第24話 ロクデナシファミリー
サキと咲希先輩が帰って以降、誰かが面会に来る事は無かった。そのお陰で一人で何も考えなくてもいい時間を過ごせたが……別に期待していた訳ではないが、両親が来る事は無かった。
いくら家を出ていった親不孝者とはいえ、殺されかけて入院しているとなれば普通は来るだろう。たまたま用事が合わなかっただけなのか、それとも完全に見放されたか……。
「まぁ、仮に来たとしても寝てるフリしてやり過ごすけどな……もう関わりたくねぇし」
俺は独り言を呟いて、ただ意味もなく天井を見つめた。
別に虐待に遭っていた訳でも、両親がいわゆる毒親だったからでもない。本音を言えば、嫌いな訳でもない。まぁ父親は人間性も相まって嫌いだが。
本来ならここで過去を長々と語るのだろうが、正直人間の面倒くさい一面が前面に出るから簡単に……。
◇
俺の家族構成は父、母、姉、そして俺の四人家族。これといって毎日が充実しているほど裕福でも無ければ、毎日ひもじい思いをするほど貧乏でもなく……ごく普通の家庭だ。ある一点を除いては。
——父親がロクデナシなのだ。まぁ働いて給料貰ってくるだけマシだったが……逆を言えばそれだけだった。家に帰って来ては愚痴ばかり、酒を飲めばエスカレートし、やがて日頃の文句が始まる。言い返せば“誰がこの家建てたと思ってる”だの“誰の金で暮らしているんだ”だの言ってくる。
そんなクソ人間と結婚した母親は、そんなゴミ夫とは絶対に釣り合わないほど真面目で、子供の為なら自分の事など顧みない性格だ。社内いじめに遭いながらも我が子の為に心身共にボロボロになりながらも頑張る母親は憧れだった。
しかし母親も人間。日中は虐げられ、帰ってきては毎晩夫の愚痴を聞かされ、家事に追われて睡眠時間は少なく、休日も夫の食事の為に起こされ……そんな日々を過ごした結果、俺の高校入学をきっかけに職場を退職、何を言われてもビクともしないメンタルはガラスのように脆くなり、毎朝トイレで嘔吐、髪は白く、まるで死にかけの老婆のようになってしまった。
——世間ではよく離婚が騒がれているが、俺は“離婚する”という選択肢を選べる事は幸せだと思っている。そしてこんな家族に生まれたからこそ、“結婚”という言葉が幸せには聞こえないのである。
「侑……!」
突如、病室の扉が開かれると同時に俺の名前を誰かが呼んだ。俺は天井から声の方向に視線を向けると、そこには数年間顔を合わせていなかった姉の
「何しにきた」
「何って、お見舞いに決まってるでしょ! ママから侑が病院に搬送されたって聞いて——」
「別に来なくていい」
「何その言い方!? こっちは心配でわざわざロケ抜け出してきたのに!」
「——まだアイドルなんてやってんのか」
俺は蔑むように瀬里香に背を向けながらそう言った。
瀬里香はアイドルを夢見る少女だった。そして中学生の頃、母がアイドルグループのオーディションに勝手に応募し、なんとそのまま合格、アイドルとして世に出ていった。
「もう引退して、今は女優やってる」
「顔に恵まれてよかったな。いや、お偉い方の隣で寝たからか?」
「——まさか侑を一人にした事、まだ根に持ってんの?」
優と芽理が諸事情で遊べない日は、いつも瀬里香と一緒に遊んでいた。しかしアイドルとなってから瀬里香は家を空ける機会が増え、それに伴って俺は独りになってしまった。
正直、根に持っていないと言えば嘘になる……だが、俺が瀬里香を良く思っていない理由はこれではない。
「ただの嫉妬だ。お前は夢を叶えてもらって、俺は夢への一歩すらも歩ませてもらえなかった……夢を叶えてそれを体現するお前が見たくないから、俺はテレビを買ってすらいないんだ」
「——あっそ。もうそろ時間がヤバいから行くわ。あ、これ置いておくから後で見て、それじゃ」
瀬里香は手に持っていた紙袋をベッドの近くに置くと、そのまま急いで出ていった。忙しい中わざわざ会いに来たというのにこんな態度取られちゃ、そりゃ機嫌悪くなるのも当然だ。でもこの後はイケメン俳優とか芸人とかと一緒に歩いて美味しいもの食べて笑って……って、俺の事なんて頭の中から消していくんだろうな。
——あーあ、マスコミとかにイケメン俳優と熱愛疑惑の写真を激写とかされて炎上しねぇかな。
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