残業
「あ、いた」
「なんでコイツらは見付けて下さいってぐらい目立つんだろ」
「
「意味が分からん」
「アークは興味無さそうだよね。自分も他人もどうでも良さそう」
「そうか?」
そうだよ、とフンワリが消された。やるか。
城のテッペンで貴族らしき男と
「え、なに笑ってんの?」
「別に」
「ああいうのがタイプだっけ?」
「顔は悪くない、でも尻が細過ぎる」
「尻か」
「尻だな」
特に打ち合わせも無く俺が急加速しても合わせてくれるから問題ない。この世界は始末が楽だな。そんなに人口も多くない街で皆がこのバカ転生女を忘れて終わり、それでいい。
ドレスの胴に腕を回して
「なに?! 新しいイケメン?!」
「……転生者は心の声をそのまま口に出す習性でも持っているのか?」
「なに?! はあ?! 下ろしてよ?!」
「お望み通り」
なんか獣みたいな悲鳴をあげて落ちていった。
「ああ
「……ギ」
「生きてんのか、スゲえ」
「……コ……ツギ」
「つぎ? 次だと?」
「おっつー、どしたの? 消すよ?」
「カリス、ちょっと待て。一度回復する」
「回復?」
ガバッと転生女が跳ね起きた。赤いドレスは血塗れのままだけど着てる物まで直す義理は無い。
「次とはどういう意味だ?」
「……は? ……こ、殺し、殺され、なんで?」
「答えろ、次とは?」
「し、失敗したら、もう一回、何十回もやり直して、いま、ここ」
「ああ、そういう仕組みの世界か」
「お願いします! も、もう死にたくありません! 誰の、あ! ローズさんの差し金ですか?! だったらお金でも領地でも何でも、みんなの前で土下座でも何でもします! だからお願いします殺さないで下さい死ぬの怖いです今度こそ巻き戻せないかもとか毎回怖くて死にそうなんです!」
うるさいな。死にそうなら死ねばいいし謝るぐらいなら最初からやらなきゃ良いんだよ。こういうヤツらには指南書でもあるのかってぐらい同じ事を言う。
「まず、お前はやり過ぎた。これ以上何かされるとこの世界が壊れる。だから殺す」
「ヒッドい」
「この槍で殺せば虫か動物に転生する。踏まれたり寿命で死んだりを繰り返して前世の記憶が薄れた頃、運が良ければまた人間になれるだろう」
「ヒッドイィィィ……イヤーッ?!」
「うるさいな」
「イヤーッ! イヤーッ! イ」
大口開けてるから遠慮なく槍をブチ込んでみた。軽く突き抜けたな。
「アーク、トドメ待って!」
「うん?」
カリスが転生女と俺の間に割って入った。白い羽を一枚、胸の谷間に挟んでやってる。この羽の術は何だったか、前にも見たな。
「はーい、トドメどうぞ!」
「うん」
サクサク刺して、回復前ぐらいまでグチャグチャになった所でカリスがシュッと消してくれた。
「さっきの羽、何だっけ?」
「強制連行。この世界の
「へえ」
「……帰ったら復習でもしよっか、僕も付き合うからさ。習ってないしー、みたいな顔しないで? ちゃんとやろ?」
「やだ」
「いやマズいって、中級の術だよあれ。忘れたとかじゃなくて知らなかったって感じじゃん? ちゃんと授業うけ……」
「谷間に挟む術?」
「いや谷間じゃなくていいんだけど」
「趣味?」
「うん」
「巨乳か」
「巨乳もペタンコも好きだよ」
「幅広い」
「ありがと」
次は、と聞こうとしてカリスと目が合う。背中にしまってある翼の根元が
この感じは……お父様に呼ばれてる。
カリスが持ってる分厚い資料も涼しい風と一緒に消えた。
「……これって今日の仕事はもう終わり、おいでってコトかな?」
「……お父様に呼ばれるのなんて二回目だ、分からん」
「僕も分からん。とりあえず行こっか」
「うん」
カリスのフンワリがフンワリしてない、四角になってる、動揺してる。俺もちょっとどうして良いのか分からない。
お父様が呼んでるなんて。
初めて呼ばれたのは仕事を与えられた時。カリスと引き合わされて無茶苦茶な転生者を殺し転生させ直すように、そう言われた時だ。
これで二回目……もしかして……今の判断が間違っていたとか? 同じ世界で輪廻転生を繰り返すのは自然な事だ、わざわざ送り返すとは何事だ、みたいな話だったらどうする?
お父様から、大天使様達からも罰を受けるかも知れない。
「どしたの? なんか不安? ビビってんの?」
「うん」
「え?」
「もし何か聞かれても細かい事は答えるな。どうしてもカリスに何か言わせようとされたら全部俺に合わせろ」
「はい」
「よし」
初めて来た時より緊張してる。カリスが消した四角い風船、白い床に着いた足が震えそうだ。
もし今のが重大な失敗だったと責められたら、俺の力でカリスだけでも逃がす事は出来るか? いやお父様の前で俺が何か出来るワケねえよな、どうする?
「お父様、まいりました。カリスです」
「……え? お、お父様、アークです」
「やあ、久し振り。元気にやってくれているみたいだね」
「はい」
「はい」
いきなり目の前に飛んで行くヤツがあるか? 普通はドアの前とか、ドアがあるのかも分からないけど、普通は離れた所に、ああもう……お父様だ。
大きい。大きくて白くて眩しくて、綺麗な手だ……まあ、もう仕方ないか。
「二人は困った転生者を物凄い速さで片付けてくれているよね。知っているよ」
「そうなの?」
「おい、カリス」
「いいよ、気にしちゃいけない。私は皆の父なのだから楽にして欲しい」
「はい」
「はい、ありがとうございます」
「でね、早速なんだけど二人を呼んだ理由はね」
「はい」
「……」
「ここ最近の不思議な転生の流れを変えて貰いたい」
穏やかな声が穏やかなまま言ったその仕事、スゲえ大変な事じゃないか。つい今さっきチョロッと考えたヤツ、根っこから何とかしなきゃってヤツ、まさか本当に回って来るなんて思わなかった。
「はーい! ……ん? アーク?」
「あ、はい」
「そうだね。『スゲえ大変な事』だけど、やって貰えるかな?」
「え?」
「お?! ……すみません、お父様。やります」
「うん、ありがとう。ではこれを渡しておくね」
「はい!」
「はい……お父様、これは?」
「地上に下りる為の通行証みたいな物だよ。この石は私の涙、鎖は髪で出来ているよ」
なんかまたスゲえのが出てきダメだ俺、何も考えるな、無になれ、無だ、無! でもこれは……綺麗だ。お父様の一部から出来てるネックレスか、本当に綺麗だ……。
「行く時も帰って来る時も、これを身に付けていれば少しは楽だからね」
「ありがとございます!」
「ありがとうございます」
「危ない事をさせてしまって申し訳ないと思うよ。本当なら私が行って治めなくてはいけない事だよね。でもね、これだけ不思議な転生が続いてしまうと私はここを動けない。ずっと世界を造り続けて回し続けないと
それに、と、お父様の人差し指の腹が俺の頭を撫でた。
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