中学生恋愛ってホント大胆だと思う

 BBQパーティーの後。


 部屋へ戻って、おのおの自由時間となった。


 別荘の共有スペースには、大きなテレビや木のテーブルもあり、過ごしやすい空間になっている。


 何かと傍にいたがる時田さんをあしらって、自室に戻ってきたが、特にやりたいことがある訳ではない。


 僕だって、彼女といたい気持ちがあるのも確かだ。


 しかし、まぁなんというか、お呼ばれして集団行動してるわけだし、

 終始2人だけでベタベタして時間を過ごすという訳にも……ね?


「あの、先輩は……」

 鞄の整理をしていた田崎くんが、ふと声を発した。


「ん?」


 先輩? あ、僕のことか。


 どうも「先輩」呼びに慣れていないせいで、誰のことか一瞬わからなかった。けど、この部屋で泊まるのは彼と僕しかいない。

「どうかしたの?」と訊き返す。


「あげピー先輩は、彼女さんと、どんなふうに付き合い始めたんですか?」

「ああ、時田さんと?」


 僕は彼女と交際に至るまでの経緯を、手短に説明した。学校での出逢いから、初デートのこと。そして、早速された彼女からの告白。

(いくつかの問題行動については、当然省略したけど。)


「やっぱ、好き人がいるなら、自分から告白しないとダメですよね……」

 田崎くんは何か、考えこむように俯いた。


 てっきり僕らの出会ってから交際までのスピードに驚かれるかと思ったが、そんなことはなかった。いまはこれくらいファーストフード感覚なのが普通なのか、それともまだ何が普通か分からないのか……たぶん後者だろう。

 ま、それは僕だって解らないけど。


「や…。まぁあれは、時田さんが純粋すぎただけだと思うよ。

 あんなに面と向かって「好きです!」って言うケースは、意外と少ないらしい」


「そうなんですか?」


「ああ。最近はテクストメッセージで告白することも多いって言うし……。友達のように、普段から一緒に遊んだりしてたら自然な流れで…ってこともあるみたいだよ」


 無理しなくていいということを伝えたくて、そう言った。これだって本当は、いつかネットで見た記事の受け売りだ。


 なのに、恋人がいる相手がこういうこと言うと、急に説得力がある気がしちゃうんだよねぇ…。やだやだ。


「じゃあ必ずしも、好きってコクる必要ないってことですか?」


「少なくとも田崎くんがイメージしてるようなこと……

『卒業式の後、誰もいない教室に呼び出して愛を告白』みたいな重いことは、しなくてもいいんじゃないかな?」


「な、なんで俺の考えてること分かったんですか!? あげピー先輩すごいですね」


 ……本当に考えていたのか。そこまでベタなセッティング、今どき少女漫画でも珍しいと思うけど。


「でも、卒業式まで待たなくていいってことなら……うん。俺、近いうち彼女のこと呼び出して告ります!」

「へ? そっち?」


 あくまで愛の告白は通すつもりらしい。


「ちなみに、いつ頃するつもりなんだい? その告白は」

「そうですね……お兄さんが良ければ、明日にでも。あ、いや…!」


 そんなこと言ったら、好きな相手がバレるというのに気づいたらしい。いや、もうバレバレだったけど。


 応援してあげるべきなのだろうか?


 お節介を焼くのもどうかと思うが、彼が懸想けそうしている相手は、僕と血の繋がった妹。


 そしてあいつの性格は……ご存じの通り。彼のナイーヴな気持ちをちゃんと受けとめてやれるようには思えない。


「もう寝ますね? 実は昨日、今日が楽しみで寝られなくて……」と恥ずかしそうに言って布団を被った。


 事情を知って、指をくわえて待ってるのも焦れったい。ここは本人に、ちょっと探りを入れてみるか。




「あ、お兄さん。妹さんに、何かご用ですか?」


 妹が泊まっている部屋の前に来ると、牛館文華が後ろから声をかけてきた。


 今日は2人は同じ部屋なんだった。牛館さんは、ちょうど部屋に戻るところだったらしい。すでにパジャマ姿になっている。


 そうであることを告げたら、「中でお話ししますか?」とドアを開けかけたので、「あ、ううん。ここで大丈夫」と答えて妹を呼んでもらった。


 2人のやりとりする声がして、妹はすぐドアのところまでやってきた。


「なぁ、妹よ」

「どうかしたお兄ちゃんよ? ていうか、時田さんと一緒にいなくていいの??」


 どうも言葉の節々に、棘がある。そこまで彼女との交際に不賛成なのも、ちょっと辛いものがあるが、いまここを訪ねたのは別件だ。


「あのさ、田崎くんのことなんだけど――」

「あ~、うん。田崎くんが、私のこと好きって話?」

「エ」


 僕は不意を突かれ、言葉を失ってしまった。


「どうして知ってるの? 本人が言った?」

「あの態度見てたら、分かるって。

 まぁ、田崎くんだけじゃなくて、

 いまのクラスだと、私のこと好きな人あと2人はいるけどー」

「………」


 こいつ、秘かにクラスのうざったい奴ランキング上位入賞してるんじゃないか? と、兄として本気で心配である。


「おまえ、それであの態度なのか? 好きって知ってて相手を揶揄からかうのは、ちょっとどうかと思うぞ?」

 海水浴やバーベキューの時の、妹の態度を思い出して言った。


「からかってなんかないよ。男子は好きな人からこういうことされたら、嬉しいかなーって思うこと、やってあげてるだけだから」


 僕が相手の立場なら、当然、NO thank youだ。


 こういう悪魔(は付けてやらない)に思春期の男の子はたぶらかされて、あとあと恋愛観をこじらせてしまうのだ。


「今後、もし田崎くんに告白とかされたら、どうするんだ?」


 明日の予告のつもりで、それだけ尋ねた。すると妹は流石に心の中でシミュレーションしたようで、


「んー……。……付き合ってもいいけど」

「あ、そうなのか」


 ちょっと意外である。聞いておいて難だけど、僕は別に妹の恋愛問題をどうこうするつもりもなかった。


 妹にはじめて彼氏が出来るんだと思うと、なんか……言葉にできないものがあるけど。

 ところが。


「やっぱり断るかも」

「…は?」


 突如、妹は翻意ほんいを表明した。手を返すにしても早すぎる。やっぱり情緒不安定なのか、こいつ?


「お兄ちゃんの、ばーか」


 そう言って、ドアを閉めてしまった。


(中から「文華ちゃーん」「な、なんですか? きゃ!?」と、はずむベッドの上で戯れる声が聞こえてきた。いったい何をしてるんだ?)


 田崎くんには悪いが、これは僕の手には負えない問題だったようだ。


 最初から放っておくべきだったのかもしれない。妹がどんな行動に出ようと、それで彼らの中学生活がこじれようと、彼らの勝手……。


 いや、待てよ。いまの僕にはいるんだっけ。こういう肉親の恋愛の問題を相談できる相手が。

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