第6話 ワンピース軍の増援と、ジルの戦略。
ジル達が出発して2ヶ月、父親のアルは直後からジルの支援のために、投石機と黒色火薬のフル増産を職人達に命じていた。
また、漁村の漁や塩作りなどを画期的に改善し、貧しい暮らしから豊かに変えたジルに恩義を感じている漁師達は、今こそ恩義を返す時だとばかりに、漁を中断してまでもジルに教えられた中型の漁船を建造していた。その数20隻余、全てポンポン船の蒸気動力を備えた船だ。
そればかりでなく、30人余の牧畜民の若者達が領主のアルを訪ねて来た。
「領主様、俺達、ジル坊っちゃんを助けたいんですっ。どうか、ジル坊っちゃんの加勢に行く一隊に加えてください。」
「なんでまた、、、。」
「すごく貧しかった俺達の暮らしを、ジル坊っちゃんはチーズやバター、それに酵母作りなどを教えてくれて豊かにしてくれました。
おかげで、年寄りや子供まで仕事を与えてくれて、日々豊かな暮らしになっています。
そんな坊っちゃんが、幼いのに悲惨な王女様を助けるために戦っているんですっ。俺達だって、助けたいんです。」
「 • • • うむ、ジルも喜ぶだろう。命を粗末にしないで、ジルを助けてやってくれ。」
命じてもいないのに、漁船より規模の大きな船が20隻もでき、当初は領地の騎士団100名での増援を考えていたが、領内に志願兵を募ったところ、千名に近い志願者が現れてその選抜にシックハックしたのだった。
ジル達が出発してから3ヶ月後、騎士団副団長のディールが率いる中型船20隻、自ら志願した領民700名を含む総勢800名程の増援部隊がナルト王国に向って行った。
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如何に突然の急襲とは言え、ナルト王国の軍もただやられていた訳ではない。
最初に攻め掛かられ、まともに抵抗できなかった北部では山岳地帯に逃げ込み、ゲリラ戦を仕掛けながら反撃の機会を伺っていた。
また、敵襲の一報から籠城して堅固に敵軍と対峙した中部のガルシア伯爵は、周辺の農民達のレジスタンス達と連携して戦い続けていた。
オリバー団長のおかげで、南部のナルト王国城下に潜むレジスタンス達と連絡を付けることができた俺は、ナルト王城へ食糧武器の供給を果たし、王城に士気をもたらすことができた月と思う。
また、トリアス王子殿下の船との邂逅もできて戦力倍増になり、残るナルト城下湊の敵艦隊攻撃の作戦を練っていた。
そんな最中、夜も更け始めた頃に遠い夜空に小さな大輪の花火が煌めいたのを見張りの兵が見逃さなかった。
グランシャリオ領の船が来たに違いない。
俺は断続的に花火を上げさせると共に花火が見えた方向に船を走らせた。向こうもこちらの花火に気づき、断続的に花火を上げて来た。
そうして、夜明け近くに父さまの寄越してくれた増援部隊と無事邂逅したのだ。
20隻もの船と1千名もの増援に驚いたが、これで地上戦も戦えると思った。
それで立てた作戦はこうだ。まず、港湾の攻撃は俺達の船で行い、敵船の注意を引き付けたところで逃亡する。
敵船が追跡に移ったところで、岬に隠れていた中型船10隻で後方から包囲殲滅する。
また、その間にトリアス王子殿下の船を旗艦とした10隻の中型船で湊を攻撃し、兵士500名を上陸させ敵を引き付けて、北へと誘導する。
北部の山間へと引き込み、そこに地雷原を設けて、敵の軍事を一気に殲滅するのだ。
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その日、晩秋の空は晴天なれど波高く、操船や射撃に困難をきたす日和だった。
そんな天候をものともせずに、決戦の火蓋が切って落とさられた。
俺達は、湊の入口で待ち構える2隻の見張り船に向かい、攻撃を加えた。
2隻は敵襲を報せるドラを叩き続け、大音声を響かせながら、火矢で攻撃してきたが揺れる船上では狙いが定まらず、俺達の接近を許して火炎瓶の餌食となった。
その日に湊からは、用意の整った敵船が次々と出港して来た。その数、40隻余り。
俺達はその先頭の二隻に軽佻な被害を与えると、踵を返して沖合へと退却した。
たった一隻、風は追い風。逃すものかと迫って来るが、お粗末にもバラバラに突出して来るので、飛び出して来た船に突然転換して向い、しこたま焙烙玉と火炎瓶を食らわす。
それを三度繰り返し、5隻を炎上大破させたところで、岬に隠れていた10隻が敵船の後方を囲み攻撃を開始した。
後方からは追い風である。蒸気動力で加速した味方の船は、あっという間に敵船に接近し、焙烙玉と火炎瓶の投石で火達磨にして行く。
一撃のあとも慌てふためく敵船を次々と炎上大破させ、一隻残らず海の藻屑とした。
その頃、湊では出て行った敵艦船に替わり、トリアス王子殿下率いる味方艦隊が敵兵を掃討しながら、500名の部隊を上陸させていた。
指揮を取るのは、王子配下のバラド近衛師団副隊長だ。
作戦どおりに、ナルト王城を包囲する軍勢の後方部隊に手投げ焙烙玉や火炎瓶で被害を与えると、北東の山間を目指して退却する。
ただの退却ではない。一定距離を退却すると隊形を組み、ボウガンの一斉射撃で甚大な被害を与えているのだ。
また、グランシャリオから来た、たった30騎の畜産農家の若者達の騎馬隊だったが、敵の先陣の後方を焙烙玉を投げながら、馬の蹄で蹴散らし駆け抜けて行って、敵の追撃を遅らせていた。
そんな中で、上陸部隊を躍起になって追った敵の1万の軍勢は、罠を仕掛けてレジスタンス達が待ち受ける山間の窪地にまで来た。
窪地の先には、丘の斜面に幾つもの塹壕が掘られた陣地が構築されていて、敵の軍勢は進撃できずに立ち往生し、後方から来る兵士が詰まって、窪地は溢れんばかりの混雑となった。
その時である。バラド近衛指揮官の合図の下、一斉に火炎瓶の投石が開始された。
火炎瓶が投下された地点は、火炎瓶の業火ばかりでなく、次々と地中に埋め込まれた焙烙玉に引火して、爆発の嵐に包まれる。
爆発の嵐が治まった後には、おびただしい数の死傷者が、ただ倒れ伏していた。
「バラド様っ、作戦どおりとは言え、凄まじいものですね。もう、敵の軍勢には王城を攻略する兵力は残っていないでしょう。」
「うむ、欲を言えば、もう少し多くの敵兵に来て欲しかったがな。」
「それは贅沢と言うものですよ、わずか500余の軍勢に1万も喰いついてくれたのですから、大成果ですっ。
しかし、この死骸の山。どうしたもんですかね。」
「穴を掘って、埋めるしかあるまい。」
「はぁ、戦いよりたいへんですよ~。」
ぼやく副官を尻目に、革新的な戦法を駆使する『キャプテン ジル君』に驚愕しつつ、勝利を確信するバラド近衛師団副隊長であった。
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