第23話 帰って来た『ウルトラマン ジル』。
王都での一週間は、あっという間に過ぎた。あのあと俺は、外の水飲み場やトイレを作り、芝生の庭や花壇をを造るのに忙しかった。
それで、ミウ達は侍女に付き添われて、トンネルをくぐり、杜へと向かったのだが、初日に見た大木には辿り着けなかったそうだ。
トンネルを出た先は、森の中にある野原で、小川が流れていて、メダカやドジョウが泳いでいたそうだ。
大人が一緒だとあの大木には、出会えないのかも知れない。
そして、グランシャリオ領に帰って来た。
領地では、ナルト王国からの鉄鉱石の輸入が始まって、高炉が稼働を始めていた。
それから、牧場の南側の草原地帯で、灌漑用水路が整備され、綿花の栽培も始まっていた。
それで俺はというと、高炉でできた鉄を鋼板にしたり、柱材に加工する鉄工所を造った。
それでやっと、念願が叶い蒸気機関の試作品を作ることができたんだ。
牧場の東にできた『モコウ族の村』は、領地の皆が支援して、広いコンクリート舗装の道と家々が建ち並んだ、街並みができていた。
中央には、村役場やショッピングモールが、メインストリートには商店が並んでいる。
そして、村の郊外には新たな羊の牧場ができていた。
その隣にある羊毛の刈り取り場を増築して、試作蒸気機関が成功したので、紡績機を設置し製糸工場を始動させた。
さらに、その隣に新築した工場で蒸気機関の織機を導入し織物工場を稼働させた。
また、一昨年から南の綿花畑で、綿の収穫も始まっており、布団の原料に使用されていたが綿も紡績工場と織機工場で綿織物の生産を開始した。
蒸気機関の発明は、それだけにとどまらず、発電機を回し、その充電によるバリカンで羊毛の刈取り作業が20倍にもなった。
また、工場内の分業により、老人や身障者も作業に加わることができるようになり、生産性と雇用対象者、労働力の三つが拡大向上した。
もちろん、蒸気機関は船の機関に使用され、スクリュー船が造った。
そして現在、領内に線路を敷き鉄道を建設中で、蒸気機関車も数両完成している。
鉄道が完成したらお披露目するけど、きっとオダイチ交通大臣が(間違いなく飛行船で)、飛んで来て、トランス王国の全土に建設すると言うだろな。(うざいんだよ、あの人は。)
ナルト王国だって同じだよな。(義兄がしつっこく
いけないっ、心の声がダダ漏れだっ。
「坊っちゃんっ。坊っちゃんが帰ってくると、てんやわんやに忙しくなるのは、なんとかなりませんかね。街中が騒がしくなりますぜっ。」
「そうそう、坊っちゃんは領民にとって福の神でも、あっしらにとっては疫病神ですぜ。」
「まったく次から次へとよく考えつきますね。坊っちゃんの頭の中は、どうなっているんですかね。もしかして、本でいっぱいですかい。」
「あれっ、当たってるかも知れないよ。何なら歩く図書館と呼んでくれる。」
「そう呼んでも、一向に気分は晴れませんぜ。
新しい事をいっぺんにやるのは止めてもらえませんかね。私ら身体が一つしかねぇんで。」
「皆さん職人がいるから、領民の皆んなが幸せになるんです。今度、街の皆んなに言っておくよ、職人さん達は神様ですから、会ったら拝むようにってね。えへっ。」
「おい皆んなっ、坊っちゃんに文句たれてないで、仕事しろっ。急がないと明日の朝まで掛かっちまうぞっ。」
「泣く子と坊っちゃんには、敵わないね。」
「まったくだ。拝まれたらてぇへんだしな。」
「「「わっはははっ。」」」
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学校の前を通ると、生徒達が校庭でたむろしてた。皆んなつまらなそうなので声を掛けた。
「どうしたの。つまらなそうだね。」
「あっ、ジル様。皆んな日暮れにならないと、親が帰って来ないし、することがないからつまんないんです。」
「皆んなで遊ばないの?」
「だって、マラソンや駆けっこしても、いつも同じで、隠れんぼする場所もないし、やることないんです。」
「じゃ、サッカーやろうよ。」
「えっ、なにそれ。遊びなの?」
「皆んなで遊ぶ、ボール遊びだよ。」
俺は魔法で木枠と網のゴールを作り、30人ほどの生徒たちを2組に分けて、一方のチームには目印に縄でハチマキをさせた。
「このボールを蹴って相手のゴールに入れたら得点だよ。手は使っちゃだめ。肩まではいいよ。それから相手を蹴ったり、わざとぶつかるのもだめだ。最初は真ん中で、じゃんけんで勝った方のボールだよ。ゴールしたら交代ね。」
原始的サッカーの始まりだ。うふふ、やっぱりボールに皆んな固まって、蹴ってるね。
おっ、遠くに蹴ったぞ。その近くの子が取ったか、そのままドリブルでゴールしたね。
ゴールされたチームが集まって、なにやら、相談しているよ。
おっ、散らばったのか。ぽつんといる味方の子に向って蹴ったよ。ああ、大成功だね。
ああ、惜しい。ドリブルが上手く行かなかったか。
おおっ、お互いに散らばってる。サッカーが進化して来たね。皆んな理解が速いよ。
皆んな夢中でボールを追いかけて、あっという間に時間が過ぎた。ああ、日が暮れて来た。
「皆んなぁ〜、今日はもう終わりだよっ。すごくサッカーがわかって来たね。ボールはあげるから、明日からもやるといい。けれど、怪我をしないように注意してね。じゃあね。」
「「「ジル様〜、ありがとう〜。」」」
この世界、球技がなさ過ぎだよな。サッカーボールを作って売らなきゃ。
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領主館でも球技をしてみた。チビ達もできるように、風船バレーボールだ。
低いネットを張って、片面4m四方のコートで戦う。一チーム4人くらいだね。
ミウとトットはやる気だっ。おっ、侍女達が参戦だね。
サーブだ、レシーブした、騎士侍女のサラがアタックする。さすが脳筋、凄くはやっ。
ても残念、風船だからすぐゆっくりになっちゃう。トットがレシーブ、侍女がトス、トットがアタック空振りだ。だがセルミナがすかさず代わりにアタックっ。
決まったぁ〜、天然か偶然の時間差攻撃だ。
侍女達が参加したがって、7人ずつになったよ。風船は、風船だから、ネットや床に強く当たると時々割れちゃう。
風船をふくらますのは、俺とシルバラの役目だ。丸くふくらますのがけっこう難しいんだ。
なんか、侍女達のレクレーションタイムに、なってる気がするよ。
だって、バックアタックとか、すげぇ思いっ切り打って、なんかすっきりしてるもの。
それにしても、ミウとトットが大人の侍女達に伍しているのが凄いっ。
風船はいくら強く打っても、次第に遅くふんわりと落下する。背の低いミウとトットが届く頃には、止まりそうにふんわりしているから、二人には難しくないのだ。
始めは、俺とシルバラが相手をして、優しく手加減するつもりだったけど、まったくの杞憂だった。
母さまが、騒ぎ声を聞いたのか、普段は武道の訓練室のこの部屋へやって来たよ。
侍女達に伍しているミウとトットを驚愕して見ている。そして、ヨーダに
『さすがは私の娘だわ。二人とも良いくの一になれるわ、楽しみよっ。』
『お嬢様、お二人をくの一になさるつもりですか? お止めください。くの一など、お転婆が過ぎます。お転婆の姫様など、お嬢様お一人で十分にございます。』
ちなみに、母さまの乳母をしていた執事長のヨーダは、今だに母さまをお嬢様呼びしてる。
俺を16才で産んだ母さまは、今、25才だが見た目も少女のようで、お嬢様と呼んでも知らない他人なら、未婚の娘と思っちゃうねっ。
学校で披露したサッカーは、爆発的人気であっという間に領内に広まった。
俺が広めたサッカーは、ゴールキーパーがいない。それに1チーム10人〜30人で何人でもいい。
ボールは、モコウ村の羊の皮製だ。手縫いの技術が必要なので、モコウ村の特産となった。
ボールは、白の正六角形と黒の正五角形の皮を貼り合せて縫い、内部を
空気入れは竹製の水鉄砲で、空気穴はコルク材類似材で塞いだ。試合中少し空気が抜けるが空気を入れて使用されている。
サッカーは、戦略、戦術を磨くにの適している競技なので、領兵達の訓練に取り入れた。
長時間走って体力も鍛えられるし、味方との連携の重要性を実感できる。
領兵達には、遊びながらの訓練とあって、一際人気の高い訓練となっている。
それに、騎士団長のディールが小隊対抗戦を春秋にやると決めたものだから、テンションが爆上がりだ。
これを見て、領主代行のケビンも領内の有志チームでの大会をやることにした。
そんで俺もモコウ族のチームに参加したのだが、リフティングや股抜き、ヘッドシュートやカーブシュートなどを見本に披露したら、領民の皆から、英雄視され『ウルトラマン ジル』と呼ばれるようになった。
なんでウルトラマンかと言うと、騎士侍女のサラが『ジル様の英雄』って何って聞くから、『そうだな、ウルトラマンだな。』と答えたのが発端らしい。
またやらかしてくれたよ、脳筋のサラめっ。
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