第15話 EP.0【前編】

 俺の名前は明日河あすがわたすく、田舎の遊園地で運営スタッフを勤める社会人2年目の19歳である。

 冬の夜は凍えるような寒さで、車の中ではエアコンを付けていないと手先が悴んで運転なんてしてられない。だが安い中古車だからか中々温まらない上に何故かドアの隙間から冷たい風が入ってくる。

 ——ああ、何かの間違いで凍え死んだりとかしないだろうか。


「っ……!」


 突如、左右の見通しが悪い十字路の曲がり角から老人みたいにおぼつかない足取りの女性が出てきた。俺は急ブレーキを掛けたが間に合わず、女性を車で轢いてしまい、更にタイヤが滑ってあらぬ方向に曲がって壁に激突した。

 車が止まった後、俺は少しバックしてから急いで外に出て被害者の女性に駆け寄る。


「大丈夫ですか!? あのー、しっかりしてください!」


 俺はボンネットに寝転がったまま動かない女性に向けて声をかけるも、返答は無し。まさか死んだのかと思い、俺は脈を確認しようと女性の手首に触れようと手を伸ばす。


「あ……あ……」

「一応、生きてるっぽいな」

「ウゥ……ィァアイ……」

「……ッ!?」


 女性は呻き声を上げながら起き上がると、何故か俺の方に向かって歩みを寄せてくる。しかしよく見ると、その女性は明らかに首の角度がおかしく、手足も真逆の方向に曲がっていたのだ。

 まるでそういう類の幽霊にでも遭遇したような気分だった。俺は向かってくる女と一定の距離を保つ為に後退りをする……が、後ろはすぐ壁になっており、俺は逃げ場を失ってしまった。


「呪い殺されんのか、俺……せめて普通の死に方が良かったんだがなぁ」

「ィイイイイアアアア!!!」


 女は奇声を上げて俺に襲い掛かろうとした……その時だった。


「ハァァアアアアアッ!!」


 突如叫び声が聞こえてきたかと思いきや、次の瞬間には被害者の女が別の女に蹴り飛ばされていた。突如現れた女はSFアニメのキャラのコスプレみたいな服装をしており、そしてボロボロだった。

 ——今日は何なんだよ、本当に。


「ァアアアイイイイイイ!!」

「はぁ、はぁ……これでラストね……!」


 コスプレ女はそう言うと、被害者の女に向かって走り出してパンチやキックなどを繰り出し、途中で銃を取り出してほぼゼロ距離から発砲して確実に倒していった。

 念を押してなのか、コスプレ女は最後に被害者の女の頭……脳を撃ち抜いた。


「な、何なんだよ……これ」

「あっ……あなたは……」


 コスプレ女は俺の存在に気付くと驚いているような、どこか嬉しそうな表情をした後すぐに気を失ってその場に倒れてしまった。

 本当は早くこの場から逃げ出したくなったが、車は壊れたし女は倒れてるし、このまま放置したら車の持ち主……すなわち俺が疑われる。面倒事はごめんなので、俺は倒れたコスプレ女に駆け寄る。


「お、おい……誰だか知らんがしっかりしろ! って、なんだコイツ……身体が」


 俺は抱えたコスプレ女の身体に驚愕する。ボロボロなのはなんとなく分かってはいたが、その傷口からは血でも肉でもなく、ゴムチューブや配線コードという少なくとも普通の人間ではあり得ないものが見えていた——まさかコイツ、アンドロイド……!?

 いつの間にか被害者の女の残骸は消えて無くなっていた為、ここからは幸い家まで徒歩でも近いので、俺はコスプレ女を抱き抱えてそのまま家へと帰っていった。

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