天使のミザリー

もと

輪廻転生 今日も正常

通常業務

「次は?」

「五年前に悪役令嬢の世界に転生した三十二歳の男、今は女の子でローラって名乗ってる」


 面倒くさそうな設定だ。長めに作ってもらったスピアをブンブンして血を払う。なんか変なの付いてる、きたねえ。


「人の心を読むチートを使いまくって子供時代を満喫中、『私は静かに暮らすの』系で巡りめぐって死ぬはずのない人間が死にまくってる」

「近く?」


「二分で着くよ」

「行くか」


「休まなくて平気?」

「さっさと今日の分終わらせて帰る」


 魔力の風船みたいなヤツでフンワリ包んでくれるから槍も手放す。カリスの術は暖かいような冷たいような、ちょうどいい感じが好きだ。落ち着く。


「可愛いかったら連れて帰ろうよ」

「中身最悪だろ」


「なんでもイイじゃん、ちょっと遊んであげるだけ」

「見た目が五歳とか無理」


「わ、マジメ」

「お前がおかしい」


 カリスも中身が少しだけ最悪だと思う。でも少し狂ってるヤツが側にいるからこそ俺は自分を保てる。そういう意味では助かるけど、そういう所が嫌いだ。多分カリスも同じだと思ってる。

 だからお父様が俺達を組ませたのは適材適所の大正解。さすがお父様だ、とか思ってたら高速移動してたフンワリが割れた。ちゃんと俺の手元に寄せてくれてる槍を掴んで青空に浮く。


「ほい、到着」

「あれか?」


「うーん、『金髪、緑の目、天使のような微笑み』、あ、今ローラって呼ばれて返事したから間違いないんじゃない?」

「天使のような微笑みね。あれはお茶会ってやつか? 取り巻きが多いな」


「過保護な兄だって。赤いマントが長男、時計回りに次男、三男、四男、イケメン執事に幼なじみのイケメン少年、やりたい放題だね」

「引き離せるか?」


「長男が魔法使いだね。小芝居でも打つ?」

「やっぱり面倒くせえ」


「可愛いじゃん」

さらって別の世界で殺すのもアリか」


「え、いいの?」

「いや前にそれで面倒になったんだっけ? やっぱり普通に殺す」


「残念」

「とりあえず俺はアレを拾って向こうの森にでも入る。後は頼んだ」


 ハイハーイなんて軽い返事、でもこれは信じて大丈夫な返事だ。

 ローラと呼ばれる少女がティーカップを置いた瞬間に胴体を捕まえてかっさらう。心が読めるチートか、じゃあ殺す事だけ考えておこう。


「え?! コロス?! なんで?! 天使?!」

「お前は転生前の記憶と経験を使いながら勝手な事をやり過ぎた。関係の無い人間が多数死んでいる。だから殺すように命じられた」


「待って、だ、誰から殺され?! ホント待って! もう何もしない! 超おとなしくする! ホントに!」

「やり過ぎたんだ、もう後戻りは出来ない」


 木々の隙間にポイと放り投げただけでボギッと変な音がした。地面に落ちてどこかの骨が折れたらしい。

 五歳の子供にヒラヒラのドレス姿で泣いて命乞いされても、中身はズル賢いだけの転生者オッサンだ。何とも思わない。まったく人間はもろい、それぐらいだ。


「あ、あの! ごめんなさい! すんませんでした! ホント僕がバカでした、調子乗りました!」

「言うべき事だけ言う、聞け。俺の槍で殺せば虫か動物に転生する。何度か繰り返して前世の記憶が薄れた頃にまたどこかの世界で人間になれる」


「虫?!」

「では、ご機嫌よう」


 槍で胸を一突き、ブンブン振って引っこ抜いてから頭も貫いておく。剣だと近過ぎて俺が汚れる、槍は良いぞ槍は。


「おっつー、あ、やっぱサクッとっちゃったのね」

「お疲れ。そっちは?」


「マルッと全員の記憶消してきた。物もとりあえず目に付いたのは消したよ。もうさ、いちいち確認しなくても……」

「写真は?」


 槍の先っぽで首の辺りを突く。銀の鎖にロケットが付いてるネックレス、さっき光った気がしていた。こういうのを着けてるという事は、この世界には写真があるはずだ。

 ブチッと千切ってカリスに飛ばす。


「うわ、きたなっ、あ、ホントだ」

「甘いんだよ、行ってきて」


「はい」

「うん」


 素直。あんなの近くで殺した俺しか気付かないだろ。俺も本気で甘いなんて思ってない。自分だってそんなに上位じゃないくせに、偉そうに何してんだ俺は。

 カリスは俺より更に下位の名も無き天使だった。『カリス』、我ながら良い名前を付けてやったと思う……けど。


「消してきたー!」

「はい、死体も」


「おりゃー!」

「はい、次は?」


「えっとね、村人に転生したのに勇者になったオッサン。見た目イケメン十八歳、銀髪、女の子五人連れてる」

「何分で着く?」


「四分、世界を四つまたぐよ」

「頼んだ」


 俺達みたいな下っ端まで駆り出すほど転生者の様子が一気に変になったのは何なのか? まずは問題の根っこを何とかしないといけない気もする……けど、まあいいや。

 またフンワリ包まれたから寝転んでおく。カリスも並んでゴロン、さすがに疲れたのかも知れない。


「次のオッサン片付けたら昼寝でもするか?」

「早く帰りたいんでしょ、一気にやっちゃおう。てか何で帰りたいの? 誰か待ってんの?」


「翼しまっておくのがダルい、眠い」

「それだけ? なーんだ」


「なんだって何?」

「やっと愛を語り合う相手でも出来たのかと」


「もし出来てたら?」

「寝取る」


「最悪だな」

「えへへ」


「ここか?」

「うん、着いたね」


「アレか?」

「だね、分かりやすくてイイじゃん」


「伝えて」

「術で直接頭の中に、ってヤツ?」


「あの五人の女、全員魔方陣やら何やら使えるっぽいから」

「なるほど、了解……伝えた! フフッ、ちょっと勇者くん超焦ってんじゃん、ウケる」


 ここまで大規模な有名人になってると厄介だ。国民全員の記憶を消すよりも。


「歴史ごと変えた方が早いか」

「あの勇者を何百年も前の伝説の勇者にしよっか。存在を消すより楽かな。んで五人の女の子が囲んでるのは町で一番のイケメン君とすり替える、どう?」


「単純でいい、勇者を消す所までは一人でやれる。行くぞ」

「りょうかーい」


 サクッとさらってサクッと刺して、念の為に何回かザクザクしてからちりより細かく蒸発してもらう。

 長い歴史に名を刻めたんだから良いだろ、女とも充分楽しんだだろ、お前のせいでお父様が作ってくれたこの世界がカスみたいになったんだよ、とばっちりで何千の命が消えたと思ってんだ、責任取れクソ野郎。

 最後まで聞こえてたかは分からんけど言いたい事は言っ……ん?


「おっつー」

「怪我したのか?」


「返り血だよ。なんか抵抗されちゃったから伝説の魔法使いとヒーラーとエルフと女剣士と獣人を増やしておいた」

「盛り沢山だな」


「心配してくれたの?」

「いや、汚ねえなって」


 頭から血塗ちまみれのカリスに術で作った水をブッかけて、風の術で乾きやすいようにグルグル回してみたりして。


「乱暴! ちょっと乱暴! ありがとね!」

「次は?」


「四十九歳のオバサンが転生した悪役令嬢だよ! 『私ナニかしちゃいました?』系の成り上がり! 国中の男と寝て女達の反乱が起きてる! もう滅亡まで一直線!」

「行くか、俺が飛んでやる」


「やだ! 僕が飛ぶ! アークは下手! 酔っちゃう!」

「残念だ」


 包んでくれるから、またフンワリ甘えて背中合わせに頭を預ける。

 翼、出してえ。転生者を殺して回る時は目立つし邪魔なんだよな。天使から翼取ったら何も残んねえよ。

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