母は父の家にサプリメントが多すぎるの見て結婚をためらったらしい
「でもさー。不公平だよね」
あのストーカーじみた部屋(…あ、言っちゃった…)に貼られた写真の撤去作業を終えた後。
彼女が
「不公平って、何が?」
不満を訴える彼女に、私は問い返した。
「だってさ。あげピーは学校にいる一般男性?…だから、こういうふうに写真貼ったらヤバく見えちゃうワケでしょ?
でも、これがもし芸能人の写真やグッズを集めてるんだったら、フツーに見えるんじゃない?」
私は特定なアイドルのブロマイドや関連商品で
「まぁ、決して普通ではないと思うけど…。確かに、彼氏・彼女の写真で壁を埋め尽くしてるよりは、ヤバいと思われずに済みそうね」
その場合は一ファンとして、『推してる』ってことで押し通せるだろう。そう考えると便利だな推し。
「でしょ! だったらやっぱ、あげピーだけダメなのは激しく疑問なんだけど!」
「そお……ね」
いろいろ思うところはあったが、答えはまだ見つからなかった。
それから家に帰って夕飯を食べ、宿題を終わらせ(こんなに遅くなったのは珍しい)てから、お風呂に入った。
ベッドに横たわり、
その姿勢のまま手さぐりして、スマートフォンを手に取った。スケジュール機能で、カレンダーを確認する。
「ええと。次、2人と一緒に出かけるのは……ああ、この日ね」
〈伝説研〉で、恒例の散歩に行く日。
私は次回に3人で出かけるのが楽しみになっている己を発見し、自分で驚く。
はじめて〈伝説研〉に2人がやって来た時、
カップルなんかクラブに入って貰っても、
それは、彼女のおかげか。それとも……。
夢の世界へ突入する前に、私の心中にモワモワッ…と、こんな感じの世界線が思い浮かんだ。
『きいてきいて! 今日、あげピーがすきな飲み物が分かったの。なんと、なんと、紅茶ラテ!』
『甘いわね。その情報はすでに得ているわ。彼はいつもカフェで紅茶ラテを頼むもの』
そんな世界の空想。妄想なら、なんだって許されるだろう。いわゆる推しだ、推し。私も最近の若者文化に乗って、推しの1人や2人作ったっていいはずだ。そしたら……
「そしたら今より、さらにもうちょっと、幸せになってたのかしらね?」
苦笑する。呟きは、答えのない疑問形だった。
☆★☆★☆★☆
約束の日、僕は時田みいなの自宅へやってきた。
一度どこかで落ち合う案もあったが、彼女の家へ行くのにわざわざ出てきてもらうのも難なので、僕の方から直接たずねていく約束にした。
1Fのエントランスで、呼び鈴を鳴らした。
「あ、あげピー!!」
スピーカーから、嬉々とした声がした。
「部屋わかる? 下まで行こっか?」と言うので、「あ、ううん。そこ行くから」と答えると、「…わかったあ」なんて少し残念そうな声を残して、自動ドアが開いた。彼女の家の住所は、すでに教えてもらっている。(それも知り合ってほとんど経たないうちに、彼女の方から。)
だからエレベーターで、時田みいなの住む階へ。
昇降機から降りて廊下に出ると、似たような扉がズラッと並んでいたが……そのうちの一つがそっと押され、誰かが顔を覗かせた。時田さんだ。
「いらっしゃ~い♪」
「お邪魔しまーす。………」
思えば、中学以来はじめて異性の部屋に(妹のは除き)
おかげで、ただでさえ彼女の家に来るということで緊張しているのに、なおのことドキドキしていた。
(小学生の頃、何かのグループ学習のため、集まったことがあったかどうか。)
しかし時田さんも、いつもと比べ、あまり顔色が良くない気がした。
彼女に続いて、部屋に入った。
「あっ?」
僕は、思わず声を上げてしまった。
そこには――僕と(を?)撮った写真が3枚ほど、大きく
まず左のは、〈伝説研〉で坂の上神社に行った時、僕ら2人に佐波純子を含めて撮ったもの。
で、真ん中に、ふたり並んで写ってる、僕と時田さんが2人で撮ったもの。
そして右のは……。
「…で、時田さん、この写真は、いつ撮ったのかな?」
「えっ? それは~。あげピーが昼休みに、お弁当食べてた時のだよ?」
「撮られた記憶ないんだけど…?」
なじるように問い質した。「あれ、変だなぁ」と、空とぼけて見せる時田さん。それを聞きつつ、僕の口から漏れたのは溜め息ではなく、クスリという笑い声で。
良いか悪いか知らないけど、この程度はもう慣れっこになっていた。
これは厳密に言うと『盗撮』なのかもしれないけど、彼女が僕との日常を(あるいは僕の私生活を…)記録に残したがっているのは知ってる。
だから、このくらいは許してあげることにしよう。時田さんみたいなヤンデレと付き合うには必要なことだ。(彼女なら勝手に流出させるようなこともないだろうし。)
彼女は僕の笑い顔を見て、
「どしたの? なんか面白いことあった?」
「ううん。時田さんのことだから、てっきり部屋の壁一面に彼氏の写真を貼ったりするんじゃないかと心配したよ」
「えッ!? …や、ヤだなぁ。いくらアタシでも、そこまでするはずないじゃん! いくらあげピーでも、おお…怒るよっ!!」
珍しく、時田さんは怒りを露わにした。
(というのも、顔から火を噴きそうなくらい、真っ赤になっていたからだ。これは強い怒りの表現に相違ない。)
「あ、ごめん。いくらなんでも、そこまでしないよね」
僕は頭の後ろに手を置いた。
「そ、そうだよ~…。……でももし。もしもだけど、ホントにそういうことしてたら……嫌いになった?」
「本当に、そういうことしてたら…?」
そう言われ、僕は試しに部屋中が自分の埋め尽くされている光景を想像してみた。
ああ……流石に
「嫌いになるかは、その時になってみないと判らないけど。間違えなく、ビックリはするよね」
「ってコトわ……引くってこと? うちとの将来をかんがえなおすとか……?」
「有り
それを聞いて彼女は、「そうだったんだ!? 良かったあぁ!!」と、心底安心したような溜め息を漏らした。
ふふ……ありもしない仮定をして不安になるとは。そんな彼女が、なんだか微笑ましくなってしまうな。(というか、将来ってナンカ約束したっけ…?)
「後で、じゅんじゅんにお礼言っとかないとね」
時田さんがボソリと呟いた。
「ん? なんで佐波さんにお礼?」
が、尋ねたものの、「あっ、あっ、女同士の積もる話的なっ? そうあげピーが来たら開けようと思ってたお菓子セットがあるから、持ってくる~!!」と言って、部屋から出ていってしまった。
彼女、佐波純子に何かアドバイスでも貰ったのだろうか?
ま、今度本人に聞けばいいか。そんなこと思ってると大抵、忘れるんだけどね。
この日の残りは、紅茶とお菓子でふたりの時間をまったりと過ごすことができたのだった。
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