夕焼けに落ちる涙
放課後の学校で俺は駐輪場にいた。
一人で帰ろうと自転車の鍵をさしたら、抜けなくなってロックが解除できなくなった。
やべぇな……
俺はどうにか抜こうとガチャガチャといじっていた。
「あれ?どうしたの?」
彼女が声をかけてきた。
俺はいじるのをいったん止めて、彼女の方を向く。
「えっと……鍵…抜けなくなっちゃって」
俺はアハハ、と軽く笑った。
恥ずかしいところを見られてしまった。
「それ?ちょっとやってみてもいい?」
彼女は俺の自転車の鍵を見て言った。
「あぁ、うん!いいよ」
俺は少し自転車から離れて、彼女が入るスペースを作った。
彼女はよいしょと言って自転車の前に座った。
僕は彼女が鍵をいじる光景を見て微笑んだ。
一生懸命に外そうとしている彼女がかわいかったからだ。
「あ!取れた!」
彼女はそう言って僕に鍵を見せた。
「凄くない?取れたよ!」
彼女は嬉しそうに笑う。
「え?すげぇ!マジか!」
俺も彼女と一緒に喜んだ。
「どうやったの?」
俺は彼女に聞いた。
「えっとね、こう……横にピッてやって縦にスッてやったら抜けたよ」
鍵を抜いたときのジェスチャーを擬音で表現した。
ちょっと説明がアホっぽいところもなんだかかわいい。
「よかった〜帰れなくなるところだった。ありがとうね」
俺は鍵が外れた自転車に乗った。
「まって。帰り道途中まで一緒だったよね」
彼女に呼び止められた。
「うん、一緒だけど」
俺は首を傾げた。
「じゃあ、そこまで一緒に行こうよ」
彼女はそう言って自分の自転車に跨った。
もちろん俺は了承した。
「うん。いいよ、行こう」
俺と彼女は自転車を並べて帰り道を走った。
「でも珍しいね」
俺は彼女を視界に捉えながら言った。
「なにが?」
自転車で走る俺らは少し声が大きくなっていた。
「いつも友達と帰ってるのに今日は一人だったから」
「今日は用事があるってみんな先に帰っちゃったんだ。だから一人なの」
彼女はそう答え、
「でも一緒に帰れる人がいて良かった」
と俺の方を見て続けた。
俺はその言葉にドキッとした。
好きな人にかけられる言葉は、どんな言葉よりも嬉しくなってしまう。
でも彼女が好きなのは俺じゃない。
俺が彼女にどんな言葉をかけても、俺じゃない誰かの言葉で彼女は嬉しくなる。
そう考えたら胸がギュッとなるような感覚に陥った。
俺はなんとか表情を変えないまま
「よかったね」
と返す。
そんなことをしていたら、いつの間にか彼女との別れ道に来ていた。
「じゃあ私こっちだから、またね」
彼女は手を振り、こちらを振り向かず進んでいった。
「うん、またね」
俺は彼女の後ろ姿を見送った。
一度くらい振り向いてくれないかなと、淡い期待を込めて。
夕日が彼女の背中だけを真っ赤に染めていた。
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