第5話 キャプテンジル 気分は『ワンピース』

 シルバラ王女の船は、真っ黒塗りに改装して俺の作成した髑髏の海賊旗もたなびかせながらグランシャリオ領を船出した。

 俺達の正体を隠すために、配下の者達には、俺のことはキャプテン、シルバラ王女様のことは姉御、オリバー騎士団長のことは兄貴と呼ばせることにした。

 ついでに、中世ヨーロッパ風の上下服とパイレーツハット(三角帽子)で身を固めた。

 全体の衣装は『パイレーツオブカリビアン』

がモデルだ。 さらに、シルバラ王女には隻眼の眼帯を付けてもらい、全く正体がわからないようにした。



 ナルト王国に攻め寄せた軍勢は、3か所から上陸したらしい。ナルト王国の地理に詳しい、オリバー団長を水先案内で、東部海岸を北上し一番遠方の上陸地点、ハルビの港から襲撃することにした。

 俺達の正体を少しでも明かさないためだ。


 ナルト王国は、南北800km余の細長い島国で日本の関西から東北のような大きさである。

 ハルビは日本で言えば、秋田の辺りに位置するナルト王国北部の拠点だという。

 俺達は、ナルト王国の東部海岸を20日以上掛かって北上した。この間、山間の中小の川を見つけては貴重な飲水を補充した。

 

 そしてついに1ヶ月余にして、ハルビ沖合に到達したのである。

 ハルビの少し手前から偵察隊を上陸させて、ハルビの町や港の敵艦隊の様子を探った。

 町は敵兵が闊歩して統治されており、港には大小30隻余の敵船が停泊中。その半数は商船であり、大型の軍船は14隻とのことだった。

 俺は、波も穏やかな早朝の襲撃を決行した。


「総員戦闘配置っ。戦闘員は種火の松明に点火して、焙烙玉と火炎瓶を用意せよっ。投擲機は近くの敵船から攻撃開始っ。」


 指示するまでもなく、甲板には兵達、否海賊達が立ち並んでおり、既に攻撃の準備を終えて攻撃開始の号令を、今か今かと待っていた。

 俺達の海賊船は、水平線からの朝日を浴びながら、音もなく滑るように港に入り、停泊中の軍船に近づいて行った。


「総員戦闘開始っ。効率良く炎上させろっ。」


 停泊中の軍船に近づくと、縄紐を付けた手投げ式の焙烙玉と火炎瓶を浴びせ、次々と敵船を炎上潰滅させて行く。

 停泊中の敵船には、少数の乗組員しかいないようで抵抗がわずかだ。弓や火矢で刃向かって来る者には、ボウガンの集中攻撃を浴びせる。

 投擲機隊も、近接する軍船を容赦なく攻撃を浴びせて、港内を一周すると全ての敵船が炎上していた。

 岸辺では敵兵達が大勢で『わぁわぁ』叫んでいるのが見える。でもあとの祭りだ。船がなくては追って来れない。


 俺達は、敵の伝令がハルビの襲撃を報せる前に、二ヶ所目の襲撃場所、ナルト王国中部の港ニルガを襲撃した。

 港には敵艦隊の軍船30隻余が停泊していたが早朝の襲撃により大多数を炎上大破させた。

 この戦いでは、敵軍船の数が多かったために動き出した6隻の軍船と戦闘になったが、投擲機の焙烙玉の圧倒的な威力により、難なく6隻全てを潰滅させて終わった。

 俺達の船は、追われている最中に突然、蒸気ポンポン動力で、転舵倍速の加速をしたから、敵船は対応できずに一瞬の接近で攻撃を浴びて炎上し、やがて海の藻屑となって行った。


 しかし本当の戦いはこれからだ。次は南部にいる敵本隊にこの襲撃の報せが届いているだろうし、港の敵軍船も戦闘準備をして待ち構えていることだろう。

 なにせ、俺達は敵の陸上兵力の数万とは戦いにもならない少数なのだから。




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 ナルト王国の南部にある王城では、5ヶ月にも及ぶ籠城戦で疲弊困憊していた。

 当初2万の将兵で籠城したが、既に戦える兵力は8千まで減少し、それも無傷ではない。

 辛うじて一緒に籠城した住民達の加勢で凌いでいるが、食糧も残りわずかとなっていた。


「頼みの中部ガルシア伯爵からの援軍は来ぬか。だとすれば、食糧が尽きれば降伏しかありえぬか。」


 そのナルト王のつぶやきに、周囲の者達も重苦しく沈んでいた。

 その時である。広間に伝令の兵がけたたましく駆け込んで来た。

 

「申し上げますっ。街に潜む者達からの報せにございます。

 過日、北部ハルビと中部ニルガの敵艦隊が襲撃を受け、潰滅したとのこと。そのため敵軍に動揺が起きているとの報せにございます。」


「なんと誠か。どこの艦隊か分からぬのか。」


「それがどうもたった1隻だとか。国籍不明の髑髏の旗を掲げていたとか。よく分かりません。しかし、敵艦隊が殲滅されたのは、間違いありませんっ。」


「「「おおっ、神の助けだっ。」」」



 その報せから5日後の深夜、王城には200名余の街に潜む女子供を含むレジスタンスの者達が到着していた。

 彼らは手に手に小麦粉の大袋や肉野菜、調味料などの食糧を抱え、さらには一人5〜6丁のボウガンを背負って持ち込んでいた。

 この到達に、王城は一気に活気づいていた。


「おおっ、その方達。これはどうしたというのだ。いずれからの援軍なのか。」


「陛下、お聞きください。ハルビ港とニルガ港で、敵の艦隊を殲滅させたのは、シルバラ王女殿下の船にございます。

 シルバラ王女殿下は、隣国のグランシャリオ領に辿り着き、領主の庇護を受けられました。

 そして国交のないトランス王国の援軍は得られませなんだが、グランシャリオ騎士爵のご子息の加勢を受け、このナルト王国の危難に立ち向われました。

 グランシャリオ騎士爵のご子息のジル殿は、魔法と進んだ知識をお持ちの天才で、たった、一隻の船で敵艦隊を殲滅させて見せたのです。

 次はこのナルト城下の港を、襲撃するそうにございます。

 されば、この食糧で英気を養い、ボウガンの訓練を積み、反撃の準備をされたいとのことにございます。」


 報告のあと、レジスタンスの者達によって、パンが焼かれ、うどんが打たれて城内の人達に振る舞われた。

 その極上の味は、空腹だった皆に希望と笑顔をもたらした。




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 その頃、ナルト城下港の北方海上では、二隻の船の邂逅があった。


「殿下、正体不明の船が一隻現れました。

 こちらに向って来ますっ。」


「敵船か、戦闘準備しろっ。」


 一隻はトリアス王子の船であった。トリアス王子達は、東方の海上を進んだが、行けども、行けども海ばかりで、やっと見つけた無人島で3ヶ月を過ごしたが、これ以上東に進んでも、外国に辿り着けるかどうか分からないし、辿り着けたとしても、亡命を受け入れてくれるか不明だ。ましてや援軍を送ってくれる可能性は、皆無に等しい。 

 それならば、本国に引き返して敵わずと言えども戦って、一矢報いることを選らんだのだ。


「姫様、あれはっ、この船と同型の兄弟船っ。トリス王子の船に間違いありません。

 姫様のご無事をお報せせねば。誰か、姫様の御旗を持って参れっ。」


「殿下っ、旗が振られています。あれはっ。

あれは、シルバラ王女殿下の御旗にございますっ。」


 こうして奇しくも邂逅した王子と王女の船は王子の船に武器を供与し、二隻でナルト城下の港を攻撃することになった。

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