第十五話 最高の仲間

 ―ピンホーン


「……」

「やっぱり出ないか……」


 俺は今、優羽ゆうの家の前にいる。

 あの日から家に引きこもっているので、心配になる。

 やはり、まだ心の整理ができていないのだろう。


「食べ物置いとくから、ちゃんと食えよ」


 聞いているがわからないが、玄関のドアノブに食料の入った袋を掛ける。

 そうして、自宅へと足を進めようとした時……


 ―ガチャ


「ん?」


 俺の背後から、ドアの開く音が鳴った。

 そうして、弱々しい優羽ゆうの声が聞こえた。


しん……」

「よう。元気……じゃあないよな」

「……」

「……」


 俺は、かける言葉が無く、気まずい雰囲気が流れる。


「……少し、時間ある?」


 先に沈黙を破ったのは、優羽ゆうの方だった。

 俺は、少し片言になりながら答えた。


「あ、う、うん」


 そうして、家の中へと入っていく。

 部屋の中は、何もなく、生活感が全くなかった。


「座ってて。飲み物を入れるから」

「うん。ありがとう」


 そうして、俺は背の低いテーブルに対して、胡座あぐらをかいて座る。

 そうして優羽ゆうはキッチンに向かい、飲み物を用意する。


 ―カチャン


「どうぞ」

「ありがとう」


 そして、優羽ゆうは俺の正面に正座した。


「……」

「……」


 再び、沈黙が流れる。

 優羽ゆうの方を見ると、何かを言いたそうにモジモジしている。


「何か話があるのか?」


 俺は、思い切って聞いてみることにした。


「……うん。ハンターのことなんだけど……」

「ハンターのこと?」

「うん。しんはこれからどうするの?」

「どうするって?」

「えっと、高ランクのダンジョンを目指すのかとか……」


 優羽ゆうの質問は意外なものであった。

 俺は、辞めたいとか、行きたくないとかかと思っていた。


「ああ、俺は、もっと上を目指すよ」

「上って、もうしんはレベル最大じゃないの?」


 当たり前の反応をされた。

 それもそうだ。優羽ゆうは、俺の進化を知らないのだから。


「これを見てよ」


 そうして俺は、自身のステータスを表示した。


「役職、『覚醒者』? それに、スキルも最大能力値も増えてる……」


 優羽ゆうは、俺のステータスを見て驚いている。


「そうなんだ。これからもっと頑張れば、上を目指せる」

「すごい、いつわかったの?」

「昨日のダンジョンでだよ」

「ダンジョンに潜ったの⁉」

「うん。一人で行ったんだけど、オークが出てきてさー」

「一人で⁉ しかも、オーク⁉」


 三段階で驚く姿を見ると、少しは元気が出てきたように感じられる。

 優羽ゆうは、ある程度のモンスターについての知識はあるようだ。


「そうだよ。死ぬかと思ったよー! でさでさ……」


 そうして俺は、昨日の出来事を話した。

 次第に優羽ゆうの表情が明るくなってきて、最後にはいつも通りの様子に戻っていた。


「本当に凄いね! アニメの世界じゃん!」

「俺も本当にビックリしたよ。それで、優羽ゆうはどうするんだ?」


 笑顔で話す優羽ゆうを見て、俺は安心した。


 ―ドンッ!


「わぁ⁉ 急にどうした?」


 急に優羽ゆうが立ち上がり、俺はビックリしてしまう。

 優羽ゆうは、いつもの可愛らしい笑顔で言った。


「今からダンジョンに行こうよ!」

「ちょっ、なんで急に⁉」


 俺は優羽ゆうに手を掴まれると、勢いよく外へと連れ出された。

 そして、ダンジョンがある場所へと走っていく。


しんの話を聞いてたら、元気が出た! 私も一緒に戦うよ! そして、パパとママを殺したやつをぶっ倒す!」

「ハハハッ! いいじゃん! 頑張ろうぜ!」


 突然の優羽ゆうの言葉に驚いたが、一緒に戦う仲間ができてとてもうれしくなった。

 優羽ゆうは親を殺したガゼルを、俺はあの事件の指導者であるモンスターに『復讐』をしようと共に戦う。

 俺は、これからの道のりが楽しみでワクワクしていた。


「よし、着いた!」

「着いたって、ここはD級ダンジョンだぞ? 俺らは入れないぞ?」


 着いた場所はD級ダンジョンの近くの物陰で、ゲートの前には監視員が立っている。

 俺らが入れるはずがないのに、どうしてここに来たのかがわからない。


「来た来た」

「これからダンジョンを攻略するチームか?」


 そこに、五人組のハンターがやってきて、監視員と話してダンジョンに潜っていった。

 すると、監視員はどこかに行ってしまった。


「おい、もしかして……」

「えへへ! 行こ!」

「おい! マジかよ……」


 優羽ゆうは、悪い顔をするとゲートに向かって真っすぐに走っていった。

 後を追って、俺もついていく。


「『早く高みを目指すなら、多少の無理をするしかない』ってことだろ? まあ、賛成だな」


 D級ダンジョンには、これまで以上の強敵が待っている。

 しかし、俺たちにとって、これは過程にしか過ぎないのだ。

 そうして、俺たちは、ゲートの中へと吸い込まれていく。


 ―キュゥゥゥゥ

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