第十話 魔法使いの初めての魔法

「ど、どうするんだよ⁉」


 俺たちは、百体以上のスライムに囲まれている。

 俺の場合だと、スライム一体に一分以上掛かるので、半分を倒すにしても一時間以上掛かる。

 とてもじゃないが、体力が持たない。


「私に任せて!」


 ―パチンッ!


 ―ポン!


「すげー! 杖が出てきた!」


 優羽ゆうは、指パッチンで綺麗な音を出すと、何もないところから杖が出てきた。

 魔法使いである優羽ゆうの技なのだろう。


「見て! 服もこの通り魔法使いだよ!」

「か、可愛い……あっ、」


 優羽ゆうを見ると、大きい帽子に長いコートのようなものを着ていて、アニメに出てくる魔法使いそのものだった。

 その姿を見て、ついつい本音が漏れてしまった。


「やばい、怒られる!」


 俺は、怒られるかと思い身構える。

 しかし、優羽ゆう想定外の反応をした。


「……っ、何言ってるのよ。変態」

「え?」


 優羽ゆうは一瞬動揺し顔を赤らめたが、それを隠すかのように小さな声で怒った。

 俺は、怒られなかったのでが想定外で、間抜けた声を出してしまった


「ま、まあいいわ。私の魔法で何とかなるかもしれないわ」

「その方法があったな! ちなみに、何の魔法が使えるんだ?」

「わからないわ。でも、何かは使えるでしょ」

「一か八かかよ……」


 魔法という言葉に俺はワクワクしたが、優羽ゆうは何の魔法が使えるか分かっていないと知り、萎える。


しん、このスライムを一気に倒せそうな魔法知らない?」

「俺に聞かれてもなー」

「ゲームとかで使ってる魔法よ。多分、ここでも使えるでしょ」

「なるほど! ちょっと待ってよ」


 俺は、これまでのゲームを思い出し、この状況に合う魔法を探す。

 ちなみに、俺はRPGが大好きで、ほぼすべてのゲームを制覇している。


「スライムの弱点属性は火属性で、今は囲まれているから…………」


 俺は、一つずつ選択を間違えないように、慎重に考えていく。

 そして、


「これだ! 優羽ゆう、耳貸して」

「え? あ、うん」

「長いからちゃんと覚えて、ゴニョゴニョ……」


 俺は、優羽ゆうに耳打ちで呪文を教える。

 思い浮かんだ最適な魔法は、ちょうど俺のイチオシの魔法だった。

 俺が耳打ちすると、優羽ゆうは顔を赤らめてこちらを見てきた。


「これ、本当に言うの?」

「そうだけど、どうかした?」

「だ、ダサい……」

「ガーン!」


 俺は、「ダサい」という言葉を耳にした瞬間、悲しさで効果音を口に出してしまった。

 そして、だんだんと怒りの感情が湧き出てきた。


「ダサいとはなんだ!」

「きゅ、急にどうしたの⁉」

「この魔法は、主人公がピンチに追いやられた時に、助けに来た魔法使いのエリスが放っためっちゃかっこいい魔法だぞ! それに…………」


 俺は、ムキになって優羽ゆうにこの魔法のカッコよさを説明する。


「それにな……」


 ―チャプン


 俺の話を遮るかのように、スライムが音を立てて近づいてくる。


「分かったから! スライムが近づいてる!」

「分かってくれたか。それじゃあ、頼んだ!」

「は、恥ずかしいけど、我慢だね! いくよ!」


 ―スゥー


 優羽ゆうは一度、深呼吸をすると、呪文を唱え始めた。

 ゲームの世界でしか見れなかった魔法が、現実世界で見れることに、とてもワクワクする。


ファイアー! フレイム! ブレイズ! 火の力を我に与えよ!」

「火属性魔法【火炎迸発イラプション!】」


 ―ドガァァン!!!


「おおー! 本当にできたぞー!」


 優羽ゆうが魔法を唱えると、俺たちをスライムたちの地面から火が噴き出した。

 ゲームの通りの魔法を見れて、俺は興奮を抑えられない。


 ―ンギュー!


 スライムたちは、次々に鳴きながら、跡形もなく消えていく。


「す、すごい。本当にできた……」


 優羽ゆうは、本当に魔法を使うことができて驚いているようだ。

 そうして、火が消えると、スライムは一匹残らず消滅していた。


「やった! 倒せたよ!」

「お、おい!」


 ―ムニュ


「さ、最高だ!」


 魔法で、スライムたちを倒すことができたのが嬉しかったようで、喜びのあまり俺に抱きついてきた。

 俺は、胸に当たるスライムと同じ感触を優羽ゆうにバレないように密かに楽しむ。


「お疲れ様」


 ―ポンッ


 俺は小学生の時を思い出し、無意識に優羽ゆうの頭を撫でていた。


「えっ?」

「あ、ごめん。懐かしくって」

「……っ、も、もう!」


 流石に驚いたようで、慌てて俺から離れる。

 そして、顔を赤くして頬を膨らませる。


「やばい、可愛すぎだろ………」


 心臓の鼓動が早くなるのが感じられた。

 このまま二人の時間が続けばと願いたくなる。


「あぁ、あぁ…………」

愛人あいとの存在、忘れてた」


 しかし、すぐに二人の時間は無くなり、現実へと引き戻された。


「あっ、そうだ」

「どうしたの?」

「さっきの魔法、火炎迸発イラプションだけでも使えるから」

「………え?」

「俺、最初の部分が好きだから、見てみたかったんだー。めっちゃよかったよ!」

「さ、先に言いなさいよ!」


 ―バシンッ!


 ―ドガァァン!


「グハッ、」


 俺は、優羽ゆうに頭を叩かれ、そのまま地面に叩きつけられた。

 その威力は、以前の可愛らしい力ではなく、異次元なほどの怪力であった。


「ハンター、恐るべし………」


 俺は、今後、優羽ゆうを怒らさまいと心に誓った。

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