おしキャラにコスプレした彼女に脳破壊された件
結論から言うとその後、僕が時田さんへの嫉妬に駆られ、DV男と化し、
共依存的なヤンデレカップルの道を
なぜなら、次に語る凄まじい出来事によって、自分の運命の
☆★☆★☆★☆
「ねぇねぇ。あげピーがこの前、友達と話してたのって、
この、〈シスター・プリンシパル〉っていうので、あってる?」
「え………。……ええぇぇえッ!?」
僕はまるで、昔ギャルにオタバレした男子生徒(The end of life...)のように動揺した。
〈シスター・プリンシパル〉――通称シスプリ――とは?:
前回、同窓会で話にも出たバーチャルアイドルのシリーズで、現在も続編が続いているものだ。
最近でた〈シスタープリンシパル:ハイパームーン〉は、一般からも幅広い層のファンを獲得し、一種の社会現象にもなったのは記憶に新しい。
しかし、この人気作。初代はかなりニッチというか、一部のオタク向けにデザインされた企画である。とても一般人におすすめできるものではない…と、思う。
「あ、や、その…!!
それは、誤解なんだ! これはかの有名な、シスター・アイドルの初代に当たるもので!! 僕が中学の頃、男子の間でとても流行っていたんだ。だから決して、ヘンなものじゃないんだよ!?」
時田さんだって漫画は読むし物によってはアニメも好きだったりするが、モノには種類というものがある。
それがなんで、よりによってシスプリ……。萌え燃え♡(ヤケクソ)
カルチャーショックとカテゴリーエラーが同時に発生したような事態に、僕は挙動不審になってしまったが、何も知らぬ時田さんは、さらに踏み込んできた。
「そうなんだ? そこまでは知らなかったけど、うちはこれ、可愛くて好きだよ?
で……あげピーは、どの娘が好きなの?」
先日、中谷&西郷という元オタク仲間と出会ったせいだろうか? 『ストレートな質問キタコレですなw フォカヌポウw』とか言ってしまいそうな自分を、必死で押しとどめる。(いやそんな発言、したことないけど。)
代わりに、至って冷静に、
「いや。これは、時田さんが知るようなものじゃないよ。今後一生、知らなかったとしても、生きていける」
と答えた。が。
「やだ!!……それじゃダメなのっ」
「え……?」
時田さんの真剣な声が、僕の生半可な恥じらいを黙らせた。
「うち、この前あげピーが友達と、ずっと楽しそうに話してるの聞いて、淋しかったんだよ? 『あたしが知らないこと話してる…』って…」
そうか――。
それを聞いて、気がついた。
僕も、彼女がネット上で有名だった頃のことを知って、元ファンとその話をしたりするのを聞いて、どことなく疎外感みたいなものを覚えてしまっていた。
だけど、そんなふうに感じる必要はなかったんだ。
だって、気持ちはふたりとも、同じだったのだから。
「考えすぎだよ。それに、僕だって同じ――」
「あげピーも?」
「……ううん、なんでもない。そんなことより、シスプリのことだけど」
僕は今時はやらない男のプライドらしきものを発揮して、ひとまず己の心情を隠すことにした。
「このゲームはさ、最初に【マイシスター】っていうのを選ぶんだ」
「まい……しすたー? 何それ?」
特殊な用語に、釈然としない表情で問い返す。
「12人いるキャラクターの中から、特に関係を深めたい妹を選ぶんだよ。そうすると、その娘との間に、色んなイベントが起きたりするんだ」
この【マイシスター】というのは、ゲーム版〈シスター・プリンシパル〉に見られる独特なシステムである。
12人の妹のうち1人を選択し、マイシスターとして登録する。
すると特別なイベントが起こったり、ナビ音声がその妹のものになったりする。
当時、『話を進めなければ親密になれない』のが常識であったこの手のゲームとしては、とても画期的なシステムであった。
「あー。じゃあ、最初に妹が12人いて、
その中から推しの子を選ぶってことで、おk?」
「ああ、そう! そういうこと」
通じたようだ。
時田さんは「ふ~ん!」といって、興味深そうに勢ぞろいしたキャラを見ていた。
『妹が12人もいる』という設定は、いかにもハチャメチャだと思われることだろう。
それを、当時中学生だった僕らは自然に受け入れ……て、なかった。メチャクチャ変な前提だと思ったし、ツッコミまくってたが、そこが面白かった。以下中坊の会話:
友人S「12人も妹がいるって、一体どういうことなんだろうね?」
友人N「決まってるだろ~。それはさ、夜に親が頑張ったんだよ」
ぼく「言うと思った」
とまあ、こんな調子で。
中学生にもそういう遊び心というか、作品の
「で、僕の〈マイシスター〉は、これ」
僕はこちらに向かってウインクしている妹――これといって妹っぽい特徴もないが――を指さした。
「僕はこの、
咲那は人気投票の中でも、当時1、2を争っていた人気キャラである。オレンジっぽい長い髪を、左右で結んでいるのが特徴だ。
「へ~、そうなんだ? あげピーがこれ選ぶの、意外!」
時田さんは笑顔になって僕のマイシスターを認めた。何か嬉しいことあったかな?
「そう? だったら、どれだと思ったの?」
「えっとね…。この娘かと思った」
彼女が指さしたのは、
長い黒髪で、唯一、和風な着物を着ているのが特徴だ。今風な咲那と比べ、こちらはいかにも大和撫子といった感じ。
「こういうなんか、清楚系で、キリッとしてる娘が好きなのかなって」
さすが時田さん……何も言ってないのに、僕のことがよく分かっている。(己の趣味について語った記憶がないので、ちょっぴり恐怖を覚えるが。)
前にも言ったように、確かに僕はゲームなどでそういうキャラクターに心奪われることが多かった。もし他に条件がなければ、この春音を選んでいた可能性も高い。
しかし、どんな星の
「春音は、西郷が選んでたしね。最初から、あまり選択肢になかったな」
「へぇ~。〝同担拒否〟みたいな?」
なるほど……そう思われるのか。興味深い。
言うまでもないかもしれないが「同担拒否」とは、『同じ対象(アイドル・キャラクターなど)を好きなファンとは関わりたくない』という心理的態度のことだ。
僕が聞いた話だと、独占欲が強い人間ほど、同担拒否になる可能性が高いという。
だが、当時のことを思い出すに。
「いや……たぶん、違うんじゃないかな? その言葉、当時は知らなかったけど。なんとなく友達と違うのにしようって思ったんだよね。
なんたって12人もいるんだし、推しキャラが違えば、当たったカードとか交換しやすいから」
そんなわけで僕らそれぞれの
中谷が
西郷が
そして、僕は
僕らのその後の人生を予告するように(と言ったら大袈裟だが)、それはごく、自然に選択したかのようだった。互いにアイドルである妹を
それが、かつての僕らの青春であったというわけだ。
で、僕のマイシスターは、どんなキャラだったかというと――。
「ふむふむ、
〝咲那ちゃんは、自分のことを妹ではなく、1人の女性として見て欲しくて、お洒落やオトナの趣味にも興味津々。お兄様に対し、ストレートな愛情表現をしてきます〟か…。
くししし……これはなんか、イケそうかも!!」
「何がイケるんだい?」
そう尋ねても「ひみつー」と言われ、教えてくれなかった。今度会う時の、お楽しみのようだ。
「清楚系というと。
真ん中にいる、この娘はどう?」
せっかく興味を持ってくれたのだから、なるべく、多くのイモウトのことを知って欲しい。
そんな想いで、僕は最も兄思いで、毛色もナチュラルで、
女の子らしくフリルいっぱいの服を着た妹を指さして言った。
「これは………なんか、地雷感ない? 黒髪で、パッと見ゆるふわ系だけど、めっちゃ裏表ありそう」
「………な、成る程………」
僕は
(*これはあくまで時田さん個人の見解であり作者の見解を表明するものではありません。全国の「お兄ちゃん」たち御免なさい)
にしても。
今後、僕が好きだった物を声に出して音読するのはどうか辞めてもらいたい。こういうのは1人でこっそり思い出に浸って、ニヤニヤ楽しむためにあるのだから。それが正しい懐古の在り方だろう。
☆★☆★☆★☆
……なんてことで動じていた日々は、いつのことだったのでしょう?
その後。マンションの敷地内にあるベンチで、僕は彼女を待っていた。
芝生にはクローバーや、綿毛になったタンポポなど、緑の草が生い茂っている。
遠くで子供たちがシャボン玉をして遊んでいる。のどかな
「おっ待たせ~」
「ああ、時田さん。今日は遅かった………ね……。…………」
時刻を告げる途中でゼンマイの切れた時計人形のごとく、僕は停止した。
今日の時田さんの私服は……。:
上着には、丈の短いデニムジャケットを羽織り。
腰から下には、それよりも濃い紺色のミニスカートと、革製のロングブーツ。
そして、インナーの黒いTシャツに描かれた、ピンクのハート。
それは、他でもない。
かつての僕のマイシスター、咲那の私服、そのままであった。
「お兄様! ラ♡ブ♡よ?♡」
「ぶぅー!?!?」
身動きがとれずにいる中、悪びれもせず、僕にウィンクする時田さん。
あまりの衝撃に、気絶するかと思った。
心臓は全人生、これまでにないくらいバクバクしている。
まさか付き合っている彼女が、中学の頃に好きだったキャラクターの恰好をして現れるなど、誰に想像できるだろうか?
「昔あげピーの推しだったっていう
「いや、こ、ことばに表わせないと言うか、なんというか……!」
僕は我ながら挙動不審に、まず周囲をキョロキョロ見回した。
だが、それがコスプレであると気づく者はいなかった。
そう。キャラの性質上、いかにも時田さんのような若者が着そうなコーディネートであるおかげで、コスプレには見えないのだ。
服装次第では危なかったが、咲那を選択していたことが功を奏したようだ。(これがもし、黒魔術が得意な魔法使い系の妹だったら、ファンタジックな衣裳で目立ちまくっていたことだろう。)
だが、時田さんの準備とやらは、まだ序の口だったらしい。
「ぢゃ。アニメで見たシーン、再現すんね?」
と、軽い感じで宣言してから、
「――ねぇ、お兄様……」
「!?」
僕は、彼女の演技力に驚いた。
その声は咲那に――あるいは彼女を担当していたアイドル声優さんに――よく似ていた。
もちろん、耳を澄まして聞けば本人ではないことはすぐ判る。しかし、抑揚というか、声質というか、…そういった特徴が、僕の知ってる咲那を彷彿とさせた。
それだけでは終わらない。あの頃、アニメ映像や、ゲーム画面に出てきていた恰好で……。
部屋にポスターやカードが飾ってあって、寝る前にいつも見ていた姿で………。
「ねぇお兄様……。この問題、教えてくださらない?」
僕の膝の上に、乗ってきた!!
「まっ、いゃっ! も、悶っ…! 鯛!??」(これまで出したことのない奇声)
「もぅ、お兄様ったら。恥ずかしがり屋さんなんだから。そんなことより~。
…ねぇ、お兄様? 今度。新色のリップが出るの……。
次の休日アウトレットモールに、買い物に付き合ってくれると、うれしいんだけど」
「いうっ、ひゃぁぁあっ……!!?」
「ね。付き合ってくださる?」
「う、……うん、つつ、、つきあうヨ!!?(勿論)」
はい、お手上げ。もう、お手上げだ。
イモウト万歳!!
腹の内から込み上げてきたものを(たぶん魂とかそんなのだ)、なんとか抑え、いや抑えきれず、息も絶え絶えになりつつ声を出した。
「よ゛…よく、そこまで憶えたね?」
「ん? まあね。『コレがあげピーが好きなものなんだぁ』って思ったら、
そう答える時田さん。予想を超えた僕の反応に、ご満悦の様子だ。
「でもあげピー、メッチャ嬉しそう~!
実はさ。あたしも調べてて、この娘が一番共感できたんだよね……。途中から、楽しくなっちゃっていうか。
買い物も、咲那ちゃんの恰好で行っちゃおうかな?」
「いや……。今日だけに、しよう…?」
――この日、それから何をしたのか、あまり憶えていない。
もしかしたら、ぼくらは禁断のインセスト・エンドを、迎えてしまったのかもしれない。
炎上間違いなし!
☆★☆★☆★☆
「お兄ちゃんさー」
「ん、なに?」
「ここに貼ってあったポスター、剥がしたんだね」
「………ああ。そうだよ」
妹ずっと部屋にやってきて言った。
壁にずっと貼ってあった、シスプリのポスターのことだ。
「良かったんじゃない? だってあれみんな、妹なんでしょ?
お兄ちゃんが何を好きになろうと勝手だけどさ。現実にイモウトがいるのに、あれはどうなのって思ったよねー」
「……別にいいだろ。空想と現実は別なんだ」
僕は最近とみに雌ガキ感高まるリアル妹の言葉に、少々ムッとして言った。
そう、空想と現実は、別にしておいた方がいい。それが一つに混ざると……大変なことになる。
何のために来たのか。妹はそれだけ言うと出ていこうとしたが、不意に足を止めて、
「あ、でもあれ。
真ん中の子はちょっと、可愛かったよね」
「!! ああ、あの、『いかにも清楚系』って感じの娘だろ? 淡いフロマージュのような、白とピンクのワンピースはまさに王道の清楚け…」
「ん、そうだね。
服装といい、見た目といい、
いわゆる童貞を殺しそうなキャラ?」
「…………」
(*これはあくまであげピー妹個人の見解であり作者の見解を表明するものではありません。全国の「お兄ちゃん」たち御免なry
……時代って変わるんだなぁあ……。
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