第7話 侵略軍の正体と、進撃のジル。
上陸部隊の活躍とレジスタンス達の協力で、1万もの敵軍勢を葬ることができた。
しかし、まだ王城を包囲している敵の軍勢は3万余りもいる。さらに北部には4千、中部には6千もの軍勢が健在だ。
レジスタンスの者達の話では、北部、中部のナルト王国の残存兵力は、レジスタンスを含めてもその半数にも満たないという。
「ジル君、これからどうする。もう罠は利かないだろうし、陸上兵力は圧倒的に不利だぞ。」
にやりとしながら、王子が言う。おやおや、トリアス王子は勝つ気でいるぞ。
「兄様っ、全てをジル君に頼るのは止めてください。ここは私達の国なのですよ。」
「ははっ、わかっているさ。でもジル君の発想は画期的だしなぁ、わくわくしちゃうんだ。」
う〜ん、漫画の世界だと超兵器やロボットなんかが登場して、敵を圧倒するんだがなぁ。
戦国時代なら、案山子や角に火を付けた火牛の計か。この際、空飛ぶ魔法でも使うか。
「ところで殿下、侵略して来た敵軍の正体はわかったのですか。」
「うむ、捕虜にした敵兵士を尋問したところ、大陸の北にあるバルカ帝国の兵士とわかった。
だが、バルカ帝国がどんな国で、何の目的で我が国を侵略して来たのか分からん。
今まで国交など全くないし、商人さえ行ったとの話は聞いたことがないしな。」
「兄様、もしかして、1年前に漂流していた船を助けたことがありましたが、その船員達が城の銅葺き屋根を見て騒いだと聞きました。
彼らが黄金があるとでも吹聴したのではありませんか。」
「そう言えば、そんなことがあったな。漂流から助けた者達には、船を与えて国に帰したが、裏目に出たか。」
はぁ、この国の人って、善良ではあるけれど、危機管理が甘いよね。
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俺は犠牲は出るが、圧倒的多数のバルカ帝国の軍勢に勝つために、ナルト王城の城下の焦土作戦を実施することにした。
そのためには、城下に住む2万の住民を避難させなければならない。
その避難作戦はレジスタンスを通じて住民の数人に自宅から火災を出させることにした。
全ての住民に知らせれば、敵兵に漏れるし、住民には驚いて逃げてもらわないとならない。
俺は城下の風向きを調べ、町全体に火災被害が及ぶように念入りに出火地点を選んだ。
また、出火時刻も住民が逃げ出せるように、夕餉の済んだ宵の時間帯とした。町の各所にはレジスタンスの者達を配し、住民の避難誘導に当たらせた。
その日の宵の口、ナルト城下の各所で火の手が上がった。海から吹く微風の中、火の手は徐々に広がり人々は、泣き叫びながら町から避難した。
バルカ帝国の兵士達も、始めは火の手を食い止めようとしていたが、出火箇所が多く火の手の広がりを食い止めることを諦めて、郊外へと退避して行った。
火事から避難した住民達は、そのまま誘導されるままに、東海岸まで移動した。
そこには、レジスタンス達の手で臨時キャンプ地が築かれていて、住民達はバルカ帝国軍の殲滅と城下町の復興まで、共同生活を送ることになった。事前に城下町で調達された簡易テント暮らしである。
季節は晩秋であり、夜は寒く、避難した住民達は焚き火で暖を取りながら、トリアス王子とシルバラ王女の戦いの勝利を祈った。
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城下の火災は、夜通し燃え広がり、朝になり陸から海への風向きに変ってようやく、沈火に向った。しかし、既に城下の建物のほとんどが焼失していて、焼け野原が広がっていた。
この事態にバルカ帝国軍は、驚愕していた。
まさか城下町が焼失するなど、思ってもみなかったからだ。
もう、王城を包囲している場合ではない。
帰る船を失い、城下の住民達も何処かへ去ってしまい、兵糧の調達もできなくなった。
兵士達の士気はだだ下がりである。指揮官のシュルツ将軍は、最後の戦いを決意した。
この機会にナルト王国兵が王城から出陣して来るにちがいない。
それを迎え撃って、一気に王城を奪いナルト王家を滅ぼすしかないと。
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その頃王城では、ナルト王とセダン宰相が話していた。
「いやはやなんとも驚きましたなぁ、王子殿下からの伝令を聞いた時には、気が触れたのではないかと思いましたが、なるほど、町は焼けても再建すればよろしい。
まずは、バルカ帝国軍を滅ぼすことの方が、優先ですなあ。それにしても、我らには思いもつかぬ策、殿下と王女様の傍にはよほどの軍師が付いておられると見えます。」
「セダン、トリアスからの指示はわかっておるのであろうの。けっして調子に乗ってはいかんぞっ。」
「はい、撃って出ると見せかけて、敵勢を城門に集める策。隊長達に徹底してございます。
しかし、空から攻撃を受けるなど、バルカ帝国軍もさぞかし驚愕するでしょうなっ。」
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王城決戦のその日、昼前に王城の門が開かれて城兵3000が出撃した。
バルカ帝国の軍勢は、城下郊外に本隊を集めて迎え撃つ体制を整えていた。
ところが、城兵はバルカ帝国軍の遥か手前で引き返したのだ。バルカ帝国軍は、慌てて城兵を追い掛けるが、追いつく前に城に逃げ込まれていた。
追い掛けて来たバルカ帝国軍は、王城の城門前で立ち往生し、後方からの攻城兵器の到着を待っていた。
だがその時、幾人かの兵士は陰がさしたのを感じた。そして直後にあちこちで爆発と火炎が起こり、帝国軍のいる場所は修羅場と化した。
後方で、それを見ていたシュルツ将軍は、10個程の空を漂う物体を視認したが、それが熱気球で人が乗り、焙烙玉や火炎瓶をばら撒いているとは夢にも思わなかった。
それは彼にとって未知のものであり、そんな戦法は想像もしなかったからである。
3万もいたバルカ帝国軍は、思いもよらぬ攻撃に散り散りになって四方へ逃げて行った。
あとに取り残されたシュルツ将軍達は、再び出陣した城兵達に蹂躙され、最後を遂げた。
その後、王城の兵とレジスタンスの兵士達は中部のバルカ帝国の残兵を背後から襲い、散々に破ると、北部のバルカ帝国の兵士達も本隊が潰滅したことを知り、降伏した。
こうして、ナルト王国侵略軍は全て打ち払われたのである。
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