時間外労働
なんか首にかけられた。ネックレス増えた。
「僕の術を貸しとくね、変えたい姿を思い浮かべてソレ握ったら変われるから」
「なるほど」
「なんで?! なんでウサギになってみたの?!」
「なんとなく」
「ちょっとさ……一応確認なんだけど言葉は? 地上の言葉は何言語あるか知ってる?」
「五個、六個とか?」
「ふざけないで元に戻って」
「はい」
「これ、身に付けてるだけで人間の言語が喋れる、読める、書ける」
「はい」
「これ、地上で分からない物があったら触って。僕達の辞典と繋がってるから教えてくれる」
「はい」
「これ、僕と話が出来るから付けておいて。地球ぐらいの広さなら反対側にいても話せる、はぐれた時に使って」
「はい……ごめん、
「髪ぐらいしか無いでしょ今?! 呆れて涙も出ないの! なんでこんな基本を知らないの、学校で何してたの?! 知らないって罪だよ、アークが危なくなるんだからね、そしたら僕が心配するでしょ、それってもう共倒れだからね!」
「学校では大体寝てました、すみません」
こういう時のカリスは腹が減った動物みたいで面白い。それに必要以上に俺を大事にしてくれてるのは伝わる。あ、これってアレか、愛ってヤツか。なんかその授業は覚えてる。お父様の博愛とかと一緒に何百年か前に習ったわ。
「とりあえず拠点を決めよう。そこで人間の生活と、マンガとアニメとラノベを調べよう。何が死んだ人間の行動を変えたのか、どうすればそれを止められるのか」
「はい」
「じゃあアークが変装とか余計な気を使わないで済む場所を……え?!」
「……ん?!」
誰か来る、何か来る、攻撃だ。
この角度ならコッチ、カリスの腕を掴んで跳ぶ。
「あれ? 外しちゃった」
「筋肉とガリ勉のコンビは強いな」
「……誰?」
「誰だ?」
真っ白い天使が二人、俺達がいる建物の上までバサバサ飛んできた。髪が長くて小さいのは見た事がある。でも攻撃してきたのはデカい方だ。下から上へ、外れても人間に当たらない角度で。
なんかヒソヒソされてる、コッチ見てくる、イヤな雰囲気、これって単純にイヤな奴らだって事だ。デカい方が長髪に囁いてる。
「どうする?」
「先にこの国に目を付けたのはオレ達だ。お前らはどっか
偉そうだけど多分本当に偉い。二人とも俺より上位の天使だと思う。ムカつくからボコボコにしても構わないけどカリスの腕を掴み直す。
瞬発力なら俺の方が上だ。結構緊迫してるのに、すっとぼけた顔でカリスが見上げてくる。
「みんな地上での配置が決まってたのかな? 僕が見落とした?」
「カリスが資料を見落とすのは無いと思う。勝手に言ってんじゃねえの」
「そうかな。まあ別の場所探すつもりだったからイイよね」
「うん、行こう」
「東だよ」
「了解」
後ろでまだ何か言ってたけど聞こえなかった。ただの移動だ、逃げるんじゃない、ただの加速だ。
少し飛んだだけで太陽の光が見えてきた。
そうか、地球は丸くて二十四時間でキッチリ一日だ、昼と夜がある。お父様が作ってあげた世界にもあるけど、それぞれ時の流れが違うんだ。
「ねえ、さっきのアークの知り合い?」
「見た事あるけど知らん」
「良かった」
「なんで?」
「好きでああいうの相手にしてるんだったら手に負えないと思って」
「はい?」
「あ! 行き過ぎ! 戻って!」
「え? どこに? ここ海か?」
眩しい朝の光に入った所で叫ばれて、慌てて止まったせいで風が渦を巻いた。足下の海水も爆発したみたいに水柱が立った。ヤバい、人間がいたら死んでた。
「……うん、今ちゃんと人間いないかって探したよね。よしよし」
「そこまでバカじゃない」
「何十年も一緒にいるのに知らない事って沢山あるんだね。もうアークの印象がずいぶん変わったよ」
「そうか?」
「強い天使から強いバカへ」
「変わったな、本当に」
「僕がいないとアークはすぐ死にそう、ウケる」
「そうかも」
「着いたよ」
「小さいな。島の端が見える」
「黒髪、黒い瞳の人間が多い国。ここならアークは変装しなくて大丈夫、目立たないよ」
「俺に合わせたらカリスはずっと変装じゃないのか?」
「初期の初期に習う術だから息するぐらい簡単だよ。気にしないで」
「そうか……ごめん」
カリスが資料をめくる。ビシッと開いたのは地図、ココと指をさしたのは芋みたいに小さい島。
「『日本』って呼ばれてる国だよ」
「日本」
「こんな小さいのにゴチャッと沢山住んでる。隣の国も黒髪が多いけど辛い食べ物が多いんだって。だから僕達は日本から始めようよ」
「うん……辛い食べ物?」
「とりあえず家でも作ろ?」
「うん、まあ休もうか」
「違うよ、集めた物を置いて読んだり分析する場所を作るの。休まないよ」
「はい」
日本か……初めて聞いた。いや、多分習ってんだろうな。怒られるから聞いたコトあるぐらいのフリしとこう。
二人で地図を見ながら、ああだこうだと決めた拠点は山のてっぺん近くの崖。今は霧も深いし涼しくて良い感じだ。
「なんかこう、四角く囲めばいい?」
「え、アークがやってくれんの?」
「寝床を作るぐらいやるよ。好きな色とかあるのか?」
「フフッ、別に、アークの好きに……あ、さっきみたいにソファーとテーブル欲しいな」
「了解」
「じゃあお言葉に甘えて床はエメラルドグリーン、壁はホワイトパール、ソファーはルビー、テーブルはクリスタル!」
「難しい、了解」
「ありがと!」
とりあえず街へ降りてみると言うカリスを見送る。俺は留守番しながら資料を読んでおけと宿題を出された。こういう指示は何もかもカリスが正しいような気がする。
俺はサボり過ぎた。今カリスと一緒に人間の中に入っても、これじゃ本当にただ足を引っ張る強いバカだ。
……あれ? 寝てた。寝てた?
「あ、起きた?」
「寝てた?」
「うん、イラつくぐらい爆睡。でもね、ちょっと掴めてきたかも。他の組にも会ったよ」
「ごめん、イジメられなかったか?」
「なにそれ、フフッ、僕は無害で有能な天使だよ」
「うん、はい」
「それより」
「はい」
ソファーから体を起こして気付いた。四角く囲った部屋が本でいっぱいだ。エメラルドグリーンがキレイだった床はもう全然見えない。いや俺達の周りがもう本だ、カリスがどうやってソファーまで来たのか分からないぐらいに。
「読むよ」
「うわ」
「僕はラノベ、アークはマンガいって」
「はい、コレ?」
「うん。でね、他の組は違う場所から始めたんだけど日本に来たって言ってる。そんなのが四組いた」
「へえ」
「アークに合わせて日本に来たけど、もしかしたら大当たりだよ」
「へえ」
「何千年も前から死んだら別の世界に行くっていうのはあったんだよ。でも『この世界に行きたい』って細かいのがドンドン増えてお父様が大変になったのは最近なの」
「うん?」
「その行ったら楽しそうな世界を作っていたのは主に日本人なんだよ。特にこのマンガとかは若い人間が一度は目にするぐらい自然に
「うん」
「他の組もそれに気付いて日本に来たんだ。そんで作ってる人間を探し始めてる」
「……それって俺達は出遅れてるんじゃないのか?」
「違うよ。作った人間を見付けても何も出来ない事にまだ気付いてないんだ。僕達は一足先に研究、分析しよう」
「……へえ、分かっ……た」
分からん、でも言ったら怒られそう。
とりあえず読んでみるか。
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