第二話 As it shakes, as it sways
「前方熱源。機体名『
ポラリスの処理によって、全天モニターの中の敵機体にマーカーが付けられる。
「敵機体スキャニング開始。
該当兵装検索――――。
中距離射撃兵装『
近距離格闘兵装『
特殊兵装――該当無し。
兵装スキャンを終了します」
実弾ライフルとパイルバンカーね……。
ライフルはともかく、パイルバンカーなんて実用性あるのかね? ユーラシア系の機体って、こういう実用性に疑問が浮かぶような兵装が偶にあるんだが……よく分からんね。
ともあれ、敵さんの技量もあるだろうが、三対一は普通に分が悪い。
師匠の
慎重に行くべきか――。
「ザイン。何をしている。機体性能では、圧倒的にお前が勝っているんだ。
――正面から行け。フォリッジ・マニューバだ」
さっきは、修理代がどうのとか言ってた癖に突撃しろとか、あたおかかよ!?
――だがまあ、いつまでもビビってても仕方ねぇか。
「……ッ。了解。アシスト頼むぜ。ポラリス!」
「了解しました」
一歩、二歩、三歩と踏み込み、加速をつけたところで、背面ブースターを全力でふかす。
走り幅跳びの選手が飛び出す様な体勢で、オレとエクスパシオンは敵機に向けて急加速して行く。
「敵機、散開。左方1。右方2。
左方、玉鼎Aの撃破の優先を推奨します」
「ばっか! ポラリスちゃんよぉ! そっちをやってる内に他の二機に挟まれるかもしれねぇだろ? だから……こうすんだよ!」
急加速によってのしかかる強力なGを気合で無視し、俺はエクスパシオンの両腕に装備した突撃ライフル『ラズール』を前面に開く様にして向ける。
照準を敵機に向けずに、敵機の散開方向の外側から内側へと絞るようにして連続して引き金を引いていく。
間合いを詰めながら、扇状に射撃をする事で、敵の散開を防ぐ目的だったが……狙いは半分思惑通りに働いたが、もう半分は外れだ。
左にいった玉鼎Aは中心方向に回避していったが、右に旋回していた二機は後方に下がってしまった。
「中々思惑通りには行かねぇってか……やっぱ実戦は違うね」
「ですから、先程左方一機体を撃破するプランを推奨したのですが」
「臨機応変、ケースバイケース。現場の感覚ってやつ!」
俺の銃撃と同時に、敵さんも揃ってこちらへと射撃を開始してきた。
狙いは割と正確で、三機とも足を止めずに突撃して来る俺に集弾する様に射撃をしている。
アシストシステムが良いのかは知らんが、思考が甘いな。
三機も居るのなら、一機は俺の動線を絞る様に撃つべきだ。
ただ、当てりゃいいってもんじゃない。
俺は
揺れ落ちる木の葉のように。と言う意味で名付けられた回避に特化したマニューバだが、乗っているこっちとしては空腹状態でなかったら、操縦席の中がゲロまみれになるような負荷がかかる殺人的マニューバでもある。
左右に揺れながら、そして、高低も使いながら、突撃を続行する。
華麗に敵の弾を避けながら、一気に間合いが詰まっていく。
「左上腕部、被弾――装甲損傷。
動作――問題無し」
軽い衝撃と同時にポラリスがダメージの報告をして来る。
ま、たまには被弾するのは仕方ないよな。うん。
「右方玉鼎B,弾薬切れです」
「――!」
ポラリスの報告を聞き、俺は弾薬の切れた敵機に向けてライフルを向ける。
引き金を引き続け、連続して放たれる弾丸は、やがて敵機を捉え、その頭部にある操縦席を撃ち抜いた。
糸の切れた人形の様に、地面に突っ伏し、敵機はぴくりとも動かなくなる。
残り、二機……!
撃ち抜いた敵機――、玉鼎Bの近くに居たもう一機の玉鼎Cが、俺に向けて後退しつつライフルを構えてくる。
「チッ――!」
俺が舌打ちしつつ回避しようと考えたところで、ポラリスがブースターを勝手に起動した。
「うおっ!?」
「緊急回避、成功」
さっきまで俺が居た場所に、漆黒の杭が飛び出して来た。
――パイルバンカー! もう一機の方……そうか、突っ込んだぶん、挟撃される様な形になっちまってたのか。
「クソ!」
肩部のブースターを片方だけ噴射して、パイルバンカーを突き出してきた敵機の背中に回るように急旋回すると、突撃ライフルの銃口下部に取り付けられた実剣部分で、敵機の首を薙ぐように斬り付ける。
俺の意図にギリギリで気が付いたのか、敵機はブースターをふかし、ギリギリで首を落とす斬撃を躱そうとする……が、
「あめぇ!」
俺は、斬り付けながら、ライフルのトリガーを引く。
連続して発射された銃弾は、敵機の後頭部を撃ち抜き、結果としてなんとか撃墜する。
残り一機……と、視線を向けたところで、ポラリスがアラートを鳴らした。
「周辺施設の迎撃システムの起動を確認。既にこちらは補足されています。
――対MF用小型誘導ミサイルポッドの起動を確認。
撹乱チャフの展開を開始――――迎撃システムのロックオンの解除に成功。
再補足までの予測時間二分十二秒。
速やかに、敵残存機体を破壊し、周辺施設の破壊を行って下さい」
「やれるならやってんだよ!」
内心舌打ちしつつ、ポラリスが喋ってる間にもガンガン銃撃して来る眼前の敵機の弾丸を躱していく。
「右脚部、被弾。装甲損傷。
――動作、問題なし」
「クソ……!」
コイツ、他の二機よりも巧い。隊長機って感じか?
合間合間に、こっちも撃っちゃいるものの、絶妙な感じで躱される。読まれている? いや……コイツに銃撃方向を誘導されてる?
「ザイン。ワイヤーコピスを使え。敵のペースに乗せられるな!」
「……ッッ! 了解!」
敵機に向け、腰部に取り付けられたワイヤー射出式の曲刀を敵機に向けて撃ち出していく。
「ポラリス!」
「ワイヤーコピスの操作を実行します」
ワイヤーコピスを撃ち出しながら、俺はエクスパシオンを敵機の真上へと、跳び上がらせる。
それによってワイヤーが弧を描き、敵機に向かう軌道がズレるが、その誤差はポラリスによって即座に修正された。
敵機は、迫るワイヤーコピスから逃れようと、後退し始めるが……遅い。
両肩にコピスが突き刺さり、接続されていたワイヤーが敵機を絡め取った。
動きを止めた敵機に向け、俺は突撃ライフルの引き金を引く。
弾薬が炸裂する残響と共に、残っていた敵機は崩れ落ち、俺は辛くも敵MFの無力化に成功する。
「敵MF部隊の撃破を確認。
次いで周辺施設の破壊に移行します。
周辺施設内迎撃システムのデータをモニターに表示――完了。
脅威度順にナビゲーションしますので、破壊行動を開始して下さい」
「はいよっと。……ったく、人使いが荒いね」
軽口を叩きつつも、俺は初めて敵部隊を掃討した安堵に、胸を撫で下ろしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます