涙零れる星の夜

神木駿

零れる涙

 俺には好きな人がいる。


 高校生の時から気になっていて、片想い歴4年目だ。


 俺の気持ちに彼女は気づいていない。


 そんな俺に、彼女は度々恋愛相談を持ちかけてくる。


 仲のいい友人としてアドバイスをくれないかと。


 俺は彼女の相談にのる。


 本当はそんなの聞きたくもない。


 彼女が俺以外の男が好き……なんて話をされても胸が苦しくなるだけだ。


 彼女の好きな人に好きな子がいたら、なんて考える悪魔が俺の中に住み着いている。


 そんなことを彼女は知らずに連絡が来る。


『ねえねえ、聞いて!今日、先輩と喋っちゃった!!もう、かっこよすぎてヤバい!!」


 好きな人の話になると、語彙力が低下する。


 彼女はいつもこんな感じだ。


 俺は


『そうなの?良かったじゃん』


 とありきたりな言葉でしか返せない。


『でねでね、今度一緒にご飯行こうって誘われたの!!😆』


 彼女は嬉しそうに絵文字を使う。


『へぇ〜いいじゃん!行ってきなよ』


 顔が見えないチャットで良かったと毎回思う。


 面と向かってだと、絶対言えない言葉を俺は送信する。


 本当は行ってほしくない。


 顔を合わせると、その言葉が口から出てしまう。


 だけど彼女がほんとに楽しそうにしているのを見ていると、それを邪魔することなんて出来ない。


『何着てくのがいいかな?清楚系?それともスポーティな感じがいいかな?』


 彼女が他の男の為に服を選ぶ姿を想像したら、また胸が苦しくなる。


『自分の好きな服を着てくのがいいんじゃないかな。ありのままが一番だよ』


 俺は冷静に言葉を紡ぐ。


『やっぱりそうだよね!ありがとう!』


 彼女は俺にそう返す。


 今もご飯に行くときの服を選びながら、俺と会話しているのだろう。


 時折返信が途切れることがある。


 俺はつくづくお人好しだなと感じた。


 好きな人がいるなら、どんな手使ってでも手に入れればいいじゃないか。


 たまにこんなことを言われるが、そんなのはただの自分勝手なやつがすることだ。


 本当に好きなら、その子が幸せになるのが一番のはず。


 俺のことが好きでもないのに、俺といて幸せなはずがない。


 一番幸せにしたいはずの人を幸せに出来るのは俺じゃないのは、とっくの昔に分かっている。


 だからといって離れることも出来ないから、こうして恋愛相談にのってしまうんだ。


 次の日も、彼女から連絡が来る。


『今日さ〜すっごい楽しかった!!マジで先輩カッコいいし、優しいし。情報が多すぎて、頭パンクしちゃいそうだった』


 デートと呼ばれることのないデートは楽しかったみたいだ。


『そっか!楽しかったなら良かったね!先輩のカッコいいところは、ちゃんと見れたみたいだしね』


 俺は思ってもいないことを書き込む。


『そうなの!でもね、私が緊張しちゃって、気を使わせちゃったかなって思ってちょっと反省中なの』


『気にしすぎだよ。逆に女の子に気遣い出来るいい男だってことが分かったじゃん!』


 俺はライバルであるはずの男を持ち上げる。


『確かに!その考え方天才だね』


 彼女は俺のことを褒める。


 でも、俺が天才なら今、好きな人とこんな話をしないでいられただろう。


 俺は彼女とのトーク履歴をながめた。


 スクロールしていくと俺の目がだんだんと霞んで、胸が締め付けられる。


 何度も同じような相談を彼女からされている。


 だけどそこに俺はいない。


 いないのが分かっているけど、どうしようもできない俺だけがそこにいる。


 流れ星がいくつも流れるその夜に、俺の涙も一粒だけ落ちていく。

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