第20話 恥ゆえ、愛の証明方法

「さて、そろそろセールの時間だから行ってくるわね。ミズキ、私のタスクに手を出したら殺すから」


 サキは怯えている水希に更に追い討ちをかけるように脅すような事を言い放つと、そのままマイバッグを持って買い出しに出掛けていった。


「そ、そういえば学校はどうだ水希?」


 水希を落ち着かせる為、俺はそんな事を聞く事にした。水希のビジュアルと男っぽい性格なら、少なくとも俺よりは楽しい青春を謳歌している事だろう。


「あっ……あぁ、楽しーぜ。まぁ女友達が極端に少ねーのがちょっとな……あ、居ねぇって訳じゃねーからな?」

「そっか、お前が楽しそうで何よりだ。ほら俺と初めて会った時、凄く内気な性格だっただろ?」


 そう。実は水希と初めて会った時は今のように男っぽい性格ではなく、人付き合いの苦手そうな内気な普通の女の子だったのだ。しかし徐々に俺に心を開いていく内に、性格が男っぽくなっていったのだ。

 だから水希のこの性格はもしかしたら、少なからず俺の影響があるのかもしれない。


「ああ。当時のオレは内気だったからさ、他人であるオレに優しく接してきてくれたたす兄にちょっと憧れてたんだよな」

「憧れって……俺そんな凄い人間じゃないけどな」

「でもたす兄との出会いがあったから、今のオレがある。こう見えてたす兄には感謝してんだぜ?」

「いや、それは違うぞ」

「え?」

「自分を変えられたのは水希、お前自身の力だ。俺との出会いっていうキッカケはあったにしても、な」


 俺は水希にそう告げる。

 世の中にはキッカケがあったとしても変われない人間なんて沢山いる。そんな俺みたいな人と比べたら、キッカケを機に変わろうと思って実際に変われる人は十分凄いと思える。


「そ、そっか……オレ、凄いのか」

「ああ。俺も見習いたいくらいだ」

「なぁ、サキ姐の買い物ってどれくらい時間掛かるんだ?」


 不意に、水希はそんな事を聞いてきた。

 だがそれを問うた時の水希は、何処か様子がおかしかった。具体的な事は言い表せないが、先ほどまでの“関わりやすい男友達感”は無かった。


「さぁ、サキが買い出しするの大体俺が働いてる時だからな。まぁでもそんなに時間掛からないんじゃないか?」

「そっか……」

「何だ、まさかサキが恋しくなったのか?」

「オレ、たす兄にずっと会えなくて寂しかったんだ。男友達とつるんでても、何か違うっつーかさ……寧ろ他の男と関われば関わるほど、たす兄が恋しくなるっつーか」

「何だ急に」

「久々に会えるって思って舞い上がって、普段何もしねー髪もわざわざドライヤーとかして、こんなオシャレまでして来たっーつのに、たす兄にはもう妻が居てさ……なんか自分がバカみてーだよ」


 水希は表情を見せたくないのか、俺に背を向けてそんな事を呟く。しかしその声は男勝りな口調に反してかなり弱々しく、改めて水希は女なんだと再認識される。

 しかし、本当に急にどうしたんだ。とりあえずこの日の為に普段しないような事をしてきたのはわかったが……。


「本当にどうしたんだ、水希?」

「オレだって女の子なんだよ……だから誰かに対して恋するし、好かれる為に色んな事もする。だから……」


 すると、水希はこちらに振り向いたかと思いきや俺の体を掴んでベッドに投げ飛ばし、その上に再び馬乗りになった。しかし先程とは明らかに表情が違い、まさに“恋する乙女”というに相応しい甘い表情だった。


 ——正直に言うと、薄々勘付いてはいた。でもだからと言って“お前まさか、俺のこと好きなのか?”と聞くのも、そう思うのも気色悪い。だから鈍感なフリをして自分を……水希を誤魔化してきた。だがここまでしてきたのだから、流石に言い逃れは出来ない。


「——サキ姐が居ないこの瞬間だけなら……我慢しなくてもいいよな、たす兄?」


 水希は愛おしそうな目で俺を見つめながら、囁くような小さい声でそう言ってきた。

 何でだ……そりゃもちろん恥ずかしいのはわかる、公共の場で告白なんて相当勇気がいるのもわかる。


 ——でも、どうして人というのは誰かを除け者にして、隠れながらじゃないと想いを……他人への愛を証明できないんだ。

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