第4話 「二人きりのデート」
「蒼樹さん蒼樹さん、少し良いですか?」
「あ、ああ……」
「隣のあなたは、確か中野さんでしたよね。ちょっと蒼樹さんお借りしますね」
芽依に連れられて、俺は美佐から離れる。声が届かないことを確認してから、芽依が言った。
「もしかして、蒼樹さんが言ってた好きな人って、中野さんのことなんですか?」
「え、何でそれが……」
「女の勘ってやつです。蒼樹さんから好き好きオーラが出てました」
「出てねえだろ!? ……出てねえよな?」
「不安にならないで下さいよ……冗談ですって」
本気で疑い始めた俺を呆れたように見つめる芽依。
「それで、私は中野さんと蒼樹さんの仲を取り持てば良いんですよね」
「そうしてくれると助かる」
「じゃあ今からショッピングでもしましょう! 私、良い所知ってるんですよ!」
「それお前がやりたいだけじゃね?」
「そ、ソンナコトナイデスヨー」
口笛を吹こうと唇を尖らせる。因みに口笛は下手くそだ。
「とにかく、決定です。中野さんにも伝えてきますね~」
それだけ言い残すと芽依は美佐の方に走っていく。その後を追って、俺も合流する。
「……そういうことなので、ぜひショッピングに行きましょう! 皆で!」
「良いけど、蒼樹は大丈夫?」
美佐が聞いているのは俺の体調に関してだろう。俺が学校に何も持ってこないほど頭が回っていない状態で遊びに行ける余裕があるのかという疑問だ。
「大丈夫だよ。寧ろ、気分転換に丁度いい」
俺の言葉に安心したのか、美佐が笑顔を浮かべる。
「なら良かった。それで、えっと……あなたの行きたい場所ってどこなの?」
「最寄駅から二つ先の駅周辺にあるショッピングモールです! あと私のことは芽依って呼んで良いですよ」
「分かったよ、芽依ちゃん。あたしのことも、名前で呼んでいいよ」
女子同士の急接近が熱い。って、そんなことを言っている場合ではない。主役は俺で、目的は美佐との距離を縮めることだ。
「早く行こうぜ。夜遅くになると親も心配するだろうし」
*
ショッピングモールと言うだけあって、様々な店が展開されていた。
「で、何でお前はそんな恰好してるんだよ」
「何のことですか?」
いつの間にかサンタ姿になっていた芽依。クリスマスも終わっているのにそんなコスプレをしてると確実に目立つ。そう思って周囲を確認するが、奇跡的に誰からも注目を集めていない。……なんでだ。
「あそこ行きましょうよ!」
「あれってお洋服が売ってる店だよね? しかもレディースの」
そう言って美佐が俺を見る。男一人だったら間違いなく気まずいけど、今は女子が二人もいるから変に意識する必要はないだろう。
俺は心配してる美佐を安心させるように頷く。先行して歩いていく芽依の後を追って俺たちは店の中に入る。
「わぁ……すごい」
女性服が所狭しと並ぶ光景に美佐が圧倒される。
「ねぇねぇ、これとかどうかな! 似合うと思う?」
美佐が明るい笑顔で服を持ってくる。聞かれても美佐なら何でも似合うとしか言えない。
「うん、良いと思う」
「なんかすっごく適当じゃない?」
「適当じゃないって!」
誉め言葉が適当に聞こえるのは俺の語彙力の問題だ。それに、好きな子を褒めようとすると恥ずかしさが込み上げてくる。
美佐が楽しそうに服を選んでいるとそれだけで絵になるなと見惚れていると、どこからか店員がやってきて、俺達に声をかけてくる。
「お洋服お探しでしょうか。あ、もしかして、二人はお付き合いされてる感じですかね?」
げえ、と言いかけて何とか堪える。服屋にくると大抵店員が聞きに来る。カップルかどうかまで聞いてくるのは初めてだが。
それにしても、今店員が気になることを言っていた。
「二人……? 芽依はどこに行ったんだ?」
周囲を見回しても芽依の姿は見えない。ここに来るのを提案したのは芽依なのに。もしかしたら好き勝手に歩き回っているのかもしれない。そう思ってスマホを起動する。するとメッセージが届いていた。
『なんか滅茶苦茶大切な用事ができたので帰りますね! 別に思惑とか何もないですけど、大切な用事なので!』
……どうやら先に帰っているらしい。絶対この大切な用事なんて嘘だろ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます