第14話 ラープ
「ちょっと待て、ラープが作られたって……どういう事だよ」
「——そのままの意味よ。ラープは人間の手によって私よりも先に作られた……人工寄生生命体よ」
人工寄生生命体“ラープ”。
人間の女性に寄生して身体を乗っ取り、宿主の子宮をラープの子孫繁栄に最適な環境に作り変えてしまう……子宮を作り変えられてしまった女性は例えラープが体外に出ていったとしても、自身の子供を作る事は出来なくなってしまう。
——そんな人間にとって何の利益も生まない害悪な生命体が人間の手によって作り出されたものだと、サキは明かす。
「何でそんなもんが作られたんだよ」
「ラープは本来、女性の身体に投与して生殖行為を促すよう半強制的に発情、排卵させる——要するに媚薬と排卵誘発剤のハイブリッドという感じで捉えてもらって構わないわ」
その言葉だけでラープの開発コンセプトをなんとなく察せた。荒い言葉を使うのなら、どんな男とでもお構いなしに生殖行為を出来るように女性を性欲モンスターに性格を変貌させ、子を次々と孕ませて子孫繁栄を……という事なのだろう。
「身体に投与してうんぬんかんぬんって……人権どうなってんだよ」
「ええ。だから世に出す前に、申請書を提出した女性研究員で実験していたらしいわ」
「……気が知れないな。その女性研究員、一種のマゾヒストなんじゃないのか」
「自分達の研究が深刻化している問題を解決できるとなれば、人というのは自分の身ですら捧げられるのよ……でも結果はお察し、失敗した」
「失敗? ラープに寄生されてた時のサキ、普通に痴女だったが」
「う、うるさいわねっ! あれは私の意思では無いのだから忘れなさい今すぐにっ!!」
サキは再び顔を赤くして、怒りと恥じらいの入り混じった表情でそう言ってきた。
「でも本当に良かった……あれがサキの本性とかじゃなくて」
「当たり前じゃない。よっぽどの事が無い限りタスクが嫌だと思うような事はしないもの」
「じゃあ毒を吐くのやめろ」
「じゃあ生きたいと思って」
「——尽力する」
「生きたいと思う事に尽力するって、タスクってどれだけこの世界に適していないのかしら」
サキは心底呆れたような声でそう言う。
でも逆に少子化問題を解決する為に人権侵害ギリギリな事して、更に法律まで変えてしまうような国で“生きたい”と思う奴の方が適してはいるのだろうが、多分指示待ち人間なのだろう。
俺達みたいな捻くれた奴は、死にたい訳ではないが捕まりたくはない為仕方なく従っているだけなのだ。
「そんな事より話を戻そう。と言っても、その後の事は大方予想付くけどな」
「あら、ではタスクの低脳なりに頑張って考えた予想を聞いてみようかしら」
「——ラープは自我を持ち始め進化し、宿主の身体を乗っ取る力を身につけた。やがてラープ自身に組み込まれた機能を応用して人間の子孫ではなく自らの子孫を残す事を目的とした。この失敗を経て、研究員は生きる人に妊娠させるのではなく、人権のないクローンに子孫繁栄させる案を実行に移す為法律を国会にて変えてもらった……って感じか」
俺は自分なりの予想をサキに告げた。ラープによる人類繁栄が失敗し、最終手段として外観を絶世の美女に成形した人工卵子搭載型クローン“サキ”を作り出した……という事だ。
自分で言ってて思ったが、まるで10年後の未来の話とは思えないほどSFみたいな内容だな。
というか、日本は何でここまでして人口を増やしたいんだ? 大体少子化問題が年々深刻になってきてるのは、日本が“子供を育てるのが難しい国”なんて言われてしまうほど子育てに対するサポートが充実してない上に、子を育てるまでにも莫大な資金が必要だからだ。
「概ね正解ね。更に言えばラープは2種類存在しているわ。一つは先程タスクも見た“リビドータイプ”、もう一つは“デストルドータイプ”」
「デストルドータイプ?」
「それらの呼称は私が適当に考えたものよ」
「そういう事じゃねぇ、デストルドータイプは何なんだって話だよ」
「そういう事ね。でもタスクはデストルドータイプも見た事があるはずよ……ほら、私と出会ったあの日にね」
俺とサキが出会った、あの日。
——あれはいつも通りの寒い夜に突拍子も無く起こった、異質な出来事だった。
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