第九話 初めてのスライム退治

 ―シュゥゥゥン


「おおー! すげぇー!」

「光ってるこれが魔石なんだー。意外と明るいのね」

「あ、あぁ…………」

愛人あいとのやつ、まだ病んでるよ」


 ダンジョンの中は、思っているよりも広かった。

 そして、壁に張り付いている光を放つ石のようなものによって、ダンジョン内はある程度は見ることができる。

 この、光を放っている石こそが『魔石』と呼ばれるものだろう。


『魔石』とは、ダンジョン内にある魔力が込められた石のことだ。

 この石は、医療や環境のために役立っていて、今の世の中には欠かせないものとなってきている。

 そして、この魔石にもいくつかの種類が存在している。

 ダンジョンの難易度が上がると、石に込められている魔力量も上がり、価値が高くなり、高値で売ることができる。


「これを採って帰ればお金になるかな?」

「採集道具が無いし、持って帰れないだろ」

「それもそうだねー」


 ―チャプン


「お、早速出てきたな!」

「うわ、気持ち悪いわー」


 呑気におしゃべりをしていると、目の前にスライムが現れた。

 そのシルエットはは、まさにゲームで見ているのそのものだ。

 しかし、顔がグチャグチャに配置されていて、とても可愛いとは思えない。


「それじゃあ、俺が倒してみるから見てな!」

「あんた、弱いんだから気を付けなさいよ!」

「分かってるよ。でも、流石にスライムは倒せるだろ」

「あ、あぁ…………」


 優羽ゆうは、俺のことを心配してくれたが、一番簡単なんだし、心配はしていない。

 そうして、俺は支給された武器を力強く握る。


「なんで俺だけハンター感が無いのを渡されるんだよ!」


『俺の武器』、それは、ただの棒だ。

 ダンジョンに入る前に、無言で渡された。

 持ち手が少し細くなっていて、持ちやすくはしてくれたみたいだけど、棍棒にしか見えない。


「俺の役職はもしかしてゴブリンなのか?」


 そんなことを思いながらも、スライムとの距離を詰めていく。


 ―チャプン、チャプン


 俺たちの存在には気が付いているだろうが、スライムはずっと跳ねているだけだ。


「こんな奴には負けねぇだろ」


 ―ピュン!


「何っ⁉ 急に飛んできた⁉ 避けれない……」


 ―ムニュ


「うわっ! って痛くない。それより、素晴らしい。この感触は間違いないぞ!」


 俺は、スライムの突然の攻撃をしっかりと顔に受けたが、スライムが柔らかすぎて、痛みは全くなかった。

 それよりも、スライムの柔らかさに感動していた。


「ムフフ、スライムに抱きつきたい……」


 スライムは、俺の欲求を満たしてくれる最高のモンスターだった。


「ジー……」

「あ、バレた?」

「『バレた?』じゃないわよ、気持ち悪い顔して! さっさと倒しなさい!」

「は、はい!」


 優羽ゆうに思考が読まれたようで、俺は慌てて戦闘態勢をとる。

 そうして、棒を振りかぶりながら、スライムとの距離を詰めていく。

 倒し方は分からないので、ただ殴ってみることにした。


「おりゃー!」


 ―ボインッ


「うわぁ、この反発……いかんいかん。次は殺されてしまうぞ」


 俺の力が弱いせいか、棒が跳ね返された。

 しかし、スライムの動きが鈍くなったので、多少は効いているのだろう。


「何度も殴れば!」


 ―ボインッ、ボインッ、ボインッ……


 俺は、一分以上もの間、ひたすらスライムを叩き続けた。

 そして遂に……


「おりゃー!」


 ―バチャン!


 スライムは、弾けるように散った。



 ~~~~~~


 経験値を10獲得しました

 レベルが9上がりました


 レベル10/10 次のレベルまでの必要経験値0


 体力  10/10

 打撃力 10/10

 防御力 10/10

 魔力  10/10 

 瞬発力 10/10



 ~~~~~~



「もうレベル最大か。でも、さっきよりかは力がみなぎってくるな」


 スライムを倒した経験値でレベルは最大になった。

 全ての能力値が最大になったので、これ以上の進化はないだろう。


「でも、あの二人はこんなんじゃないんだよな。つらいよ……」


 ―ピカンッ


「ん、なんだ?」


 スライムを倒すと、目の前に光る謎の草が現れた。


「薬草なんじゃない? RPGの定番だしね」

「ああ、なるほどー」


 俺は、納得してポケットの中に薬草をしまった。


「それにしても、結構時間が掛かったわね」

「そうなんだよ。全然潰れなくてなー」

「弱い者いじめしてるみたいだったよ」

「し、仕方ないだろ!」


 吞気に見ていた優羽ゆうは、待ちくたびれた様子で話す。


 そうして俺たちは、どんどん奥へと進んでいく。

 愛人あいとは、後ろからゾンビのような足取りでついてきている。



「結構奥まで進んだよなー」

「もうそろそろボスなんじゃない?」


 このダンジョンは一階層のみなので、そろそろボスがいてもおかしくない。

 逆に、ここまでの道のりで何もいないことが不自然に感じられる。


 ―チャプン、チャプン


「おお、やっと現れたな」


 ―チャプン、チャプン

 ―チャプン


「ちょっと待って、音が多くない?」

「反響しているだけだろ」


 ―チャプン、チャプン

 ―チャプン

 ―チャプン


「いや、これは反響じゃあないわ」


 スライムの足音に異変を覚えた優羽ゆうは、敵が一体ではないことを知らせてくれた。


「ってことは、数体いるのか?」

「そうらしいね。前を見て」

「マジかよ……」


 スライムの姿を確認すると、俺は言葉を発することができなかった。


 ―チャプン、チャプンチャプン、チャプン


「軽く百体はいるわね」

「こんなに倒せって言うのかよ……」


 ―チャプン


「後ろから聞こえる⁉」


 俺たちの後ろからもスライムの足音が聞こえた。


「囲まれたようね」


 気が付いた時には、四方八方でスライムが跳ねていた。

 どうやら、俺たちは囲まれたようだ。

 いくらダメージを負わないとは言っても、この量だとかなり苦労する。


「ど、どうするんだよ⁉」

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