最も気になり、かつ危険な選択
ジェット機の音がした。白い太陽の光が照りつける
「あ。見て見てあげピー! あの飛行機おっきいよ?」
「本当だ、さっき飛びたったばっかりなんだね」
僕と時田さんと2人、まばゆい日ざしに目を細めて、空を見上げた。
飛行機はただの演出である。本当は、フェリーで来た。
「む」
僕と隣り合わせに歩く時田さんを見て、妹がなぜか、僕の袖を引っぱってきた。
「……あ、お兄ちゃん、あの鳥 お っ きい よ!」
「本当だ、……て、あれは普通のツバメじゃない?」
妹の夏の計画について家族と相談した結果、いくら富裕層(?)とはいえ、全額負担してもらうのは失礼だろうということで、交通費はこちら持ちになった。
あの、
それでも、タダで泊まれる別荘があるというのは破格の条件。
母は、「迷惑にならないようにするのよ」と、僕らを
☆★☆★☆★☆
さて、フェリーから下りた僕らは、
なんでも、妹の友達が、ここまで迎えに来てくれるらしい。
波止場の近くに、銅像のようなものが立っていた。
細いフレームの丸眼鏡を掛けたオジサン……いや、オジイサンの銅像だ。
風が吹いたら倒れないか心配な感じだが、天を指さし勇ましいポーズをとって立っている。
「これ誰? なんか、偉い人?」
「ん~…そうなんじゃない? よく知らないけど、きっと佐波さんが説明してくれるはず」
スッと、佐波純子の方を見ると、
「……何やってんのよ。私は説明しないわよ」
「「え?」」
「そういうのは合宿の時でいいでしょ。
この旅行ではいつもの自分から解放されて、パァーっと遊ぶのよ!」
今日は麦藁帽子を被っていた佐波さんは、続いてガシッ! と、大きなサングラスを掛けた。父が使ってないのを持ってきたとのことで、あまり似合っていない。
さいですか。
とはいえ、なんとなく、彼女には日頃から世話になってる気がして(なんでだろう?)、何かお礼を言おうとした。その時。
僕らから少し離れた場所に車が止まった。
扉が開いて、今日はじめて見る少女が出てくる。さっぱりしたショートカットで、薄青いチュニック風のワンピースを着ているのが、
「え、えっと……み、皆さん。本日は、お忙しい中、遊びに来てくださり、ありがとうございます」
と、伏し目がちに挨拶した。
これが、妹か「超裕福」と呼びならわしていた、中学の友達。
名前は、
「よろしく、お願い致します」「お願い致します」
そこで、執事にしか見えない銀髪の二枚目と、メイドにしか見えない茶髪の美人が、並んで丁寧な礼をした。
聞くところによると、本来くる予定だったご両親が来れないため、代わりに大人の付き添いとして来たそうで、本当に執事とメイドという訳ではないらしい。
……にしては、それっぽすぎるんですけど。
「文華、今日はありがと!」
妹が近づいていって、少女の手をとった。
「はっ…はい。私も来てくれて、嬉しい…です」
牛館サンは、苦笑にとれなくもない笑顔を浮かべた。
妹には失礼だが、まだそんなに、うち解けているようには見えない。学校でも迷惑かけたりしてないといいが。
そんな妹が、僕に耳うちして、
「お兄ちゃんお兄ちゃん、あの車、アルファードだよ」
「アルファード? 何それ、スイーツの名前?」
「それはアフォガートでしょう。日本の高級車よね? 車種によっては、ベンツより高いとか…」
代わりに佐波さんが呟いた。
「そう、そうです! えっと…」
「佐波純子。貴女のお兄さんのクラブの、部長代理よ」
「そうだったんですねー? じゃあ純子先輩って呼ぶことにします」
と、こちらは大分、朗らかな様子で、
「やっぱ、憧れますよね~。将来は、あんな車に乗ってる人と、玉の輿に乗ったりしたいですよね!!」
「まぁ、私はああいうのは見てるだけでいいかな……。だけど車って、操縦した通りに動いてくれるっていうのは、とても、素晴らしいわよね…」
と、なかなか難しいことを言う佐波純子。片や、我らが時田さんは、
「へ~、そんな名前なんだ。あたしも、はじめて知った」
と、けろっとした顔で呟いた。
「みいなさんは何というか、色々と、意外よね」
「えっ、なにが?」
「いやほら、ギャルって、身の回りブランドで固めて、キャーキャー言ってそうなイメージがあるから……てっきり、一番に反応するかと思ったわ」
そう言われるのを聞き、僕の彼女は、
「えー。前から思ってたけど、じゅんじゅん、ギャルに悪いイメージ持ちすぎでない?
昔はホントそんな感じだったって聞くけど~、それだって一部だと思うよ?」
うむうむ。こちらは、旅行先でもいつもと同じ感じだな。違うのは、そこに妹と牛館のお嬢さんが加わっただけか?と思うが、
実は妹の他に、もう1人参加者がいる。
「………」
顔にあどけなさの残る少年が1人、海を見つめていた。
彼女も牛館サンに招待されて来たということは、妹と同じ中学生ということになる。
こんな誘いに本気で乗ろうとしたのはうちの妹と、彼だけだったということだろう。普通は、
が、それにしては。少年は終始アンニュイな表情を浮かべ、ほとんど喋っていなかった。
フェリーでも、妹と何度か会話していた程度だった。(それも妹から一方的に話しかけられる形で。)
こんなドヤドヤした連中と一緒だと、景色を眺めるくらいしか心を落ち着かせる方法がないのは分かるけどね。
ん? いや待て。この子が見てるのは海じゃなくて……。
うちの妹?
☆★☆★☆★☆
そこから目的地まで、30分くらい掛かったが、さほど時間を感じなかった。
なぜなら、メンバーとの
さて別荘では、予想以上な建物の広さにまた驚き。立地は海に近く、後ろは涼しげな林という理想的な場所だった。
「やばっ…。すごいねここ! マジ最高のロケーションじゃない?」
キャリーケースを引きながら立ち止まった彼女が、大きく息を吸う。時田さんにはこっちの方がお気に召すみたいだ。
「フフ……そうでしょ? すごいでしょー牛館さん。お兄ちゃんたちも来れるよう、私が頼んであげたおかげなんだから。感謝してね」
まるで全てが自分の手柄であるように言う妹。真に感謝すべきは微妙な友達の兄貴の同行を許してくれた、牛館サンのご厚意だと思うが。
一同が別荘に入り、みんなリビングへ集まる。そこで、牛館文華サンが切り出した。
「それで、部屋割りなのですが……」
それだ。最も気になり、かつ危険な選択は。
「泊まれる部屋が3つあるので、やっぱり男女で分けるのがいいと思うのですが。
それとも、妹さんは、お兄さんとがいいですか?」
――ここで、ちょうど僕の前に立っていた女子の手が挙がった。
「あっ、ハイ! うちとあげピーは、付き合ってて恋人同士なので、同じ部屋でも全然大丈夫です」
来た。空気を読めるはずなのに、彼氏のこととなると途端にKY(これ死語かな?)と化す、時田さんである。
最近おだやかなので、ただのギャルと勘違いしていた人もいるかもしれないが、こっちの属性の方も忘れちゃイケナイ。
「あっ……そ、そうなんですね? ごめんなさい、気がつかなくて」
牛館文華は顔を赤らめて、手を引っこめた。
うん、それは気づかなくても全然ヘンじゃないから。むしろ気づかれるくらいにベタベタせずにいられた証拠だし。
だが、ここでは時田さんもかなり攻めてきた。
「そうすれば、牛館サンも、あげピーの妹さんと一緒の部屋に泊まれるし、これすごい名案じゃない?」
「えっ……。いや、それはありえないです! 私が文華と一緒なのはいいけど、高校生で2人の部屋はマズいと思う! だったら、私がお兄ちゃんと一緒の部屋で寝ます」
「でも妹さんは、いつもお兄ちゃんと一緒なんだし。いいじゃん、こういう時くらい2人でいさせてくれても」
にらみ合う時田さんと妹。そんなこんなで、言い合いになってしまった。あの性格の2人だ。どっかでぶつかるんじゃないかと、ちょっと予想はしてたけど。
「え、えっと……」
牛館のお嬢さんが、オロオロし始める。正直、どうしていいか分からないというご様子だ。
「僕は大丈夫だから。男2人で同じ部屋にするよ。ええと、名前は……」
ま、こだわりはないから誰と一緒でも大丈夫だ。僕は横を見て、問いかけた。
「……あ。田崎です」
と、憂い顔の少年は答えた。
「なら、田崎くんと一緒で」
「ん~……そだね。あげピーがそう言うなら、それで」
「ええ!田崎くんずるっ………分かった。田崎くん、お兄ちゃん寝相悪いから。気をつけてね?」
それでひとまず、この場は丸く収まったのだった。
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