転生者には槍を使わないで、この術で心臓を握り潰したりする。すぐに人間として転生して良いヤツら用の簡単な術だ。それを使って札を引っこ抜くだけなら容易たやすい。サクサク集まる。

 そういやさっきの女は……もう手遅れか、まあいいや。

 

「どうだ」

「……三百万越えじゃん? たぶん足りるよ、ありがと。この術は出来るんだね。じゃあ店に入ろう」


「はい」

「楽しそうだね」


「うん」

「フフッ」


 暗い階段を降りてドアを開けるとバカみたいに明るい店に入れた。なんか変な歌が流れ続けてるし、なんか、おお? 分かんねえ、なんかスゲえなここ、眩しくね? なんか人間スゲえ。


「すみませーん、テレビくださーい」

「はい、コチラでございます」


「なんかイイヤツください。アニメとか見たいしゲームもやりたいでーす」

「ではコチラとコチラとコチラで、全てをコチラに繋いで頂ければ」


「あ、ゲーム機本体も欲しいです。一番ソフトが多いのはどれですか?」

「コチラですね」


「じゃあそれ買います。ソフトはこの棚の全部ください」

「かしこまりました」


「アニメだけじゃなくて映画も見たいね……うーん、この辺の全部ください」

「かしこまりました」

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