第十七話 魔法戦士ゆーちゃん

「魔法戦士ゆーちゃんに任せなさい!」

「かわいい……」


 優羽ゆうは、ノリノリでアニメのようなポーズをする。

 そうして、戦闘態勢を取った。


「魔法は使えるのか?」

「私がただ引きこもってただけだと思わないでよね!」

「そ、そうなのか」


 俺は、優羽ゆうがこの二日、何もせずに引きこもっていただけだと思っていたがそうでも無いようだ。

 持っている杖を高く天へと付き出した。

 そして、元気よく呪文を唱えた。


「氷属性魔法【凍結フリーズ!】」


 ―キーン!


 優羽ゆう凍結フリーズを使うと、ゾンビは一気に氷に包まれた。


 ―ゔ、ゔゔぁ、ぁ


「まだ生きてる⁉」


 しかし、ゾンビはまだ氷の中で生きている。

 まだ完全に倒しきれていないようだ。


「これで終わりなはずがないでしょ!」


 そう言うと、今度は杖を地面に向かって勢いよく突きながら呪文を唱える。


「追加魔法【ブレイク】」


 ―パリンッ!


「ふぅ、倒せたー」

「す、すげぇ……」


 凍ったゾンビは、一瞬で粉々に砕け散った。

 優羽ゆうは清々しい顔で戦いを終わらせた。

 あまりの凄さに俺は、感動していた。

 二日前には一発の魔法で疲れ果てていたのに、今は全くその様子がない。


「すごいでしょ!」

「ああ、もしかして、お前もなのか?」


 俺は、優羽ゆうの凄まじいの成長を見て、自分と同じことをしたのではないかと思った。

 その予想は、ちゃんと当たった。


「そうだよ。イライラしたから、ダンジョンに潜ったの」

「イライラしたからって、凄いな……」


 イライラしたからダンジョンに潜ったと聞いて、恐ろしい女だと不意に感じてしまった。

 イライラしたからダンジョンに潜ったやつが、あれだけ病んでいたのか……

 俺は、優羽ゆうの感情の起伏具合に困惑する。


「ほら、レベルも上がってるよ」


 そう言うと、優羽ゆうはステータスを表示した。



 ~~~~~~


 <安治 優羽(あんじ ゆう)>


 ・役職 魔術師

 ・職業 聖者

 ・スキル 女神の加護エンジェルハート(傷を癒し、安らぎを与える)

      見習い魔術師(魔力の消費を少し抑える)


 レベル20/100 次のレベルまでの必要経験値 4500

 体力  350/750

 打撃力 150/550

 防御力 225/400

 魔力  250(550)/900 (職業効果+300)

 瞬発力 100/150


 ~~~~~~



 優羽ゆうの能力値は、とんでもないほど上がっていた。


「レベル20って、どんだけ倒したんだよ!」

「えっとね、スライムだけを一日中倒してたから、軽く1000体くらい?」

「八つ当たりのレベルじゃねぇ……」


 俺は、優羽ゆうに倒されたスライムたちが可哀そうに思えた。

 まさか、ここまで心に闇を抱えているとは思ってもいなかった。

 この能力値であれば、ゾンビ程度なら余裕で倒せただろう。

 ちょっと待てよ……


「おい、なんで俺に戦わせたんだ?」

「ん? 面白そうだから?」

「俺で遊ぶなよ! こっちは必死なんだから!」

「あはは、ごめんごめん」


 俺が先陣を切っていたことが、馬鹿らしく思えた。

 まあ、レベルを上げたいからいいんだけど、そんなに強いなら先に行って欲しかった。


「まあいい。いこう」

「そうだね!」


 そうして、これまで通りに背後から湧いてくるモンスターを倒しながら進んでいった。



 ◆


 しん優羽ゆうがゆっくりと後処理をしている時、奥の方では五人のハンターがダンジョン攻略に向けて頑張っていた。


「「こっちにこぉぉぉい!」」


 ―ゔ、ゔゔぁ、ぁ


「今だ! じん有咲ありさ、魔法を!」

「任せろっす!」

「任せてください!」

「「雷属性魔法【雷電スパーク!】」」


 ―ビビッ!


 ―ゔゔっ!


「ナイスだ! おりゃぁぁぁ!!!」

「剣技【炎熱地獄えんねつじごく!】」


 ―ボワァァァ!!!


「まだボスを倒していないのに、これ以上奥がないぞ」

「なんでだ?」


 五人のハンターは、ダンジョンの最深部まで来ていた。

 しかし、ボスが現れていないようだ。


「どうしてでしょうか」


 ―カチッ


「何の音だ?」

「すいません! 何かを踏んだようです!」


 ―ドンッ!


「うわぁぁぁぁ!」

「ゆ、床が抜けた⁉」

「「「うわぁぁぁぁ!!!」」」


 突如、床が抜けて五人はそのまま落ちていった。



 ―ザザザザッ


 四人は姿勢を立て直して、上手く着地をした。

 守護の役職の太った男が、遅れて他の男三人の上に落ちてきている。


「うわぁぁぁぁ!」

「「「来るなー!!!」」」


 ―ドォォォン!!!


「だ、大丈夫ですか⁉」

「ふぅ、助かったよ」

「「「早くどけ!」」」

「あ、ごめん」


 太った男は、下に仲間がいることに気が付いていなかったようだ。

 三人は怒り交じりの声で退くように訴えた。


「登れそうにないよな」

「こいつがいる以上、無理っすよ」

「うっ……」

「先に進めそうだよ」

「ここしか道はなさそうだな。よし、行くか!」


 太った男は、もちろん崖を登れない。

 そのため、元の場所に戻ることは諦めて、先に進むことにした。


「きゃぁぁぁ!!!」


 急に女の魔術師が、大きな悲鳴を上げた。


「どうした⁉ お、おい、マジかよ……」

「なんでこいつがいるんだよ」


 ―グリュゥゥゥ……


狼牙ボルクじゃねぇか!」


 五人の目の前には、A級ダンジョンのボスとして存在するケモノ族の『狼牙ボルク』だ。

 D級ダンジョンに現れることは絶対にないモンスターだ。

 そんなモンスターが、五人の前に牙をむき出しにして立っている。


「ど、どうするんだよ!」

「くそっ、戦うしかない! 戦闘態勢だ!」

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