第15話(1) ボウリング

「お疲れ様会をやります」


 休み時間、私の元を訪れた木野さんが、開口一番そう宣言をしてきた。


「お疲れ様会? って何?」

「ほら、もうすぐ一年生が終わっちゃうでしょ? だから」


 なるほど。それでお疲れ様会。クラスも分かれるし、といったところだろうか。


 メンバーを聞くと、いつもの面子めんつの名前ががった。

 木野さん、秋元さん、高城さん、藤堂さん、桧山さん、そして松嶋さんの計六名。顔馴染なじみのメンバーばかりだ。


「というわけで、二人もどう?」

「いつの話?」


 参加をするもしないもまずは日時次第。そこが合わなければ、いくら参加をしたくてもしようがない。


「具体的な日時はまだなんだぁ」


 そう言って木野さんが、私の机にアゴを乗せしゃがみ込む。


「とりあえず今決まってるのは、春休み入ってからやるっていうのと部活の時間は避けるっていう二つだけ」

「そっか」


 しかし、この状況はむしろ私達にとっては好都合。日時の当たりが付いていないのなら、その分融通ゆうずうが効きそうだ。

 まぁ、なんにせよ、こちらの要望を伝えてみない事には始まらない。


「私は火曜と金曜の午後と日曜の朝から夕方までは予定入っちゃってるけど、それ以外なら参加出来るかな。あ、後、二十七日も」


 危ない危ない。大事な用が抜けていた。これを忘れたままにしたら、ソフィアちゃんに怒られてしまう。すんでのところで思い出して良かった。


「早坂さんは?」

「私から言う事は特にないわ。いおが良ければそれで」


 木野さんの問い掛けに、ソフィアちゃんはそうクールに応える。


「なら――」


 と木野さんが、勢いよく立ち上がり言う。


「水瀬さんの予定をこーりょに入れて、みんなで日時を相談してみる」

「あ、うん。ありがとう?」


 その圧に押された私は、なぜか疑問形でお礼の言葉を発する。


「内容は、ボウリング、カラオケ、ファミレスを予定してるんだけど、二人は大丈夫そう?」

「私は大丈夫」


 ボウリングなんて今年に入って一度も行っていないが、前に投げるだけならまぁなんとかなるだろう。


「私も大丈夫、だと思う」


 だと思う? もしかしてソフィアちゃん……。


「良かった。早速みんなに伝えてくるね」


 言うが早いか木野さんは、「じゃあね」と私達に手を振り秋元さん達の元に掛け寄っていく。


 猪突猛進ちょとつもうしん。というより、ワンコ? どちらにしろ、木野さんがひどくぐな性格をしている事は間違いない。うらやましい反面、自分には真似まね出来ないなとも思う。


 それはそれとして――


「ソフィアちゃんってさ、もしかしてボウリングやった事ない?」


 視線は木野さんの方を向いたまま、私は今しがた思い付いたばかりの推理を披露ひろうする。


「失礼ね。やった事ぐらいあるわよ。……大分前だけど」

「大分前っていつ?」

「十年くらい前」

「それは……」


 やった内に入るのだろうか。


 余程才能のある子でなければ、その当時のボウリングなんて本当にお遊びで、ガターが存在していたかどうかさえ怪しい。


 ちなみに私は、ガターのないレーンでボールを投げていた――というより、転がしていた。上手うまく指が抜けなかったため、そうする他なかったのだ。というか、小学校低学年なんて、みんなそんなものだろう。


「ソフィアちゃん。お疲れ様会の前に、一度ボウリング行こうか」


 遊びと言えど、ある程度の基礎は必要だ。でないと、みんな・・・で楽しめない。


「……そうね。久しぶり過ぎてかんにぶってる可能性もあるし、予習は必要よね」

「いや、うん」


 そういう事にしておこう。


 まぁ、ソフィアちゃんなら、一ゲームもこなせば人並み以上のパフォーマンスはすぐに出せるようになるだろうけど。それどころか、いきなりストライク連発したりして。さすがにソフィアちゃんでもそこまで非常識ではないか。……ないよね?


「今度の土曜日とかどう?」


 気を取り直して私は、そうソフィアちゃんに提案する。


「いいんじゃないかしら。特に予定はないし」

「じゃあ、決まり」


 実のところ私も、ぶっつけ本番で当日を迎える事に少なからず不安を覚えていたので、その前に練習が出来るのは正直有難ありがたい。


「いおは、ボウリング上手いの?」

「普通、かな。下手ではないと思う」


 と言っても、仲間内での評価なので、世間一般のそれとは多少ズレているかもしれないが。


「ストライクは?」

「一ゲームに一つ取れたらいい方かな。スペアは何個か取れるけど」

「へー……」


 私の答えに対し、ソフィアちゃんが微妙な反応を示す。

 自分で聞いておきながら、基準がいまいち分からなかったようだ。


「普通はそんなもんだから」

「ふーん」


 この感じ、絶対分かってないな。……まぁ、別にいいけど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る