最初の日曜は
約束の日曜日。僕は待ち合わせの駅前で、時田さんを待っていた。
やることもなく、ぼうっと待っていた……という訳でもない。僕なりに、そこそこ考えることもあった。
こうしてみると、高校が始まって、初めての日曜日だ。正直なとこ、
僕の人生哲学として:人生なぞ、同じような繰り返しの連続。これといって変わり映えのしない
ところが、現実はどうだ? 早速、新しい学校で仲のいい友達――明け方まで長電話する女の子――が出来て、いきなり一緒に遊びにいくなんて。これまでの僕からすると想像できないことだ。何もかも、うまく行きすぎてるくらいに。
……いや、待て、本当にそうか? 本当に、全部が全部
時田みいなは、すごくカワイイ。野暮なことは言わないけど、男女問わず誰からも羨まれるような、容姿にセンス、プロポーションさえ兼ね備えている。
話してて楽しいし。連絡のない僕のことを心配してくれたように、人のことを思いやれる優しさもある。
そんな彼女が、なぜ? どうして後ろにいただけの僕と一緒にいたがるのだろう?
ただの友達にしては、何かヘンだ。どこか、歯車が噛み合っていない部分はないか? たとえ噛み合っていても、彼女を構成する個々のパーツが、予想できない動きをしてるような……。
しかし、まあ、考えすぎなのかもしれない。時田さんは(ギャルということを除けば、)別に何の変哲もない、普通の
人間は、誰しも自分のことを特別な存在だと思いたがるものだ。
かの天才詩人・中原中也もこう言っているではないか。「選ばれてあることの、恍惚と不安、われにあり……」(あれ、これ中原中也じゃないか?)
「あげピーお待たせ~!!」
僕が高校生らしい
今日は、いつもの
白を基調にしたTシャツにカラフルなハーフパンツ、その上に丈の長いパーカーを羽織った明るい装いで、ぱっと見、ファッション誌の街角スナップなどに撮られていても不思議はない。
対する僕の方は、紺のポロシャツに、カーキ色のズボンという無難な装いだった。
……無難と言っても、自分でそんな判断ができるほどファッションのセンスがないのだが、
いつだったか家族で出かけた折、服屋に寄ることになり、そのとき例の妹に「いや、それありえないから!」と
その時は、『さすが幼稚園の頃からアイドルの着せ替えゲームをやってた元・幼女先輩は違うなあ……』と、大いに
が、それがこうして役に立ったのだから、妹の口うるさいアドバイスに耳を貸して良かったようである。
「はぁ。あげピー、カッコいい……」
時田さんは口に指を当て、涎を垂らさんばかりにこちらを見つめていた。もう僕にメロメロらしい。(いや冗談だよ?)
2人で歩きだしても、なぜか僕の後ろに回り、いつにも似ず怖ず怖ずとした様子だったので「どうかした?」と尋ねると、
「え? ……いや、だってさ。
あげピーカッコいいから………あたしなんかが隣を歩いたら、なんか悪いような気がして……」
What? なに言ってるんだ、このコは? どう見ても、それはこっちの台詞なのに。
「アハハ、時田さん、お世辞がうまいな」
こういうとこでも、コミュニケーション上手なギャルの特性が出ているということなのか? さっきから時たま振り向いてくる人がいるが、まるで大人気インスタグラマーのごとき容姿の、彼女が気になってのことなのは明らかだった。
まあ。ただの友達とはいえ、そんな彼女と2人きりで過ごせていることに、僕も秘かに喜びを感じないこともないのだけど――。
☆★☆★☆★☆
駅から徒歩7分の、アミューズメント施設に入った。(これにはやたらと長い信号の待ち時間も加算してるので、距離だけなら駅前と言っていい。)
このアミューズメント施設、1階にはアイスクリーム屋やハンバーガーショップ、ゲームセンターなどがあり、
2階の奥に映画館がある。休日を楽しむ人々に混ざって、僕らはエレベーターに乗った。
「うーん。映画、久しぶり~」
緊張がほぐれたらしい時田さんが、息をつくように呟いた。
「僕もだよ。時田さんは、けっこう映画くるの?」
「ンッとね、3ヶ月ぶりくらい? あげピーは?」
「え? ……1年くらいかな」
僕と時田さんとでは「久しぶり」の感覚が違っているらしい。このあたり、効かんでもいいコントラストが効いている。
本当はもっと前な気もしたが、言わないでおいた。
永らく来てなかった映画館は、思ったより天井が高かった。
はしゃぐ彼女と隣り合わせに座る。しばらくして、急に暗くなったと思うと、スクリーンに火が灯り、館内が仄明かりに包まれた。
映画のタイトルは、〈The Rings of Twilight ~かわたれの指輪伝説~〉。
内容は、昔人気のあった日本のアニメを、ハリウッドが映画化したもの。
原作はそこまでスケールが大きい話ではなかったはずなんだけど、いつの間にか世界滅亡の危機になっていたり、何てことなかった脇役が黒幕になっていたり、主人公とヒロインが愛の力で世界を救うところまで、何ひとつ期待を裏切らないハリウッド映画だった。うむ。世は全て、事もなし。
でも。その最中、ビックリすることがあった。
映画の内容ではない。時田さんの手が、急に僕の袖をつかんだのだ。
「―――っ」
驚いて、彼女の方を見る。
画面のスクリーンが蒼白く、または黄色や赤に点灯するのに合わせて、時田さんの頬が色あざやかに染まる。だが、その眼差しは、まっすぐ前を向いたままだった。
『無意識に、やってるのか? それとも――…?』
ギュッと。暗い部屋で、子供が安心を求めてくるような感じだった。
僕も幼稚園に行く前、親と一緒に見た映画で、海底に沈んでいった怪獣の目がピカッと光った時にそんなことしたような気がする。
が違いとしては今、隣にいるのが時田さんであることと、主人公がヒロインと一緒に崩れ落ちる城から逃げ出そうとするシーンだということだ。
僕はどうしていいか判らず、かといって手をどかすこともできず、そのまま映画が終わるまで
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