【害蟲駆除ゲーム】蠱毒、終わりのない死の螺旋。

カミトイチ@SSSランク〜書籍&漫画

ゲームスタート



 ――月明かりのみが照らし出す、夜の校舎。



「な、なんなんだよあれェ!!?」

「うるせえ!! 静かにしろよ!! 居場所バレるだろうが!!」

「と、とにかく、何処かに隠れようよ、それでやり過ごそ?」


 俺達三人はひたすらに、ただただ祈りながら廊下を走り回る。


「でも、何処にかくれるっつーんだよ!? お前も、見ただろ!? 教台の下に隠れてたオッサンがあっという間に喰われたのを!!」


 ――その言葉で俺の脳裏にあの光景が蘇る。


 無数の黒い生き物が教台のしたへなだれ込み、ギチギチという謎の異音を放ち男を喰らう光景。


 彼の叫びは、校内中に聞こえるんじゃないかという絶叫で、生まれて始めて聞く人が死ぬ時の、苦痛に耐えながら絶命する時の叫びだった。


 思い出すだけで震えがくる。


「......いや、けどあれは奴の位置からは丸見えだった! 慎重に隠れる場所を選べばおそらく大丈夫だ!!」

「こ、殺し......ねえ、わたしたちも、また......食べられて死ぬのかな」


「し、死ぬ!? いやだあああ!! 体中喰われて死ぬのだけは、あああっ!! 怖い、怖い!!」

「落ち着け! ゲームマスターも言っていただろう、このゲームは......俺たちが負けを認めなければ、また生き返れる」


「馬鹿野郎が!! 生き返ってもまた喰われんだぞ!? あんな苦痛な死に方をどれだけ」

「しっ」


 ――廊下の前方。


 白いワンピースの白髪の少女がたっていた。


「は!? え、え? 回り込まれたのか、俺たち......!?」

「うそ、だって私達の後ろに、追いかけてきてたよね?」


 その少女は、ぺたりぺたりと素足のままこちらへ歩み寄ってくる。


「お、おまえ、なんで俺たちを襲うんだよ!! もうやめてくれ!!」


 その問いかけに、少女はにこりと微笑む。


 美しい、しかし幻想的で危うさの交じる儚さ。


「さっきも言ったでしょ? あなた達が食べたぶん、今度は私達が食べるんだよ」


 そう答えた少女の目から黒い涙が流れ落ちる。いや、あれは涙がではない。

 ぼろぼろと、目からこぼれ出す黒いもの、それはおびただしい数の蟲。


「大丈夫、ちゃんと綺麗に......残さず食べてあげる」


 やがて目玉がぼとりと落ち、双眸は仄暗い井戸のよう。真っ黒な穴がこちらを見据えていた。

 その穴からは未だ蟲が溢れ、こぼれ、ぞわぞわと出続けている。


「いひひっ、いたあだきまああすずず」


 口からも大量の蟲が噴き出し、俺たちは来た道を引き返す。

 しかし。


「う、うああああっ、あああーーー!!! いや、やめろおおお!!」


 蟲の動きは途轍もなく早く、ケイタの脚を捉えていた。

 ギチギチという蟲の咀嚼音。あっという間にケイタの脚からは血が吹き出し、床に広がる。


「ケイタ!! くそっ!!」


「た、た、たすけ......ぐっ、う!? おぼっ、あっ」


 手をのばすケイタ。しかし、それも虚しく。


 目から、鼻や口、ありとあらゆる穴から蟲が溢れ出し、内臓からケイタは喰われ始めた。

 耐えがい苦痛に、ケイタは自分の体を掻きむしる。


 蟲が口と鼻から溢れている為、悲鳴にもならない異様な叫びをあげるケイタ。


 びくびくっ、と痙攣をし始めた。


 ......こ、これは、もう......くそっ!


「......け、ケイタ......」

「......ケイタ、くん......」


 ケイタが犠牲になっている隙にアヤメの手を引き俺は逃げ出した。


 なんで、なんでこんなことに......!!


 くそ、わけがわからねえ!!なんで俺たちがこんな妙なゲームに!!



 〜一時間前〜



「......ん、ぇ」


 ――月明かりに照らされ、俺は目を覚ました。


 真夜中の中学校。そこにある教室のひとつに気がつけば俺、ヤマトは居た。

 見覚えのある風景。ここは五年前に俺が勉強をしていた場所だ。


「ちょっと、どこよここ!」


 声を荒げる一人の女性。茶髪で髪を団子にしている。制服からして、高校生。


「そりゃ、私が聞きたいな。 いつのまにかなぜ学校に......明日も仕事なんだぞ。 早く家へ帰らせてくれないか」


 白髪交じりのスーツを着たサラリーマンのような男。彼は、疲れたような声でそう言った。


「まあまあ、落ち着きましょうよ! よくわからないのは皆同じですよ。 というか、普通に帰ればいいのでは?」


 明るい話し方をする男。スーツを着ているが、こちらは白髪交じりの男と違い、おそらくはホストとかそういう感じの人だ。


 そして、彼に答えるよう、扉から出ようとしていたOL風の女性が言う。


「でられないわ。 鍵でもかかってるんじゃないかしら......びくともしないわよ」

「な、なんだと......明日の先方との会議は、どうすれば」

「うるっせえよ、中年オヤジ! ああー、アタシみたい生主の放送あったのにぃ」

「な、なんだこの口の悪いガキは!?」


 なんだかすごい状況だな。


「ヤマトくん?」


「え?」


 振り向けば、幼馴染のアヤメがいた。彼女は幼稚園からの縁で、今通う大学も同じ。腐れ縁という奴だ。


「アヤメ、お前もいたのか」

「うん、ヤマトくん......あのさ、ここに来たときの記憶、ある?」

「来たときの、記憶? ......あれ、そういえば。 俺、どうやってここまで来たんだ?」

「そっか......やっぱり、皆おなじなんだね」

「そうなのか?」

「うん、校門を通った記憶すらもないんだって、皆も言ってる」

「そっか」


 わけがわからない。誰かに連れてこられたのか?

 寝てる間に?......ますます意味不明だ。


 っていうか、夜の学校って雰囲気あるな。......めちゃくちゃ不気味だ。


 あたりを見回していると、またもや知った顔が居た。


「ん? あれ、ケイタ?」


 あちらも気がついたようで、駆け寄ってきた。


「おお、ヤマトだ!! なんなんだよココ!?」

「それは俺も聞きたいな」

「ケイタくん、こんばんは!」

「あ、アヤメちゃんもいたんだ!」


 ケイタも俺とアヤメと同じ大学。お調子者で、明るいムードメーカー的な存在だ。


 そして窓際にもう一人。窓際におかっぱの女の子がいた。

 見たところ中学生くらいで、どこのかはわからないけど制服を着ていた。


 お団子の中学生、白髪交じりのサラリーマン、ホスト風の男、OLのような女性、アヤメ、ケイタ、おかっぱ中学生、そして俺。


 全員で八人か。



『――皆様、お集まりいただきありがとうございます』


 突然、校内放送用のスピーカーから流れた女性の声。


「だ、誰よ!?」


 お団子髪型の女子高生が驚きながら声を上げた。


『始めまして、人類の皆様。 私はゲームマスターです。 そして、急ではありますが、お集まりいただきました皆様にはこれから簡単なゲームをしていただきます』


 ゲームマスター?ゲーム?

 何を言っているんだ......?


 皆も同じ気持ちだったと思う。場は何を言い出したんだこいつ?というように静まり返る。


『ゲームの内容はいたってシンプル。 殺すか、殺されるか』


「お、おい!」


 白髪交じりのサラリーマンが慌てて言う。


「こ、殺し合いって......ここにいる人間でか!?」


『いいえ』


「で、では誰とだ!?」


『それは、あなた方がいつも殺している生き物......蟲です』


「は? む、虫を殺す?」

「......どういう事? 害虫駆除の仕事ってこと?」

「な、なんだ、そういう事か」


『そう、蟲です。 皆様が蟲を殺すか、蟲に殺されるか。 これはそういうゲームです』


 え?虫だろ?殺す事はあっても殺されるなんて......もしかして、雀蜂とか毒のある虫って事か?

 それならちょっとヤバいな。


「あの、やるなら早くしましょう? アタシさっさと家に帰りたいんだけど......」


 OLの女性が少し苛ついたように急かす。


『わかりました。 では、最後にルールを3つ』


 1、蟲か人か、どちらかが全滅すればゲーム終了。

 2、ゲーム終了後、全滅したのが人側の時に誰か一人でも諦めなければリトライ可能。次のゲームへ移る。

 3、自死したプレイヤーは諦めたとカウントされる。皆様が自死を選んだ場合、蟲側の勝利でゲーム終了。

 3、ゲームが完全に終わるまでは校内から出られない。


「リトライ可能?」

「じ、自死って......どういうことだ?」


 皆の頭上にはゲームマスターのルールの意図がわからず「?」が浮かんでいた。


『これは、人の行く末を決めるゲームです。 頑張ってくださいね。 では、ゲームスタート』


 ゲームマスターの宣言が終ると同時に、教台の前に小さな少女が現れた。

 腰まで伸びた白く美しい髪。病的に白い肌。


「うおっ、誰君!? いつの間に? え、え? つーか、君めっちゃ美人さんじゃん」


 ホスト風の男はその少女に歩み寄る。

 すると、少女はにこっと微笑み、こう言った。


「そう、あなた達が選ばれたの。 楽しく遊びましょうね」


「え、遊ぶ?」


 その時、ホスト風の男の表情が固まる。しかしそれは彼だけではなく、俺たち皆がそうだった。

 あまりに異様な、少女の顔。


 先程までの美しい顔ではなく、目と口が真っ黒になっている。

 今までに感じたことの無い、不気味さと悪寒。


 すると突然。


「え、な、なんだ......!? なんか服の中に、痛いっ」


 ホスト風の男がバタバタと体をよじりだす。


「む、虫!? 痛え!! いぎっ、いぎゃあああっ!!?」

「ふ、服脱げばいんじゃん!? 何してんのさ!」


 そう近寄ろうとしたとき、女子校生がとてつもない声で、叫んだ。

 彼女の目の当たりにしたもの、それは。


 ゾゾゾゾ......!!


 ホスト風の男の顔に張り付きうごめく、おびただしい数の黒い虫。


「なんだありゃ!!?」

「いやあああっ!!」

「ご、ご、ゴキブリ!?」


 そして男が床に倒れた。べしゃっという異音。床にはトマトを遥か上から落としたかのような、果肉のようなモノが広がる。

 男の体中からギチギチという鳴き声とともに大量の黒い虫が食い破り出てきた。


「く、喰われてる......!!?」

「とにかく逃げろッ!!」

「うわああ!? こ、殺されるッッ!?」

「いやあああっ、やだあっ」

「は、はやっ」


 目の当たりにした死に、その場にいた全員が本能的に危険を感じ、一斉に逃げ出す。


 その喰い潰された男の体から漂う鉄の匂いに、誰もが嘘だと、偽物だという可能性を頭の中から排除せざるえなかった。


 少女の体から溢れ出した黒い蟲。


 禍々しく、そして不気味な鳴き声を発し遺体の周囲に飛び回っている。

 教室を出て、扉を閉めても聞こえてくる羽の音は、獲物を仕留めて昂ぶっている獣のように思えた。


「ど、どこに行くの!」

「警察は!? 誰か連絡っ」

「さっきから全然電波がきて無いんだよ!!」

「え、壊れてるんじゃ......あ、私のもだ。 うそ、なんで」

「じゃあ近場の派出所に走るしか」

「い、いや、あれをみろ」


 指差す先。学校の敷地から外側には、完全な闇が広がっている。


「あれ、出られるのか?」

「「......」」

「わけ、わかんねえ」


「と、と、とりあえず、一旦どっかの教室に隠れよう」


 最初に襲われた場所から一番遠い教室へと急いで入る。そして素早く扉の鍵をかけた。


「よし」

「な、なにも良くないわよ! どうすんのよあのばけもの!」

「うるっせえ、黙れクソビッチ!! ぶん殴るぞ!!」


 女子高生を怒鳴りつける白髪交じりのサラリーマン。その突然の豹変ぶりに皆、言葉を失う。


「いいか、あいつは蟲だぜ? どんだけ殺傷能力が高かろうが蟲なんだよ」

「......だ、だから?」

「頭つかえや、ガキ。 どっかに殺虫剤かなんかあるだろうが」

「......そんなので殺せるのかな」

「やってみねえとわから」


 ガタガタッ!!


「「「「!!?」」」」


 扉が激しく動いた。ガラス越しに見えるのは、黒い影。


 皆、息を殺し、口を閉じた。

 場に走る緊張感。目の前で九死に一生を得た、俺たち五人には恐怖心が植え付けられていた。


 怖さでガチガチと歯を鳴らすOL。過呼吸気味に胸を抑える女子高生。

 そして、白髪交じりのサラリーマンは、ゆっくりと教室に一つだけあるロッカーに静かに向かっていた。


(こいつ、一人だけ隠れる気か!?)


 位置的に俺しか気がついてない。皆は扉の向こうの化物に気を取られていた。

 どうする、このままだと......全滅する!

 しかしその時。


「あの、私が囮になりましょうか」


 おかっぱの中学生は俺にそう小さく耳打ちした。


「お、囮だと? なんで」

「私、実は恐怖心が無いんですよ。 だから、この中で誰よりも冷静に動けると思うんです」


 恐怖心が、ない?意味分かんねえ!!んなわけあるかよ!!

 どういうつもりかしらねえが、そんなまねさせられるわけないだろーが!


「いや、けどそれは危険すぎるだろ」

「でも、やらなければどの道皆死にますよ」


 確かに、それはそうだ。


「......ぐ、具体的には?」

「あなたが教室の反対側の扉を開けてください。 私があの蟲の前の扉を開きます。 皆が教室を出たタイミングで私も逃げます」

「逃げれるわけねえだろ! あいつ尋常じゃねえ速さだったろ!」

「大丈夫、私のほうがはやいですから」

「は、はあ?」

「さっきも言いましたけど、このままだとどの道みんな死にますよ?」


 いや、けど。ああ、もう......くそっ、しかたねえ、か!


「わかった」

「良かった。 では、」

「けど、蟲側の扉は俺があける」

「......え?」

「お前より俺のほうが早いし冷静だ」

「......手、震えてますよ?」

「え、あ、ああ、これね。 武者震い......つーか、恐怖を感じねえっていうなら、お前こそ皆を先導して上手いこと逃げてくれ頼む」

「......そう、ですか」


「何のお話をしているんですか?」


 ――ぞくっ


 悪寒が背をなぞる。


 声の方を見れば白い少女。


(と、扉......開いてないのに、なんで......)


 睨むような目つきでゆっくりと俺を見た。


 い、息ができな......


 目があうと彼女が、ニタァっと笑った。


「い、いけ!!!」


 俺の叫びを合図に、おかっぱは扉の鍵を開け勢いよく教室を飛び出した。

 ああ、殺される......脚が震えて動けない。


「あなた、なぜ残ったの」


 予想外の展開。さっきは問答無用で男を喰い殺したのに、どういうわけか会話を試みようとしている。

 俺は答えた。


「......俺ならお前から逃げられるとおもった」

「そう。 できそ?」

「......難しいだろうな......」


 間近で見る少女。こうしているとハッキリわかる。

 どちらが強者でどちらが弱者か。

 俺は、間違いなく喰われる立場にある。


「そう、じゃあ食べちゃうね?」


 にんまりと笑う彼女は、化物というには幼く少女相応の可愛らしさがあった。


「ひとつだけ、聞かせてほしい」

「なあに」


 捕食時に入ったのか、目と口が真っ黒に変わる。


「このゲームの真意を教えてほしい......俺たちは何をやらされているんだ?」


「ああ、そんなこと」


 少女の目から、鼻から、口から蟲がうじゃうじゃと這い出てくる。


「あなた達は、私達を害虫と呼び殺してきた。 けれど、あなた達も同じ」

「同じ?」

「あなた達が喰い荒らしたせいで、この星の命は尽きようとしている。 だから、神様が決めようかって提案してくれたの」


 な、何をいっているんだ?神様?


「これは害虫駆除。 人か蟲か、生存者はただひとつなの」


 その瞬間、脚から侵食する激痛。それが全身を覆い、俺は倒れ込む。

 目や口、鼻から侵入してくる蟲が食道を喰いながら進み、軈て胃や腸を喰む。

 叫びたくとも喉を破られ、血が吹き出てそれも出来ない。


 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い


 苦し痛い死にたくない死にたくない痛い痛い痛い





「――はっ」


 気がつくと、教室の中。


 周囲を見渡せば、お団子の女子高生、白髪交じりのサラリーマン、ホスト風の男、OLの女性、アヤメ、ケイタ、おかっぱの中学生。


 そして、教台の前には


「ふふ、まだ遊んでくれるんだ」


 白いワンピースの少女。


 ......夢、じゃない。


 あの体中を這う蟲の感覚、皮膚や内蔵に噛みつかれた時の耐え難い苦痛......あれは間違いなく本物だった。


 俺たちは、逃げられない......のか?




 ――それから俺たちは何度も何度もゲームを繰り返した。


 校外へと脱出しようとした。すると暗闇に触れた人は途端蒸発するように消え死んだ。


 プールへと逃げた。しかし水中にもやつらは来て、真っ赤な血溜まりが出来た。


 ある時は教室で作戦をたてている時。机の中から視線を感じ見れば少女の白い顔。

 飛び出して来て、そのままアヤメの口へ蟲が侵入。体中を喰われ死亡。


 ロッカーに隠れてやり過ごそうとしたケイタは隙間から侵入してきた蟲により食い荒らされ死亡。逃げ場もなく、そのまま棺桶となった。


 喰われて死ぬ事は、とてつもない痛みと苦しみが伴う為、開始五回目ほどで自死を選択する人が現れ始めた。


 しかし、それでも、あきらめたくない人間だけはゲームを攻略しようと、未だもがき糸口をみつけようと夜の校舎を彷徨っていた。




 ――そして、今、二十回目。


 殺虫剤を探しに走り回っているところで、少女に遭遇。


 ケイタが捕まり喰われ死亡。



 必死に逃げ、体育倉庫へとたどり着く。


「......あ、あのヤマトくん」

「ん、どうした?」

「このゲーム終わらせられるのかな」

「終わらせられる、と思う」

「どうやって」

「まだ試してない事があるだろ」

「殺虫剤?」

「ああ、殺虫剤を使えば殺せるかもしれない。 試して見る価値はあるだろ」

「で、でも......そんなのどこに」


 確かにありそうな場所は調べ尽くした。職員室、用具室、雑品類を置いている部屋も......どうして無いんだ。

 まさか、あらかじめ蟲の少女が処理していたとか?だったらもう、勝ち目が無いんじゃ。


「「......」」


 なんて返せば良いのかわからない。そしてその沈黙は俺の心にも暗い影を落とし始める。


 あんなに苦しい思いを、これからどれだけの回数すりゃいいんだ?


 アヤメもケイタも、他のみんなも......精神の限界が来ているように見える。


 っていうか、もしかして、諦めてないのは俺だけなのかもしれない。

 もしかして、俺さえ諦めれば......楽になれるのか?


 人が負けて根絶される。けど、俺たちがそんなものを背負う必要あるのか?


 死んでしまえば、それで......。


 ――ガラガラッ!!


 その時、倉庫のドアが空いた。


「「!!」」


「......あ、見つけた」




 お、おかっぱの中学生。


「な、なんだよ、お前か。 ビビらせんなよ......」

「むっ、その言い草。 これをみてまだそんなこと言えるの?」


 おかっぱが手に持っていた物に俺とアヤメが目を丸くする。なぜならそれはこれまでいくら探しても見つからなかった物で、そして一番ほしかった物だったからだ。


「「殺虫剤!!」」

「ふふん、殺虫剤。 しかもスプレータイプだよ」

「すげえ、どこで見つけたんだ!?」

「そとに置いてあった。 多分、使ってそのままだったんだよ」

「なるほどな......道理でありそうな場所にねえわけだ」

「で、でもこれで!」


 アヤメがグッと拳を握り笑う。


 そうだ、これであの蟲の少女を......殺せるかもしれない!!


「けほっ」


 アヤメが咳ごんだ。


「? 大丈夫か? 嬉しくて興奮しすぎたか? はは」


「ヤマトくん、ヤバい」


 険しい顔でおかっぱはアヤメを見た。


 アヤメは――


 口からボトボトと蟲を吐き出していた。


 やがてそれが白い少女に成る。


「あ、それ、私も探してたの。 やっと見つかったね」


 少女は嬉しそうに微笑む。アヤメは未だ蟲に喰われ、体がビクビクとわずかに震え続けている。


「......くそっ」

「......」


 逃げ、られるか?いや、逃げなければ......この殺虫剤を最悪、何処かに隠してから死なないと不味い。

 こいつもこれを探してたということは、危険視していた、つまり効果があるということだ。


 死ぬなら、隠してから。


「逃げろ!!」


 と、おかっぱに叫んだ時。


 彼女の体は蟲で埋め尽くされていた。蟲達が肉に歯をたてている音。


「く、そっ」


 しかし、おかっぱは蟲に喰われながらも、腕を動かし俺に殺虫剤を手渡そうとする。


「!!」


 俺はそれを奪うように取り、全速力で走り出した。


 蟲の少女はこちらを見るだけで追いかけては来ない。


 不思議に思いながらも、とにかく走った。


 そして、中庭の畑へ。


「ここに埋めて、次のゲームで......皆でかかればあいつにこれを、殺虫剤を吹きかけることくらいは出来るはず。 それで」


 そうだ、この悪夢のようなゲームから開放される。そして、俺たちの――


「俺たちの勝ちだ、ぶふっおっ、?、まぎ......がっ」


 腹、に、穴?


 腸がずるりとただれ出た。


「おぼっ、ぶっ、が......あ、あがっ、が」


 口いっぱいに広がる、鉄の味。


 そして、大量の蟲が噴き出した。


 ふと前を見れば白い蟲の少女が。


「ふふっ、びっくりした? 私の卵、すごい速度で孵化して育つんだ......さっき、あなたの体にこっそり卵うえつけちゃった」


 こ、これ......で、アヤメの体内に、も。


「正解だよ。 だから、追う必要なかったんだぁ」


 ......ぐっ、がはっ。


「今回は、殺虫剤(これ)みつけてくれたから、苦しめないで殺してあげる。 ふふ」


 くすくすと笑い声が、する。

 もう、目が見えない。


 多分、殺虫剤は処理されちまう。


 もう、終わりかな。


 これでゲームオーバー。


 次から勝ち目ゼロのゲームが始まる。


 もう、疲れたな......。


 俺は『諦めた』

















 ――目が覚めると、暗い教室に居た。


 目の前には白い少女がいる。


「さあ、遊びましょう」







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