同窓会でびっくりされる(2)

 同窓会の当日。時刻は夕方頃。


「や。あげピーお待たせ~」


 時田さんが、待ち合わせ場所にやってきた。


 今夜の彼女の恰好は、ボーイッシュな感じだった。頭には紺色のキャップ。普段の低めツインテールは、うなじのあたりで一つにまとめてある。


 ま、同窓会といっても打ち上げの延長のようなものなので、華美な恰好の方が高校生には相応しくないだろう。パーティー利用OKなファミレスに団体予約してるだけだし。


「こんばんは。来てくれてありがとう。

 じゃ、行こうか」


 そのまま、別な場所で待ち合わせていた中谷と合流する。こちらは、これから結婚披露宴にでも出席するのだろうかと思われるような服装だ。同級生がポマードで髪をオールバックにしてるとことか、初めて見た。


「よ、よう。あげ…………!?1?」

「こんにちは! 時田みいなです。今日はよろしくお願いしますっ」


 時田さんは、わりと普通に挨拶した。


 で、旧友の反応。


「…………」


 中谷はしばし、ハトが豆鉄砲を食らったかのように目をしばたたいていたが、現実をやっと認識したかのように我に返ると、


「こ。この方が本当に、あげピーの、彼女様なのでせうか?」


「日本語変だけど。なんか問題が?」


 時田さんに聞こえないようにするためか、中谷は僕を隅の方に引っぱっていき、耳許で、


「きっ…聞いてないぞ! どう見てもギャル様じゃねえか?! 俺らの中学にもいなかった種族だぞ? 最上級職だぞ??

 ど、どんな手を使ったんだ?」


「どんな手も何も。そんな驚くようなこと?」


「いや絶対驚く。喜べ……今日のTik Takの主役は、お前だ」


 いや、全然嬉しくないんだけど。


 阿呆らしい話を続けながら、会場である店へ向かう。すると入り口付近で、


「あ、もしもし? 来てる来てる。こっちもう始めてるから。んじゃ!」


 電話をしながら、幹事を担当している同窓生が出てきた。

 いかにもこういうことをやりそうな中学のクラスの中心、長田ながたくんだ。


 ちょうど開始予定時刻を回ったくらいだが、他の連中は、もうかなり集まっているらしい。皆さんお暇なことで。


「おっ、中谷にあげピー、久しぶり。あれ、そっちは?」

 幹事は僕の後ろにいる、見たことのない女子に目を向けた。


「フ……この御方をどなたと心得る。あげピーの恋人なりける、時田みいなじょうであらせられまする」


 旧友が、奇妙キテレツな日本語で彼女を紹介した。これが、我が国の進めてきた英語偏重教育の成果であろうか?


「ええぇっ!! マジ!? 連れてくるのって彼女だったの?」


 驚きの声を挙げながら、長田くんは僕らより先に店内へ戻っていく。その様子を見た同胞どうほうたちが、入口付近に集まって、


「お…おい! あげピーの、彼女が来たぞ!」

「えっ、ほんと? あげピーに彼女できたの?」

「あげピーなら、出来るでしょ。なんもおかしくないって」


 冷静に答えたのは、ペリー川窪かわくぼ。かつて歴史教師の『黒船に乗って浦賀にやって来たのは誰か?』という質問に答えて以来、あだ名がペリーになってしまったニヒルな男だ。本来なら、この程度で動じる玉ではない。


 しかし。


「それが、……ギャル、なんだよ……」

 

「ええっ!!? う、うそでしょ?!」(by 川窪)


「あげピーがギャルと付き合ってるの…!? ど、どうして…!」


 ざわ……ざわ……と。店内の騒がしさが、これまでと違ったものになる。


 どうやら高校進学後の僕にすぐ彼女が出来、かつそれがギャルであったことは同窓生たちに相当な衝撃を与えたらしい。


 なんか、なんとなく悔しいんだが……どうしてくれよう?


 僕は時田さんと、隣り合わせに席に着いた。食べ放題&ソフトドリンク飲み放題のコースだそうで、注文するなり、僕らは元・クラスメイトたちの質問攻めに遇う。


「付き合いたいって、どっちから言ったの?」


「えっと…。告白は、あたしから」


「そうだったね」と僕。


 けど時田さんは、あの当時のことを思い出したような切なげな目で、


「なんか懐かしいなぁ。……最初、断られたんだっけ……」


 ――ギクリ。


「ええー!? なんでなんで?」


「『付き合うには早すぎるから』って……」


「まあ、初デートだったから…」と付け加えるも、「いいじゃんな、そんなの」「おい何やってんだよあげピー!」などと男子たちにはやし立てられる。

「もぅ、それだけ真剣だったってことでしょー?」と言ってくれる女子もいるが、……まあ、誤解じゃないかな。見てきたら分かると思うが、そんな美談びだんになるようなことをしたわけではない。


「それで、どうしたの?」


「それは、もちろん……あたしの方が、諦めきれなくて……(ぽっ)」


「「「おーー!?」」」


 これはなにか、皇族かナニかの婚約発表であろうか? というくらいの盛り上がりで。僕らは報道陣に囲まれ、スッカリ主役になってしまった。僕はそういうの苦手なのに、ホントまいったな……。


☆★☆★☆★☆


 一段落して、報道陣は各社(各テーブル)へ戻ったものの、まだ僕らのことが話題になっているのがわかる。


 それをきっかけに、恋愛関連の話題が増え始めた。現在の就学先で気になってる相手のことを旧友に相談したり、林間学校であったフォークダンスのことを回顧かいこしたり、この場を借りて中学の頃には告げられなかった想いを告げる者まで出る始末。


 いい出汁ダシになってる気がしないでもないが、忘れかけていた話の種を提供できるならよしとしよう。

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