伝説に導かれて
ここで、
元々、
そもそも放課後に、
学校に居やすい場所が出来たのは、とても大きなことだ。
【伝説同好会】の主な活動は、さまざまな言い伝えが残る町・村の探索、および研究。
昔ながらに、会誌の発行や、文化祭に向けた活動をしたりもしているが。
写真や動画を撮ったりして、SNSにアップロードすることもある。このあたりはいかにも、現代の高校だなという感じ。
とはいえ『伝説を求める』という名目上、行き先は必然的に、神社や寺、歴史を感じさせる名所旧跡などが多くなる。JKたちの活動としては、かなり渋いと言わざるをえない。
だが、神社や寺のある場所には、観光地も多い。
前に行きたいと話していた温泉を初め、さまざまな景勝地。山、湖、テーマパーク、田舎の別荘、海水浴…。思えば、このクラブのおかげで、色んな所に行けた気がする。
そして――いまなら言える。〈伝説研〉がなければ、僕と時田さん、一般人とヤンデレギャルの交際は、確実に破綻していただろうと。
だとすると、ここに引きつけられたのも運命だったのだろうか。
で。この日、僕らがこの会の活動で最初に訪れた場所は。
☆★☆★☆★☆
【
日本国内では、
――というイメージがあるが。電車を降りた先は、同じ「幕張」の名を冠していながら、かなり
付近に、近代的なビルディングの類いは一切なく。車道に面した通りに、民家はそれほど多くない。
大きなラーメン屋や飲食店が疎らに存在する以外には、
開発に遅れた、というより、開発を拒んでいるかのようなエリアだった。
「知らなかった。幕張に、こんな場所があるんだね」
家からもそう遠くないので、僕も海浜幕張には何度か遊びに来たことがあったが、その時の記憶とも懸け離れていた。
このあたりは〈新都心〉というよりも、〈郊外〉と言った方が似合っているだろう。
「私たちは伝説を研究するのだから、メディアに露出していて、写り
大体この辺りの土地は、意外と、歴史が古いのよ」
「そうなのかい?」
それなりに車が通る脇の歩道を歩きながら、佐波純子が解説した。
「ええ。その昔。奈良時代から食べられてる
マクワウリ――マクワリ――マクハリってね」
地名の由来というやつだ。小学校の社会科の時間に調べさせられた憶えがあるが、僕が住んでいたのはこのあたりではなかったので、知らなかった。
「地名の由来か。そういうのも、伝説の一つってことかな?」
「そうね。…まあ〈幕張〉の地名に関しては、それからずっと後の、
「へぇ……。スゴいな」
この町の歴史の深さに、というよりかは、佐波純子の知識量に驚いた。同い年というより、社会科の先生に聞くような感じだったから。
「幕張に限った話じゃないわ。
うちの活動にとっては、申し分ないわね」
自分のことを言われているとは思わなかったらしく、この地域の特色を説明してくれる部長代理。
僕は、こういった話を聞くのは好きな方である。彼女の話は、時田さんといる時とは違った意味で充実する。
さすが高校ともなると、いろんな人がいるなぁ。
「……ていうか、あげピ君、こういう話聞いてくれるのね……」
「ん? 変かな。わりと興味深いしね。
それで、今日の目的地はどこなの?」
「もう見えてきてるわ。私たちが行くのは、あの坂の上よ」
「上?」
佐波さんが指さした先には、小高い丘があった。その上は木々に隠れていて見えないが、周囲と雰囲気が異なり、古い建物がありそうに見える。
「あそこに、神社があるの。ホームページもないから、このあたりの人しか知らないわ」
気づけば、道にも傾斜が付き、立ち並ぶ家にも特徴が出てきた。
ほとんどが一軒家だが、区画整備された住宅街とは違い、色んな所に散らばっている。
……
ここ、本当に神社へ続く道か?
「意外と歩くんだね……?」
「こんなことで、ば…バテるなんて、まだまだね。
私が小6の頃、富士山を歩いた時は、みんなヤンチャで、こんなものじゃなかったわ……」(息切れ)
見るからに、佐波さんも疲れていた。
とにかく、目的の山は見えるのだから、正しいルートを選びさえすれば、すぐ辿り着けるはず。
「あっちから来たよね? それでこっちの道はもう通ったから……」
などと立ち止まって、考えていると。
「アゲピーィィ…」
という声が、
当初はあまり好きではなかったはずの
声のした方を見ると、時田さんが僕らの方へやって来るのが見えた。
「トキタサ――…ン!?」
近くまで来るなり。時田みいなは、僕に抱きついてきた。
恥ずかしすぎる…。これはもしかして、もう条件反射のようなものなのか?
「ゴメンね遅れて……。これって、感動の再会っていうの?」
時田さんは、うるうるしていた。今日は白くてもポップでふもふした印象の服に身を包んでいるが、あいにく名称が判らない。(語彙力)
「ううん、僕は大丈夫さ。それより、謝るなら――」
僕が視線をやると、時田さんも佐波純子の方へ向き直り、
「ジュンジュンもゴメンっ! 後でジュース
「(ジュンジュン……?)…べつに、気にしてないわ。なんなら、もうちょっと時間がかかっても良かったし……」
佐波さんの説明で耳が慣れていたおかげだろうか。彼女が小声で言い添えた言葉を、かろうじて僕は聞きとれたので、
「時間かかっても……? どうして?」
「! な……なんでもない!!」
顔を逸らしてしまった。やっぱり彼女は、気むずかしい様子。
もしも佐波純子の方がツンデレということになれば話は非常に解りやすいのだが、そう上手くいかないか……。現実は、ラブコメ系少年漫画とは異なるのだから。僕は〈五〇分の花嫁〉とか好きなんだけども。
「でも時田さん、よく分かったね。ここらへん、道がだいぶ複雑なのに」
「言ったっしょ? あげピーとうちは、運命の赤い糸で繋がってるんだから」
可愛らしくウィンクして、茶色い髪の
佐波さんはと言えば、同級生男女のノロケぶりに「………」と気まずそうに顔を背けているが、至極正常な反応だと言えるだろう。
「で。なんか立ち止まってたみたいだけどー。ここ、何かあるの?」
「いや、このへんに神社があるはずなんだけど、道が入り組んでてさ。なかなか目的の場所に、辿り着けないんだ」
「そうなの? GPS使った?」
「あ……、まだ使ってない。電池がすぐ無くなるから」
これは僕の理由。一方で、佐波さんはというと、
「そうやって、文明の利器に頼ってばかりいると――。
なんだか自分の実力が足りなかったような気がして、悔しいのよ…!!」
彼女は彼女で、独特な考えをお持ちのようだった。
「そうなん? あ、でもあげピーの携帯、電池切れちゃうのは困る……。寂しくてうちが死ぬ」
と時田さんは、彼氏が出来てスマホ依存症になってしまった女子高生みたいなこと(*注:「みたい」ではない)を呟いたが、僕の苦笑を見て気を取り直し、
「しょーがない。じゃあ、うちので調べてあげますか」
時田さんは張り切った様子で地図アプリを起動すると、すでにGPS機能をオンにしてあったらしく現在地を確認した。
「地図だと、いまココなんだけど。探してた場所、この中にある?」
「えっと………たぶん、
「あ、コレか。うん、ぢゃあ……多分、こっち!」
時田さんを先頭に、歩きだした。僕と佐波さんも、その後に続く。
これは、やっと辿り着けそうな予感……!
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