第22話 父さま登壇 探検『トトロの杜』。
王都の屋敷に引っ越した二日後に、父さまの王城での『開発統制大臣』受任式があり、何故か俺とシルバラも参列させられた。
俺の宰相補佐官は、継続中だからだそうな。
参列するだけならと、父さまに付いて王城へと出向いた。
俺達が王城の謁見の間に入ると、陛下以外の宰相以下、大臣達が右手に。多数の高位貴族が左手に並んでいて、俺とシルバラは宰相の隣に並ばされた。
陛下が入場し、宰相が厳かに受任式の開始を告げた。
「グランシャリオ候爵、面を上げよ。
この度、そちを『開発統制大臣』に任ずる。
当大臣の権限は、宰相と同等とする。
陛下より、任命状を受け取りなされ。」
「慎んで、拝領致します。が、事前にお約束のとおり、大臣、貴族の方々が私の裁定に従わぬ時は、その時をもって当職を辞させていただきます。」
「皆の者、各自の主張を申し述べるのは良いが大臣が下した裁定に異議を申し立てることはならぬ。違反した者は、その任を解き隠居させ、二度と任を与えることはないと心得よ。」
「「「「「はははぁ。」」」」」
「聞いたな、グランシャリオ候爵。存分にそちの才覚を振るうが良い。期待しておるぞ。」
「以上で受任式を終える。グランシャリオ候爵は懇談室へ参られよ。ああ、ジル殿とシルバラ殿もな。」
げっ、まだあるのか。なんか嫌な予感しか、しないよ。早く帰って妹達と杜の探検しなきゃならないんだけどな。
懇談室には、陛下と宰相の他に、大臣達全員がいた。
「すまぬな。初めに基本方針を、大臣達に聞かせて置いてほしくてな。グランシャリオ大臣、よろしいかな。」
「構いません。されば、各地域や領地により、開発の進み度合いは千差万別と思います。
基本は、食糧の生産。従って農作物の栽培が優先ですが、主要穀物の栽培に支障がある土地では、代替えの産品が必要になります。
その代替産品は、農作物に限りません。
魚貝、或いは森の木の実や樹脂、建築材や薪としての燃料。商工品としては、陶磁器、金属製の農具や鍋釜などの生活用品などです。
あくまで、代替産品は農作物の栽培が上手く行かない場合の代替えの手段です。
それをないがしろに、代替産品の生産を優先すれば、他領から食糧の購入ができなくなった時に困窮することになります。
併せて行うべきことは公共施設の整備です。
道路や橋を始め、堤防や灌漑用水路、水道や井戸、下水道やトイレの整備は、生活を豊かにすと共に各種の産業の支援になります。」
「大臣、他領から食糧の購入ができなくなるとは、どのような場合かな。そんなことがあるとは思えぬのだが。」
「王国全土の不作、干ばつ、風水害、寒さによる冷害。或いは他国との戦争。絶対あり得なぬと工業大臣はお思いか。」
「たとえ、大災害などが起きても備蓄があれば乗り越えられると思うがの。」
「2年3年と続いてもですかな? 不慮の事態に備えるのが為政者の務め、工業大臣はそれを放棄なさるのかな。」
「いやっ、儂が浅はかであった。許されよ。」
「もし、根幹である食糧の生産を
食糧は、極力自領で賄えるようにしなくてはなりません。」
「ジルの言うとおりじゃな。民が農作を捨てて他の仕事に走るなど、恐怖の未来じゃわい。」
「誠に、我らは考えが足りませなんだな。
何でも開発すれば良いと思っておりましたがしっかりと未来を見ておらねば、大変なことになりかねませぬなぁ。」
「グランシャリオ大臣、そちの基本方針を理解したぞ。よろしく頼む。ジルも時々頼むぞ。」
げっ、父さまに任せて、楽ができると思っていたのに、陛下に釘を刺されちゃった。
俺、まだ9才だよ。遊びたい盛りなんだよ。
✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢
ようやく王城から帰ることができた。妹達は待ちくたびれていたらしい。
「
「おちょい、おちょい〜。」
「遅いでちゅ。罰でちゅ、にいにいのおやつ、あたちにくれることっ。」
あれぇ〜、セルミナ、へびの首ってどこだ?
きりんさんになるってのは、聞いたことがあるけど、この世界のことわざかなぁ。
トットは、ちゃっかり俺のおやつを奪う気だ。どうせ、甘いもの食べ過ぎって、セルミナに取り上げられるぞ。
「坊っちゃん、セルミナ様に首の長いものって何? と聞かれて困ったのですよ~。」
へっ、首長へびの犯人はお前かサラ。まったくお前は脳筋騎士だよな。セルミナに変なこと教えんなよっ。
妹達に手を引かれ、さっそく杜へと向かう。
俺の背丈の倍もある草の根元を踏めば、そこにトンネルの路ができる。
ちび達二人は夢中になって生い茂る草の中を進むが、俺達には狭過ぎ、セルミナとシルバラと俺の三人で踏み固めて行く。
いったいどこを進んでいるのかわからない。
だが、どうやら巨大な大木の根元に到着したらしい。えっ、こんな大木、あったっけな?
巨大な大木の周りは、陽が当らないせいか、芝草が生えている程度で、下から大木を見上げることができたが10mくらい上からは、大きく伸びる大木の枝に阻まれ、それ以上は、見通せなかった。
「これはきっと、この杜の神様だな。皆んなでお参りして行こう。」
「えっ、お参りって? どうすればいいの?」
「はじめまして、よろしくって。ご挨拶して、この杜と皆んなの屋敷を守ってねって。
それから、なにか一つだけお願いしてみたらいい。叶えてくれるかも知れないよ。」
(よちっ、むにゅむにゅ。トットが母ちゃまと夢の中で会えまちゅようにっ。)
(ごにょごにょ、天国にいる母さまが安らかに過ごせますように。)
(むにゅむにゅ。ジル君と結婚して幸せになれますように。)
(ほにょほにょ。ミウになんかくだちゃい。)
(むにゅむにゅ、俺の願いは秘密だよ。)
すると、ポトッ、ポトポト、ポトポトポト。
あれ、なんか落ちてきた。あっ、どんぐりだ。
「わぁ〜わぁ〜ぃ、ミウ、おねがいしちゃの。どんごり、どんごりっ。」
ミウがお願いしたらしい。落ちてきたどんぐりを、ミウとトット、セルミナも拾っている。
神様の贈り物かな。屋敷の傍に植えよう。
どんぐりを拾って、もと来た道のトンネルを戻った。
なのに、不思議なことに、着いた先は小さな池のほとりだった。薄暗いそこには、ホタルが光りながら飛び回っていた。
「わぁーぃ、わぁ〜ぃ、ホタルだ、ホタル。」
「えっ、何っ。ジル君、ここはどこかしら。」
「よくわかんないけど妖精の杜に来たみたい。
だって、昼なのに夜みたいに暗いもの。」
「え、えっ。妖精の杜? そう言えばあの蛍。なんか大きいみたい。」
「あっ、見て見てっ。妖精よ、妖精っ。」
シルバラの手の平の上には、蝶の羽を付けたとても小さな女の子が俺達を見つめていた。
ふ〜ん、妖精ってほんとにいたんだ。俺達、子供だから会えたのかなぁ。凄いなぁ〜。
「妖精しゃん、こんちゅわ。トットでちゅ。」
「ミウでちゅ、ミウ〜。」
「わぁ〜凄いっ。ジル君、妖精の杜に来たのよ夢みたいっ。」
「う〜ん、俺達皆んな夢を見てるんじゃないか。シルバラ、俺をつねってみて。痛っ。」
そこで目が覚めた。気がつくと大木の根元で皆んなで眠っていた。皆んなを起こして、大木に挨拶してトンネルを辿り、屋敷に戻った。
その日の夕餉に、昼間の不思議なでき事を、父さま母さまや侍女の皆んなにも話したけど、
『杜で寝てしまったのね。』と笑われた。
でも皆んなが同じ夢を見ることってあるの? 話した言葉まで一緒だよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます