第八話 ダンジョンに潜ろう!

「間もなく、ハンター認定会が始まりますので、席についてお待ちください」

「おい、そろそろ終われよ?」

「ウン、ワカッター」


 これ、絶対に聞いてないやつだわ。


 ―ガブガブガブ!


 ―ガブガブガブ!


 ―ガブガブガブ!


「あ、あぁ、あぁ…………」


 優羽ゆうの食べっぷりを見てから愛人あいとは、だんだんと魂が抜き取られているかのように、放心状態になっていく。

 王子様にとってこれは、お姫様だと思った女性が、実は魔女であったかのような状況なのだろう。


愛人あいと、大丈夫か?」

「ごちそうさまでした! ん? 愛人あいと君、何かあったの?」

「やっと食い終わったか」

「うん!」


 優羽ゆうは、オムライス三十皿を平らげて、嬉しそうに笑っている。


 満足した顔、可愛すぎる……


 そして、愛人あいとの異変に気が付いたようで心配している。

 もちろん、自分のせいだということは分かっていない。


「お前の食べっぷりを見て驚いたんだよ」

「あ、そっか。初めて見るんだもんね!」


 優羽ゆうは、全く気にしていない様子で答えた。

 それもそうだ。これまで、何百人という人の驚いた姿を見てきているのだ。

 今頃、そんなのを気にしていてはオムライスを三十皿も食べれない。


「それでは、これからハンター認定会を始めます」


 オムライスの話題は、アナウンスと共に終わった。


 ―ウィーン


 正面のステージ上部から、スクリーンが下りてきた。

 そこには、司会の人の姿があった。

 このハンター試験は、各高校で行われているため、全体にリモートで繋がっているのだろう。


「まず初めに、会長からのご挨拶です」


 スクリーンの画面が移り変わり、白いチョビ髭が生えて白髪で威厳のありそうな顔をした男性が写った。


「私から話すことはたった一つだけだ。諸君、ダンジョンに潜り、モンスターを殲滅せんめつさせよ! 以上だ」


 会長は、本当にたった一つのことだけを言った。

 そうして、画面が司会に戻り進んでいく。


「ありがとうございました。それでは、ダンジョンに潜る前の最終確認をしておきます」

「え、この後すぐにダンジョン入るのか?」

「そうだよ。それも聞いてなかったんだね」

「ああ」



 俺、もしかしたら、今日が命日になるかもな。でも、特別な役職があれば……



 俺は、自分のステータスの低さを思い出し、死を覚悟した。

 しかし、あの希望はまだ諦めていない。

 そのため、不安と期待が半分づつある。

 他の生徒たちを見ていると、全員が俺より強いように見える。



 あっ、見えるんじゃなくて、本当に強いんだった。

 俺、最弱だったの忘れてたわ。



 そうして、淡々と説明がされていく。



 ~~~~~~


 ・初心者用の簡単な一階層のダンジョンを攻略する

 ・チームは三人一組

 ・ボスを倒したチームから帰宅してよい

 ・出てくるモンスターは、スライムとボススライムのみ

 ・倒し方は、実戦で覚えろ

 ・潜入時に役職に応じて武器が配布される


 なかなか雑な説明だよな。


 ~~~~~~



 説明されたのは、この六つのことだけだ。

 説明を終えると、「それでは検討を祈りまーす!」と言って消えた。

 そうして、案内人が俺たちをそれぞれのダンジョンへと繋がるゲートへと案内してくれた。


「チームに一人、不安な人がいるけど大丈夫よね!」

「あ、ああ、だ、大丈夫だろうね。ああ、ああ……」

「おい、俺じゃなくて愛人あいとの方が心配だろ!」


 優羽ゆうが早速、俺をからかってくる。

 俺からしたら、愛人あいとのメンタルの方が心配だ。

 まだ引きずっている。お豆腐メンタルじゃん。

 チームは、俺と優羽ゆう愛人あいとだ。


愛人あいと君としんだと、どっちが弱いかな?」

「うるせぇ! 俺は、ここで特別な役職をゲットするんだ!」

「まだ言ってんだ……」

「あ、あぁ…………」


 俺は、謎の役職に希望を持ち続けている。

 優羽ゆうは、呆れたような声で呟いていた。

 愛人あいとは……うん、そっとしておこう。


「それじゃあ、行こうぜ!」

「楽しみだね!」

「あ、あぁ…………」


 そうして、俺たちはゲートの中へと入っていった。


 ―キュゥゥゥゥ!


 目の前が光り、視界が真っ白になる。


 これから、俺の潜在能力が爆発するぜ!


 俺は、ありもしない期待をずっと膨らませていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る