第XII話 夢で見たあの頃
——その日、夢を見た。
しかしそれは自分の思い描く理想を見せる“覚めてほしくない夢”でも、ごく稀に見る途轍もなくホラーな“夢でよかった夢”でもなく、現実で起こった出来事の振り返りであった。俺の視点はあくまで第三者目線……例えるなら監視カメラが捉えた過去映像を眺めているような、そんな感覚。
現実で起こった出来事の振り返りなので、俺の視界に広がる光景はもちろん俺自身にも見覚えがあり、ドアのノック音と共にそれは始まった。
コン、コン。
「どうぞ」
「失礼します」
入室許可の声に応じるようにドアがガチャと開かれ、高校の制服を身に纏った……他の誰でもない俺が一礼して誰も座っていない椅子の隣まで歩いてくると、そこで静止した。俺の目には、立場の偉そうな見知らぬ男女3人が映っている事だろう。その真ん中には……後に俺の上司となる“眞田咲希”の姿が。
——そう、これは俺が葉田中遊園地に就職する前に行った就職活動の一環……面接事の記憶である。
◇
「では、お掛けになってください」
「失礼します」
俺は言われるがまま、隣にある椅子に学校で散々習った礼儀正しいらしい動作を踏まえて着席する。
この時の俺は緊張してた。高校入学する際のを除けば人生で1度目の面接で、就職先の候補はまだ幾らかあるという状況にも関わらず、もし落ちてしまったら人生終了も同然だと思っていたのだ。
「じゃあ、出身校と名前を言ってくれる?」
真ん中の女性……眞田咲希が俺を見つめながらそう言ってきた。
敬語ではなく馴れ馴れしく聞いてきた事に少し驚いたが、遊園地という職場では第一印象や人柄が大事なのだろう。だからここで“優しい女性”というイメージを就活生に植え付けようとしているんだ……と、当時の捻くれた俺はそう考えていた。
「はい。
「へぇ……これで“たすく”って読むんだ、じゃあ今日はよろしくね」
「はい」
「じゃあ早速なんだけど、幾つか質問ね。血液型は?」
「……へ?」
予想外の質問に、俺は思わず変な声を出してしまった。
志望動機とか自己PRとか、最近気になったニュースや長所短所などの面接でよく聞かれる質問に対する返答はすぐ答えられるようにしっかり用意してきたが、まさか血液型を聞かれるとは思ってもいなかった。
——多分、こうやって予想外の出来事が起こったとしても臨機応変に対応できる能力があるかどうかを試しているのだろう……当時の俺はそう考えた。
「あ、もしかして“そんな質問が来るとは思わなかった”って思ってる?」
「は、はい……」
「志望動機とかってさ、本当の理由は“給料が高いから”とか“正直どこでもいい”とかなのに、わざわざ話盛ってそれっぽく言うよね。でもそんな用意された言葉を言われて、面接官の心に響いてると思う?」
この人の言い分は、正直物凄く共感出来た。先生からはよく“面接官は色んな人を見てきてるからすぐ見抜かれるよ”と言われてきたが、それってつまり嘘も見抜かれてるって事じゃないか? と。嘘だってバレてる(もしくはそう思われてる)ならわざわざ志望動機とか言う意味無いんじゃないかとずっと疑問に思っていた。
「いや……思わないですね」
「だったら私はその人の事を別の角度から深掘りして、もっとその人の事を知りたいなって思うの。だから履歴書に書かれてない事を聞いたの」
「そうだったんですか……じゃあ改めて、私の血液型はO型です」
「そうなんだ、私もO型なの! もしかしたら気が合うかもね!」
「そ、そうですね……」
俺は引き攣り気味でそう返した。血液型が同じイコール気が合うという考えは幾ら何でも人間の事知らなすぎだろ、と思った。
その後は眞田咲希の発言通り、俺が予想もしていないような“俺という人間を深掘りする質問”を沢山され、返答した。将来の夢だとか好きな女性のタイプ、好きなゲームのジャンルなど自分の中の面接に対する価値観を全てひっくり返すような、全く意味の無い質問ばかりであったが、すべて自分のことなので案外すんなりと返答できた。
眞田咲希の両隣にいる偉そうな位の男性はほぼ置物と化していた。俺の履歴書になにかメモのようなものを取っているようだったが、そもそも質問の内容がアレなので碌な事は書かれていないだろう。
「——じゃあ面接、そろそろ終わりにしよっか。どう、肩の力は抜けた?」
「まぁ……それなりに」
「そっか、今日はありがと。君の事知れて嬉しいよ」
「……? そ、そうですか。それは良かったです」
俺は眞田咲希の発言に、言葉に出来ないくらい小さな違和感を感じながらも頷いた。その後は面接らしく、椅子の隣に立ち上がって一礼、再び“失礼します”と言って退室した。
面接を終えた後は合否に対する不安よりも、とにかく“終わってよかった”としか考えていなかった。
合否の結果はお察しの通り、合格という事になり俺は晴れて葉田中遊園地の社員として、社会人として働く事になったのだが。
——まぁこれらの出来事の中で最も予想外だったのは、初対面時は明るそうな上司というだけの印象だった眞田咲希が、実は俺に対して異常な感情を抱くとんでもない
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