第1章・伝説の夜明け

1話・白銀の騎士

 1220年、ガレリア大陸の中央部に位置する大国ガリエールは、今緊迫状態にあった。北西に位置するエルザリア王国のジョン王が不穏な動きをしているのだ。この日も、岸からエルザリア兵が押し寄せていた。

「嫌だ……死にたくない!」

「お、俺もだ! 逃げよう! バレやしねぇよ!」

 鎧を纏ったガリエール兵二人が隊列から逃れ、木の陰に隠れるようにして会話をしていた。

「全く、情けないな」

 その背後から、凛とした声が二人を捕らえた。二人の兵士はぎょっとして振り返った。彼らの目線の先には、声の主であろう、白い馬に跨った白銀の鎧の騎士の姿があった。

「なっ……何だと!? 誰だ貴様!」

 兵士は反射的に騎士に向かって槍を構え、攻撃態勢に入った。だが、その行動は騎士がとった行動によって制止された。騎士が兜を取ったのだ。金糸の様に輝く髪がふわりと揺れ、整った顔が兵士たちの目の前に現れた。兜の下のその顔は、このガリエール王国の王子オーギュストそのものであった。

「お、王子様……!?」

 二人は驚きの余り、二、三歩後ずさりした。

「なんでこんな所に……!?」

「この格好を見て判らないのか? 戦いに来たに決まっているだろう」

「王子様が……? 何故ですか?」

「国の危機なんだ。兵士だけに戦争を任せるわけにはいかない」

 オーギュストは真面目な顔で答えた。

「しかし……危険です! 直ぐにお帰りください!」

「お前らこそ、もう帰るつもりだったんだろ? 帰ったらどうだ?」

 王子の言葉に、兵士たちは決まりの悪い顔で言葉を詰まらせた。王子は、兜を再び被ると、手綱を引いた。白馬に跨った王子は、草原の向こうへと颯爽と走り去っていった。


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